本という贅沢。13

女の余裕は手持ちの武器の多さに表れる

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。7月のテーマは「女を磨く」。ミレニアル世代におすすめの一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。13

『美しい女性(ひと)をつくる言葉のお作法』(吉田裕子/かんき出版)

「知る」というのは、不可逆な行為です。
一度知ったら、知る前の状態に戻ることはできない。だから、なんでも知ればいいというわけじゃないし、知ることで何かを失うケースもあります。

だけど、その逆バージョンもありまして。
知っといて絶対損はない、だからさっさと知っておいた方が良いという分野もあります。
そのひとつが、これ。「美しい言葉の使い方」。

若さで無作法が許される20代レースが終わったら、意外とシビアな30代レースが始まります。そんなレースを走りきる武器として、「美しい言葉」は、早めに持ち物リストに入れた方がいいやつです。
私は、30歳の頃、それとは知らずに先輩に失礼な言葉遣いをしてしまったことをずっと根に持たれていたらしく、昨年その先輩から10年越しの復讐をされたよ。結構な痛手を負いました。だから、正しく美しい言葉は、早い時期に手に入れておいた方がいいです。

この本は、ある言葉を伝えるときに
・レベル3 学生レベルの表現
・レベル2 文法的に間違いのない表現
・レベル1 改まった時に使う美しい表現
の3段階に分けて指導してくれる本です。

正直なところ、レベル2の言葉を知っていれば事故はないと言えます。この本を、レベル3からレベル2にランクアップするための本として使い倒してもいいでしょう。
実際のところ、レベル1の表現(例えば、「いつもありがとうございます(レベル2)」ではなく、「佐藤様のお眼鏡にかない、光栄です(レベル1)」)を毎日使う職業の人は、そこまで多くないかもしれない。

でも、ここがポイントなのですが、レベル1の表現を「知っている」ことは、不思議なことに私たちに「女の余裕」を与えてくれます。
いざという時に、スペシャルビームを発射できる準備のある女は強い。レベル1の表現を使わないにしても、「それを知らないわけではなくてよ」という余裕は、必ず日常の振る舞いににじみ出るものなのです。
その余裕は自信となり、あなたを内側から照らして輝かせてくれる。内側から輝くのって、メイクでいうと「素肌が綺麗」みたいなものなので、かなりお得だと思います。

そしてもちろん時々、実際にスペシャルビームを繰り出してみるのもいいでしょう。
余裕の笑みを浮かべ、焦らずキョドらず、「恐れ入ります」とか「もったいないお言葉です」とか「2日の御猶予をいただけないでしょうか」など、さらっと言える女性は、やっぱり戦闘能力が高い。美しい言葉を自然に使える人は、それだけで一目置かれますよね。

この本の素敵なところは、単に教科書的に正しい日本語を教えてくれる本ではないところ。言葉の語源や歴史を紐解いて解説してくれているので、丸暗記や付け焼き刃ではない「言葉の真髄」に触れることができます。読み物としても面白いし、美しい言葉と一緒に教養も深くなっておすすめですよ。

  • 著者の吉田裕子さんのベストセラーといえば10万部を突破した『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』です。私が好きなのは、その続編、『大人の言葉えらびが使える順でかんたんに身につく本』。漫画感覚で読みながら、ちょっとおしゃれでクレバーな表現を身につけることができますよ。

それではまた来週水曜日に。

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。