太田彩子の「キャリアを上って、山に登る」

劣等感やコンプレックスは“克服”できない。20代の自分に今伝えたいこと

「こんなに頑張って働いて、何の意味があるんだろう」。ふと頭をよぎるこんな疑問。尽きることのない悩みや不安のその先には、何があるのでしょうか。

●太田彩子の「キャリアを上って、山に登る」03

 今年42歳になる先輩女性、太田彩子さんは、まさに“バリキャリ”な女性でした。リクルートのトップセールスとして活躍後、株式会社ベレフェクトを起業し、日本最大級の営業女性コミュニティ「営業部女子課」を主宰。ほかにも社外取締役など多岐に渡る活動をしています。プライベートでは21歳で出産、のちに離婚を経験しひとり親に。ここ数年は海外遠征をするほど本格的に登山に取り組み、昨年には心理学を研究するために筑波大学大学院に入学しました。

 そんな彼女に、これまでを振り返ってもらう本連載、太田彩子さんの「キャリアを上って、山に登る」。第3回目は、「20代の仕事」について伺います。

仕事をする理由は「生きるため」だった

  最初は仕事のやりがいなんてなくて、働く目的はお金でした。

 その頃は生きるために働いていた感じです。学生結婚して、卒業後は専業主婦になりました。どうにか就職しなきゃとあわてて仕事探しを始めたけど、結果は全滅。不採用通知がくるたびに、子どもを寝かしつけたあとに布団の中で大泣きする日々でした。

  子どもがいると仕事を得にくいという現実を当時は突きつけられましたが、そんななか、唯一採用された会社がリクルートです。ただ、営業として入社したものの、何をしていいのかが分からない。成果なんて全然出ないし、覚悟が決まってなくて、まだ逃げ場があるような気がしたんでしょうね。半年後、逃げるようにして退職してしまいました。

  でもひとり親になってしまい、いよいよ切羽詰まりました。そんな頃に上司とばったり再会して、「ホットペッパー」の立ち上げメンバーに誘ってもらいました。上司いわく、目つきが違ったそうです。親に頼るわけにもいかず、私が子どもの面倒を見なきゃいけない。まだ小さな子どもを路頭に迷わすなんてことはできないし、ようやく本腰が入ったんですよね。その上司からは、「経験ない、お金ない、子どもいる、ひとり親である。四重苦の女は強い。お前はすべて合致しているから辞めないだろう」って言われました(笑)。

コンプレックスだらけだった20代

  こうして仕事に真剣に取り組むようになりましたが、その頃はコンプレックスだらけでした。

  まわりの友だちはいい会社に入ってそれなりに稼いでいるのに、私は何一つ結果を残せていない。そもそもビジネスのイロハも教わっていないし、キャリアはだいぶ遅れを取っているんです。それに、合コンしたり、旅行に行ったりといったプライベートの楽しみも私にはないわけです。

  今から思うと不思議なんですけど、子どもがいることも大きなコンプレックスだったんです。仕事を奪われるんじゃないか、子どもの病気で時間に遅れたり休んだりすることで、仕事ができないやつに見られるんじゃないか。引け目を感じていて、子どもがいることを堂々と言えなかった。

  ひとり親ってことも当時は恥ずかしく思っていました。「あなたの我慢が足りなかった」と言われてしまうのも分かっていましたし、子どもにつらい思いをさせてしまっているという気持ちもありました。

コンプレックスを敵視せずに受け入れるには、成果を出すこと

  思い返せば20代の頃はコンプレックスを払拭することばかりを考えていたんですけど、子どもがいることも、育てていかなければいけないことも、人よりキャリアが遅れていることも、全部変えられないんですよね。結局、コンプレックスとはうまくつき合うしかないんだと思います。

  コンプレックスを受け入れるのは難しいし、時間もかかります。ちょっと元気になったかな? と思っても、またぶり返します。だからこそ、敵みたいに対峙して克服しようとするのではなく、受け入れること。そしてそのために有効なのは、小さくてもいいから成果を出すことだと思います。

  私がコンプレックスを受け入れられるようになったのは、20代の後半でした。仕事で結果が出始めて、初めて他者に認められた気がしたんです。それまでは自分のアイデンティティがなかったんですよね。働かざるを得ないから、ふわふわと働いていたけど、顧客から感謝されたり社内表彰を受けたりといったフィードバックがあって、初めて自信が持てた。

  最初は小さな自信だったけれど、これで間違ってないのかなって思えると、人って頑張れるんですよ。そのとき初めて、仕事が面白いと思うようになりました。それまではずっと「仕事はお金のため」だったけど、逆転し始めたんです。お金はもちろん大事ですけど、やりがいや働く意義がお金を上回りました。

  何か一つでも、「自分で成し遂げたぞ」って経験があれば、自己効力感が高まります。自己効力感とは、「自分はできる」というような、自分に対する信頼感のこと。つまり、成果を出す達成経験が自己効力感を高め、自信につながるわけです。

  コンプレックスを敵視しないこと。それも上手く受け入れて、付き合っていくこと。小さくてもいいから努力して成果を出すこと。コンプレックスの塊だった20代の私に、伝えてあげたいですね。

リクルートの営業職として活躍後、2006年株式会社ベレフェクト設立。2009年より、日本最大級の営業女性コミュニティ「営業部女子課」を主宰。専門は働く女性や女性営業職の人材育成・キャリア開発。
2009年に株式会社キャリアデザインセンターに入社。求人広告営業、派遣コーディネーターを経て、働く女性向けウェブマガジンの編集として勤務。約7年同社に勤めたのち、会社を辞めてセブ島、オーストラリアへ。帰国後はフリーランスの編集・ライターとして活動中。主なテーマは、「働く」と「女性」。
1986年週刊朝日グラビア専属カメラマン。1989年フリーランスに。2000年から7年間、作家五木寛之氏の旅に同行した。2017年「歩きながら撮りながら写真のこと語ろう会」WS主催。