妊婦の有栖(福原遥)に対する学生の狭量さ。“逃げ”の行動は悪なのか? 『18/40~ふたりなら夢も恋も~』4話
現実と夢の橋渡しをする父・市郎の覚悟
時に人は「やってみないとわからない」という言葉に、勇気をもらう。新しいことにチャレンジするのはこわい、未知の世界に飛び込むのは不安。だけど実際は「やってみないとわからない」だろう。言葉ひとつで人は背中を押されるし、前にだって進める。
しかし、有栖(福原)の言う「やってみないとわからない」は、あまりにも不確実性に満ちている。ましてや出産や育児に「やってみたけど、ダメでした」は通じない。
前話でついに父・市郎(安田)に妊娠していることを告白した有栖。出産まで瞳子(深田)の元で世話になることを許す条件として、市郎が提示したのは「大学を休学すること」だった。しかし、有栖は休学せずとも済むよう、そしてキュレーターになる夢を諦めずに済むよう、ノートいっぱいにびっしりと“計画”を綴(つづ)っていた。
出産予定日の11月14日までに、何単位取れるか。何曜日を休みにできるか。休学せずに出産、育児ができるようシミュレーションしていた有栖。しかし、それが計画通りに進まないこともあるだろう。彼女が必死になればなるほど、背景に「机上の空論」という言葉が浮かんできてしまう。
市郎は現実的な青写真を提示してくれた。子どもを産んで育てることと、キュレーターになる夢を追うこと。少し遠回りにはなるけれど、諦めずに済む現実的な道を提案してくれた。市郎が話すそばから首を振り、拒絶する有栖の心理とは。これではただ、自分の思い通りにならないことに対して駄々をこねている子どもに見えてしまう。
あまりにも幼稚な大学生の描写は、社会の投影か
有栖が通う大学では、少しずつ、彼女が妊娠している噂(うわさ)が広まり始めていた。授業開始前、たまたま居合わせた学生が、無許可で有栖のおなかの写真を撮って仲間内で広める。あまりにも下世話で幼稚な描写は、社会の有り様を投影しているのか。
昨今、「歪(ゆが)んだ自己顕示欲のあらわれ」なのか、思慮に欠けた動画がSNS上で拡散され、いわゆる“炎上”といった現象につながるケースがみられる。このドラマで描かれた学生たちの様子も、人に対する礼儀に欠けていた。その場から離れたいと思う有栖の心理は、おそらく覚えがある人もいるのではないだろうか。
教室を出ようとした有栖に対し、黒澤祐馬(鈴鹿央士)は「どこ行くの? 逃げんな」「有栖はなんにも悪くない。だから逃げるな」と止める。この発言に、少しの違和感が残る。有栖が妊娠していることは事実だ。その件で糾弾されるいわれは、確かにない。堂々としていればいい、と言う彼の気持ちは理解できる。
しかし、自分へ向けられた悪意から距離をとるのは、心を守るために必要な行動だ。有栖のとった行動は“逃げ”ではないし、そもそも、仮に“逃げ”だからといって、それが悪いことなのか。メンタルケアとして当然の行動に、勝手な正義感を振りかざされる側は、どうしようもない行き違いに苦しめられることになる。
箸休めの癒やしをくれる、瞳子と息吹の恋愛模様
妊婦に対する周囲の態度を、まざまざと見せつけられるなかで、箸休めともいえる癒やしをくれるのは瞳子の恋愛模様だ。
瞳子に対し、加瀬息吹(上杉柊平)は真っ直ぐな素直さでアピールする。そこに曲がりくねった駆け引きなどはなく、瞳子もまんざらでもない雰囲気。彼女からみた懸念点は「相手がひとまわり年下なこと」になる。けれど、令和に制作されるドラマで、年の差を恋愛の障壁とする描き方はしないだろう。
瞳子を演じる深田恭子自身の年齢も40歳。『ダメな私に恋してください』(2016・TBS系)や『初めて恋をした日に読む話』(2019・TBS系)など、恋愛ドラマのヒロインとして作品を象徴し続けている。そんな彼女が演じる役柄に対して、年齢の話ほど無粋なものはないと感じさせられる。
1人で子どもを産み、シングルマザーとして育てていく決意をした有栖と、子どもを望みながらも叶(かな)わない現実に向き合いながら、小さな恋の予感に揺れる瞳子。二人の生き方が対比的に描かれることによって、見る側にも、未来に対する柔らかな選択肢を与える。
人は、それぞれに置かれた状況を注視しながら、その瞬間に適切だと思えるカードを選んで生きていく。「配られたカードで勝負するしかないのさ」と言ったおなじみの犬のキャラクターが、ふと脳裏に浮かぶ。
TBS系火曜22時~
出演:福原遥、深田恭子、鈴鹿央士、上杉柊平、出口夏希、長澤樹、八木勇征、嵐莉菜、美村里江、松本若菜、髙嶋政宏、片平なぎさ、安田顕ほか
脚本:龍居由佳里、木村涼子
音楽:吉俣良
主題歌:Ado「向日葵」
プロデュース:韓哲、荒木沙耶、内川祐紀
演出:福田亮介、松木彩、宮﨑萌加
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