さとゆみ#174 愛と皮肉と自虐とユーモア。そして、毒。にしおかすみこさんの『ポンコツ一家』がすごい
本という贅沢#174『ポンコツ一家』(にしおかすみこ/講談社)
ライティング講座なるものをしているワタクシ、「話が面白いからといって、面白い文章が書けるとは限らない」を、よく体験している。文章に関していうと、以下の特徴的2タイプがいる。
①普段のおしゃべりは面白いのだけれど、いざ文章となるとその饒舌がぴたっとおさまってしまって、普通の文章になってしまう人。
②普段のおしゃべりは普通だったり常識的だったりするのに、いざ文章となると、人が変わったように面白い表現が溢れ出てくる人。
①は意外と多い。こういう人は、ライターになるよりも、経営者になったり、講師になったりする方が稼げるのではないかと思う。ちなみに、私も、「文章よりしゃべりの方が面白い」とよく言われる。ライターとしては相当致命的だと思う。
②のタイプは、あまりお目にかかったことがないのだけれど、でも数少ないタイプ②の方々は、全員超人的な表現力の持ち主だった。文章の神様がべったり子泣きじじいみたいに背中に張り付いている。そういう人たちなのだ。
このタイプ②の代表格が、にしおかすみこさんです。
かつてSM女王に扮していたこの方と、私、仕事の現場で7年前にお会いしました。
SMの女王のイメージが強かったので、結構ビビりながらお会いしたせいもあるけれど、拍子抜けするくらい「めちゃくちゃ感じのいい美人のお姉さん」でした。
その後も、何度か長丁場のテレビロケをご一緒する機会があり、髪型についてアドバイスさせていだいたり(ショート、素敵ですよね)、ついにはプライベートでもご飯をご一緒するほどにもなったのだけど、「なぜあのSM女王キャラクターで世の中に出ていったのか」と、会うたびに謎が深まる。
仕事では、ボケもツッコミも両方こなされるし、現場をどっかんどっかん笑わせたり、失笑させたりしているけれど。ロケの合間におしゃべりしているときは、いたって常識的で優しい物言いをされる方。せちがらい芸能界で、なんてちゃんとしている方なのだろうなどと思っていたワタクシです。
が、その印象がちょっと変わったのが、にしおかさんの原稿を読ませていただいたときのことだった。
「文章を書きたいと思っている」とおっしゃるので、「よかったら、書いたものを読ませてください」とお願いした。それを見て、私は2度びっくりした。
まず、「びっくりしたこと」その1。
原稿が手書きで、しかも原稿用紙に書かれていたこと。クラシカルだ! めちゃくちゃクラシカルだ! これに私は、萌えた。
次に、「びっくりしたこと」その2。
何気ない日常生活を描いている文章なのに(まだ実家暮らしをされる前のことだった)、表現がとても個性的だということ。いや、表現が個性的というよりも、観察が個性的なのかもしれない。
私たちの目には見えていない、言うならば「とりこぼししている」日常が、そこにはあった。「うわーー、わかるうう」と思ってしまう、誰にもあるような日常。だけど、その日常をちょっとシニカルに、そしてユーモラスに、斜めから見ると、こんな表現になるのか!!
読んでいる間じゅう、ずっとくすくすくすくす笑っていた。
常識的な方だな、と思っていたけれど、常識的なのは人への接し方のほうだけで。モノの見方は、全然普通じゃなかった。
そうか、あの毒舌キャラは、にしおかさんの中にまったくない要素ではないのだな。この「気づき」の鋭さが、「共感を呼ぶ毒舌」に昇華されていたのだな。そんなことを思った。
なるほど、そこが、気になるのか。
うわあ、それ、見逃していた。
そんな「ちくり」と刺さる表現がてんこもりだった。
しかし、文章が情け深いから傷つけられたりはしない。
なんだ、この絶妙バランス!
そして私は、にしおかさんに、「絶対書き続けてほしい!」と、伝えた。
・・・・・・・・・・
コロナになって、テレビの収録が減り、にしおかさんと会う機会も減った。
でも、ときどき会えたときは、ちらりちらり近況報告を聞いていて、最後から3回目に会ったときが「実家で暮らすことにしたんですよねー」で、最後から2回目が「連載を始めたんですよー」で、最後に会った時には、「書籍のゲラってどれくらい赤字入れていいものですか?」だった。
その間にも、連載初回のPVだけで1200万PVを超えたとか、「あさイチ」で連載の内容が大反響だったとか、いろんな話を聞いてきた。
そのたびに「ふふーーん。私は、にしおかさんの文章の素晴らしさを、もっと早くに見抜いていたもんねーーー」と、悦に入っていたわけです。
本になると聞いていたので、連載は途中からあえて読まないようにしていた。まとめて読むのが楽しみで。
そんな、にしおかさんの「ポンコツ一家」。
いやこれもう、「にしおかさんの文章なのだから、間違いなく面白いだろう」と思っていた予想を軽々と超えていた。
いやこれ、この面白さを説明するのは難しいなー。
認知症の母親の介護というテーマで書かれているのに、こんなに楽しい気持ちで読める本って、すごいなと思う。病気の話なのに、なんでこんなに元気になるんだろう。
そうそう、すごいといえば、臨場感がすごい。
一緒に部屋に踏み入れた気持ちになるし、一緒に診察室に入った気持ちになる。なんなら、においまで嗅いだ気がする。
それは、きっと、人と同じ方向から物事を見ない、にしおかさんの観察力のなせる技だと思う。そして、そういった物事を、ちょっと自虐的にユーモラスに、そして愛情深く書けるのも、にしおかさんの凄腕だと思う。
はやくも、次は何を書いてくださるのだろうと楽しみにしています。
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