さとゆみ#166 「きっとうまくいく」よりも「きっとうまくいかない」の方が救いがあるワケ『絶対悲観主義』
本という贅沢#166 『絶対悲観主義』(楠木建/講談社+α新書)
仕事がら、いろんな職業で成功をした人たちを取材させていただくのだけれど、そういった人たちには、共通点が2つあると思う。
まず、(とくにずば抜けて成功した人たちは)みなさん自己肯定感が高いということ。自虐はしないし自慢もしない。
そして、そういう人たちは、大抵「きっちり負けてきた」経験が豊かだということ。少し雑な言葉になるけれど「負け慣れている」感じがする。
「自己肯定感が高いこと」と「負け慣れていること」は、一見矛盾するようだけれど、たとえば、経営者にはスポーツとか将棋とか釣りとか音楽とか、何かひとつのことを突き詰めてやってきた経験がある人が多い。
で、スポーツなどはわかりやすいと思うけれど、優勝する1チーム(1人)を除いては、必ずどこかで負ける。
アートだって、極めれば「上には上がいる」ことを、必ず実感する。
釣りor山岳にのめり込んだ過去がある経営者のお話もよく聞くのだけれど、「どんなに戦略を練っても、まあ最後は、自然が相手ですから」などと、おっしゃる。
つまり、「努力しても実らない経験」を、豊富にしてきている。半端じゃないのめり込み方をした人ほど、「死ぬほど努力しても負ける経験」をたくさんしてきている。
で、ね、
この経験が、自己肯定感の形成に大きな影響を与えているのではないかな、と私は思うのだ。
負けた時に
・「いや、それでも、やってよかったよなー」と思うこととか、
・「学ぶこと多かったし、十分モトとれてるし」と考えられることとか、
・「いやー、相手の人、ケタ違いにすごかったな」と認められることとか。
自己肯定感って、調子が悪いときの自分も含めてまるっと肯定できることだと思うのだけれど、負けた経験が豊かな人は、そこが清々しい。ねじれない。卑屈にならない。
世の中、そんなに甘っちょろくないよね。
どんなに努力してもうまくいかないこともあるよね。
それでも(だからこそ)、ベストを尽くすのさ。
みたいな根っこが、びっしりと地中に張っている。
その根の張り方が、彼/彼女が、折れない理由のように感じる。
プライドみたいな固いものは、結構ぽっきりいくけれど、そういう「うまくいけば御の字」みたいな諦観は、やわらかくて折れない。
なんて話を友人としていた次の日、この本に出会った。
『絶対悲観主義』
ああ、そうか。私がこの半年くらい、ぐるぐると考えていたことは、この6文字に集約されているって思いました。
即、ポチ。
帯が最高だよね。
「心配するな、きっとうまくいかないから」
盛大に吹いた。
内容に触れる前にすみません。私、不勉強すぎて著者の楠木さんのことを存じ上げなかったのだけれど、なんでいままでこの方の本を読んだことがなかったんだろうと思うくらい、もう、心臓のど真ん中を撃ち抜かれました。
こんなにズキュンときたのは、森博嗣さん以来です。
(余談ですが、森博嗣さんのエッセイが好きな方は、楠木さんにもどハマると思います)
あ、そうそう。この本、最初から最後まで「絶対悲観主義」について書かれた本じゃないのね。あ、いや、通底している考えはそうなんだけれど、章ごとに全然違ったテーマが展開され、そのどれもに、新しいものの見方が提示される。
2章まで読んだところで、楠木さんの本を5冊注文しました。
というわけで、もう、徹頭徹尾最高だったのだけれど、
個人的には、
第1章 絶対悲観主義
第2章 幸福の条件
第8章 オーラの正体
第10章 リモートワーク
第11章 失敗
などが、ああ、この言語化すごい、ぞくぞくするという感じで
第13章 発表
に至っては、毛穴という毛穴から、毛が逆立ちました。
どうして今までこの方の本を読んでこなかったのだろうと思ったのだけれど、でも、こういうのもきっとタイミングなのかもしれない。
というのも、最近私は仕事で壁にぶち当たっているのだけれど、この本で私、今すごく悩んでいることを解決するヒントをもらいました。
私ごとだけれど(というか、このコラムはいつも私ごとだけれど)
私は普段、楠木さんのおっしゃるような、悲観主義で仕事をしているタイプだと思う。
企画の持ち込みは、「まあ、通るほうがレアケース」と思っているからいちいち落ち込まず何度でもリテイクするし、仕事も常に打ち切られることを考えているし、ああ、仕事だけじゃないな。恋愛も、始まった日に終わる日のことを考えるタイプ。
なので、締め切りの近い順番からぴこぴこ仕事する。
一喜一憂せずに、一生懸命、でも、淡々と仕事する。
というやり方を続けているのだけれど、最近どうしても、うまくいかない仕事があって。
もうかれこれ、2年半抱えて毎日毎日脳の片隅でその仕事のことを考えるのだけれど、いざパソコンに向かうと進まない仕事がある。進まないだけならいいんだけど、だいたい具合悪くなる。
何の呪いか、と思っていたのだけれど、この本を読んでわかりました。
私の悲観主義、まだ全然甘かったんだ。
思ったよりも私、自分に期待をしていて、きっとうまくやれるはずと思って、この仕事は完璧にやりたいと思っていたんだ。
だから、この仕事、うまくいかないんだなと、この本を読んでわかりました。
楠木さんの言葉をこれからは、胸に生きていこう。
「心配するな、きっとうまくいかないから」
ちょっとお習字でもして、壁に張り出しておこうかなと思っています。
時には、「きっとうまくいくよ」よりも、「きっとうまくいかないよ」に、救われる時もある。
すっごい、楽になった。
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