考察『ファーストペンギン!』5話。怒涛の恋愛要素潰し!鈴木伸之が目線を合わせなくなった理由は?
恋愛要素をガンガン潰す脚本
「結婚は、しません。誰ともするつもりはありません」
「先生」こと琴平祐介(渡辺大知)は、やはり片岡(堤真一)の息子だった。正確には、片平が結婚したみやこ(中越典子)の連れ子だ。祐介は、和佳(奈緒)の息子・進(石塚陸翔)の東京でのかかりつけ医であり、医師となって片岡のいる汐ヶ崎へ戻ってこようとしていた。
漁協の組合長・杉浦(梅沢富美男)は、祐介と和佳が恋愛関係にあると思い込む。片岡ら「さんし船団丸」の漁師たちも、再会した祐介が和佳を助けるのは恋愛感情からだと考えた。でも、祐介は自分の恋愛対象は男性であるうえ、パートナーもいるのだと言う。
潔い脚本だ。主人公の和佳が、「お魚ボックス」を立ち上げて片岡たちのさんし船団丸を救うというストーリー。和佳を助けてくれていた祐介や、いつも和佳の味方でいた漁師の永沢(鈴木伸之)が、彼女に好意を寄せているという展開も考えられた。
しかし、祐介は自分の恋愛対象は男性であると言い切った。永沢は、子供ができたことを理由にさんしを辞めると言い出す。和佳との恋愛の予感を一切残さない展開を、第5話で一気に出してきた。磯田(吹越満)や山中(梶原善)は、片岡に和佳との結婚を期待していたようだ。それも、片岡が祐介と和佳の結婚を応援しようとしたり、妻のみやこの笑顔を何度も何度も思い出してしまったりする様子から、可能性を潰している。
「もしかしてこのふたり……?」とモヤモヤとする部分をキッチリと潰し切り、次からはブレずに和佳の社長であり母である部分にフォーカスする。そんな気合いが感じられる怒涛の恋愛潰し回だった。
何を大切にし、何を切り捨てるか。誰もやったことがない新規事業の社長である和佳なら、そんな決断を何度も経験していくことだろう。前回の第4話でも、自腹で60万円以上のお金を払い、漁師たちを東京のフランス料理店に連れて行った。そんなにお金をかける必要があるか? と感じる決断でも、和佳にとっては大切なことであり、実際にお金をかけた以上の価値を生み出して涙していた。森下佳子の脚本の潔さは、和佳の仕事っぷりとリンクしていて、その気持ち良さの波につい乗せられてしまう。
「同性愛者」という言葉を使わない
取捨選択という点では、祐介や登場人物たちに「ゲイ」「同性愛者」などという言葉を一度も言わせなかったところにも注目したい。「恋愛対象は男性」という祐介のパーソナリティを表す言葉はあったが、他人から祐介をレッテル貼りするような言葉の使われ方はなかった。
永沢が梨花(ファーストサマーウイカ)のところへ行き、祐介について聞いたシーンもそうだ。どんな人にも優しく接していた祐介は、学生時代、誰とも恋愛関係にならなかった。誰か心に決めた人がいたのかと永沢は予想したが、梨花は自分もそう思ったけれど違った、というところまで話し、その後は場面が転換する。
片岡は、田舎町で祐介が偏見の目を向けられ、つらい思いをするのではないかと心配していた。けれど、梨花の様子を見るに、祐介と同世代の人たちは、どうして彼が誰とも恋愛関係にならないのか、その理由に気づいていたようだ。それが受け入れられているかどうかはわからない。でも、少なくとも梨花は、それで祐介を嫌いになったりバカにしたりはしていなさそうだった。片岡が想像するよりは、祐介は腫れ物扱いされないのかもしれない。
和佳は、片岡が自分の味方をしてくれたときの心境を伝えた。
「この人がわかってくれてるなら、いいや。ひとりじゃない。前を向けるって、そう思った……よ」
「この人がわかってくれてるなら、いいや」という、どこか投げやり感もある言い方。でも、その身を投げた先には片岡がいてくれる信頼を表す言葉でもある。「信頼できると思った」と言わせてしまえば意味は伝わる。でも、それを避けて、まさに海に飛び込むときのような和佳の思い切った気持ち、捨て鉢だけど希望もある気持ち、そんないろいろな感情が込められているのが、このセリフだろう。
『ファーストペンギン!』は、最初からスピード感があってグングンと引き込まれる魅力があるドラマだった。それは、こうした取捨選択によって生み出されているのだろうと感じる回だった。
185cmの鈴木伸之が目線を合わせなくなった
これまで通り、おじさんたちの可愛さも描かれている。片岡は拗ねたり怒ったりすると布団にもぐりがち。和佳と上手くいかないときも布団に入っていたし、今回は、祐介に素直になれずに布団をかぶっていた。布団は片岡の心の砦のようなものなのだろうか。
そこにやってくる磯田と山中。「みやこさん、成仏できちょるんかのう」「おう、さぞかし心配じゃろうのう」「みやこさん、祐介くんに会いたかろうのう」「みやこさん、かわいそうじゃのう~」とたたみかける。山中は最初たまたま、みやこの写真を見て言っただけかもしれないが、磯田は明らかに片岡にはこれが効くとわかってやっている。芝居がかった磯田と山中が楽しそうで可愛い。片岡と祐介が仲直りすると、「ええ感じじゃのう」「のう~」とニコニコしていた。
おじさん予備軍として可愛いのはたくみ(上村侑)で、第4話までは永沢としか話さないほどツンツンしていたのに、今回はすっかり馴染んで進や要(川田琥太郎)と手をつないでカニ探しまでしていた。誰⁉ と思うほどの転身だ。永沢が和佳を好きなのではないかと野次馬根性をチラ見せするようなところを見ると、お前はずっとここでやっていけるよ! と、和佳のように彼の背中を叩きたくなる。
片岡たちの方言で、語尾が「っちゃ」と「じゃ」の2種類あるのはどういうニュアンスの違いなのだろうと思い、調べてみた。今回だと、片岡の「そねえなんは、加トちゃんだけっちゃ」と、「わしは24時間365日男前じゃ」など。大きな意味の違いはなさそうだが、「っちゃ」は「だよ」などの柔らかいニュアンスで、「じゃ」は「だ」とか「である」という強めに言い切る語尾のようだ。杉浦はどちらかというと「じゃ」を使うことが多いなと感じていたが、そういう違いがあるなら確かに「じゃ」のほうが杉浦に合っている。
第5話は、永沢の「今月で会社辞めます」「俺、子供ができたらしいんで」という衝撃展開で幕を閉じた。演じている鈴木の身長は185cm。そよを演じる志田未来や、和佳役の奈緒の前に立ちはだかると「でか!」と驚いた。今まで和佳や進、たくみの目線に合わせてかがんだり座ったりして話をしていた永沢だが、辞めると言い出したときにはまっすぐに立っていた。彼の目線は、和佳たちと揃わなくなっていってしまうのだろうか。
毎週水曜よる10時〜
出演:奈緒、鈴木伸之、渡辺大知、松本若菜、ファーストサマーウイカ、遠山俊也、城桧吏、志田未来、中越典子、梶原善、吹越満、梅沢富美男、堤真一 他
脚本:森下佳子
音楽:菅野祐悟
主題歌:緑黄色社会『ミチヲユケ』
演出:内田秀実、小川通仁、今和紀
プロデューサー:森雅弘、森有紗、阿利極(AX-ON)
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