考察『ファーストペンギン!』6話。「僕」から「自分」そして「俺」へ。再び目線が揃う奈緒と鈴木伸之

水曜ドラマ『ファーストペンギン!』(日テレ系)は、実話をもとにしたドラマ。漁業の世界に飛び込んだシングルマザーを奈緒が演じます。脚本は『ごちそうさん』『おんな城主 直虎』(NHK)、『天皇の料理番』『義母と娘のブルース』『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS)などを手掛けた森下佳子。「お魚ボックス」にテレビ局から取材の申し込みが! だが漁協をはじめ、それを面白く思わない周囲からの嫌がらせも激化して……。「さんし船団丸」の運命をかけたハラハラドキドキの6話を振り返ります。
考察『ファーストペンギン!』5話。怒涛の恋愛要素潰し!鈴木伸之が目線を合わせなくなった理由は? 荒くれ漁師たちと漁業改革に奮闘 ドラマ「ファーストペンギン!」のモデル、坪内知佳さん

大袈裟ではない嫌がらせ描写

ズレてしまった和佳(奈緒)と永沢(鈴木伸之)の目線が、今回、再び同じ高さに揃った。

水曜ドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)第6話。第5話のラストシーンでは、ずっと和佳に協力的な様子だった漁師の永沢が、漁師を辞めると言い出した。交際している彼女・アイナ(足立梨花)が妊娠し、彼女が住む神戸での再就職を求められている。漁師は将来性がないというアイナ。和佳は、さんしがテレビに出ることで、お魚ボックス事業と「さんし船団丸」の将来性を示せるのではないかと考える。

永沢はいつも、小柄な和佳や、子どもである進(石塚陸翔)、うつむいて暗い顔をしていたたくみ(上村侑)の目線に合わせて、かがんだり座ったりして話をしてくれていた。でも、会社を辞めると言い出したとき、永沢は和佳のためにかがんではくれなかった。和佳が顎をグッと上げて見上げなければいけないほど、彼との目線はズレていた。

一方、少しずつ軌道に乗りつつあった「お魚ボックス」事業がテレビ局のスタッフの目に留まり、さんしに取材の依頼が舞い込む。しかし、さんしがおこなっているお客さんとの直取引をよく思わない漁師たちのやっかみや、汐ヶ崎以外の漁協からの圧力によって、テレビ取材を受けると決めたさんしに関わる人々への嫌がらせがはじまってしまう。

和佳の住むアパートの玄関前には画鋲がまかれ、壁には「ヨソモノ岩崎キエロ」「テレビ取材やめろ!」「さんし調子にのるな」「バーカ」「アホ!」と落書きがされる。漁などで出たゴミの廃棄処分は受け付けてもらえず、獲った魚は仲買人によって数を抜かれてしまう。そよ(志田未来)がとった電話は無言電話。居酒屋では締め出しをくらう。磯田(吹越満)の母親・靖子(鷲尾真知子)は、漁協の女性部からのけ者にされてケガを負う。そよの息子・要(川田琥太郎)は、保育園で進の絵をぐちゃぐちゃにした子供を殴ってしまう。

こんなに酷い嫌がらせは、さすがに、ドラマを盛り上げるための脚色だろう。そう思ったが、和佳のモデルとなった坪内知佳の著書『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)を読むに、出来事自体は大袈裟に描いているわけではなさそうだ。

〈萩の港周辺を歩いていると、すれ違いざまに漁師の奥さんや仲買さんから「あら、もう潰れたと思とったのに、まだやっとるんか」と嫌味を言われた〉
〈またイタズラかと自宅のアパートに戻ると、アパートの前に建設工事で使うような鋭い鋲が撒き散らかされていたのである。これはどう見ても私に対する脅しである〉

坪内知佳『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)

さらには、子供が誘拐されたかもしれないと保育園から慌てて連絡があったことなども、原作本には書かれている。随所に出てくる実際におこなわれていた嫌がらせの箇所を読むと、気が滅入るほどだ。ドラマのほうでは、嫌がらせに対してさんしの漁師たちや和佳が怒ったりショックを受けたり、反省したり、その反省を船団長の片岡(堤真一)がいさめたりする「反応」の場面が入る。

正座する鈴木伸之、立ち上がる奈緒

嫌がらせが相次ぎ、永沢は自分のためにテレビに出ようとするならばやめてほしいと言い出す。けれど、取材は続行。漁協や周囲の漁師たちからの嫌がらせを、テレビをとおして全国に告発しようと、片岡たちは意気込んでいた。

しかし、ニュース番組はお魚ボックス事業とさんしの漁師たちの働きぶりを流して終了。片岡は「これじゃ、ただの『頑張れ! お魚ボックス物語』じゃ~や~!」と、ガックリする。「頑張れ! お魚ボックス物語」というタイトルは片岡が勢いで勝手につけたものだが、可愛くていいじゃないか。

この第6話で描かれたのは、「将来をどう見るか」という話だったと思う。片岡たちは、漁協を告発できずに落胆した。しかし、和佳は言う。

「私たちの夢は、別に漁協をぶっ潰すことじゃないんじゃん。お魚ボックスが売れて、みんなのお給料が上がって、若い人も『働きたいです!』って来たりとかして。そうやって、ここが昔みたいに活気ある浜に戻ることじゃん」
「最後は私たちが勝つよ。だって、私たちは間違ってないから」

和佳の夢、ロマンが叶うには、5年、10年かかるかもしれないという。これまで漁師たちが思い描けなかったほど先の浜が、和佳の目には見えている。

「だって、私たちは間違ってないから」「まあ、私ロマンチストだからさ」と和佳が言うとき、画面に映っていたのは永沢の表情だった。永沢の目が潤み、赤くなり鼻や唇が少しだけ震えだす。和佳の発言に感動して、浜に残ると言ってくれるかと思った。それは違った。

「社長と一緒ですよ。アイナの目的は、最初から社長を走り回らせることだったんです」
「え? なんで、なんでそんなことするの」
「そこまでしてくれる社長も会社も捨てて、僕が彼女の願いを叶える。彼女にとっては、それが大事にされるってことで……。大事なことだからです」

永沢は、漁師を辞めて彼女のいる神戸で暮らすことを決める。

「僕がもっと彼女を大事にすれば、変わるのかなって。時間かかるかもしれませんけど」

和佳に譲れないロマンがあるように、アイナにも譲れない「こうしたい」という思いがある。2年間の付き合いのなかで4回も別れてまた付き合ってを繰り返してきた永沢とアイナ。和佳と同じく「彼女って永沢くんのこと好きなの?」と言ってしまいたくなるが、それでも離れがたいふたりにしかわからないこともあるのだとも思える。

和佳に本音を話すとき、永沢の一人称が「僕」から「自分」、そして「俺」へと変わっていく。「俺は本当は、ここにいたいのに、って思ってます」が、どれほど心の奥底から絞り出された言葉か。

第5話でふたりの目線が合わなくなった海のそばで、今度は永沢が正座し、和佳は立ち上がり、ふたりの目線はまた同じ高さになる。和佳は、彼に「いつ帰ってきてもいいんだからね。永沢くんと、気持ちの変わったアイナさんと、かわいい子どもと3人で」と伝えた。片岡たちにはビジネスとしての、永沢には個人としての、「数年先の将来の描き方」を和佳は教えてくれたのだ。

堤真一が守る渡辺大知の存在感、そして上場フラグ

これまで和佳を助けてくれていた「先生」こと、片岡の息子・琴平祐介(渡辺大知)の登場シーンはずいぶん少なくなっていた。しかし、琴平の存在感がしっかりと汐ヶ崎に残っているとわかる片岡のセリフがあった。他の漁師たちから、テレビに出ないように、漁協の土地から出て行けと言われるシーンだ。

「女の尻に敷かれた腰抜けが。ケンカもできねえか!」
「まるで、オカマじゃのう!」

「女」というのは、社長となった和佳のことだ。片岡はそれよりも「オカマ」のほうに反応する。その単語をきっかけに、「オカマのなんが悪いんか、おら!」と怒ってケンカをはじめてしまうのだ。片岡の頭には、男性に恋愛感情を持つと言った琴平の姿が浮かんでいたに違いない。琴平がそこにいなくても、片岡は息子を守ろうとしている。

また、美術、衣装面でも、過去の回からの流れが見えて嬉しくなる場面がある。第4話で、和佳と片岡が電話をめぐってケンカした流れから、さんしの事務所の壁には「電話を壊すな!」と張り紙が貼られていた。そよが入る以前にあった「電話に出るな!」の張り紙の字と同じだ。和佳が書いたものだろう。

すっかりさんしに馴染んだたくみの私服が、いつもタイダイ染めやカラフルなグラデーションであることにも気づいた。というのも、第5話で仲直りした父親・山中(梶原善)と並んでいるシーンがグッと増えたからだ。山中はいつも藍色の絞りやグラデーションの服を着ている。その横には、色は違うがカラフルな絞りやグラデーションのパーカーやTシャツを着たたくみが立つ。ずっと素直になれないでいた親子だけに、服装の好みの一致が微笑ましい。

今回、漁協の会長・杉浦(梅沢富美男)が一瞬、お魚ボックス事業を受け入れようとした場面があった。けれど、他の漁協や漁協連合の会長にすごまれ、その気持ちを引っ込めてしまう。「なんでわしばっかり、こねえな目に遭うんかいのう……」とつぶやく姿からは、憎らしさはもちろんあるが、板挟みのかわいそうな感じも漂ってきた。

とはいえ、漁協や漁師たちの嫌がらせの話に戻ると、ケガをした靖子は足を複雑骨折していて歩行が困難になるかもしれないとのこと。大変なことである。封筒の見舞金とメロンで解決できる問題ではない。7話以降で少しでも回復した姿が見られないと、心配がおさまらない。

和佳が営業先でつぶやいた「上場……無理無理!」というひとりごとも気になるところ。テレビ番組にも呼ばれるようになった彼女の前に、「想像もしたこともないような種類の敵」が立ちはだかるという。上場のひとりごとは、どう回収されるフラグなのだろうか。

考察『ファーストペンギン!』5話。怒涛の恋愛要素潰し!鈴木伸之が目線を合わせなくなった理由は? 荒くれ漁師たちと漁業改革に奮闘 ドラマ「ファーストペンギン!」のモデル、坪内知佳さん

日本テレビ系 水曜ドラマ『ファーストペンギン!』

毎週水曜よる10時〜
出演:奈緒、鈴木伸之、渡辺大知、松本若菜、ファーストサマーウイカ、遠山俊也、城桧吏、志田未来、中越典子、梶原善、吹越満、梅沢富美男、堤真一 他
脚本:森下佳子
音楽:菅野祐悟
主題歌:緑黄色社会『ミチヲユケ』
演出:内田秀実、小川通仁、今和紀
プロデューサー:森雅弘、森有紗、阿利極(AX-ON)

ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。
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