考察『ファーストペンギン!』2話。伊藤かずえ、ファーストサマーウイカ、志田未来…奈緒を助ける女性たちの強い目
伊藤かずえ、ファーストサマーウイカ、浜で生きる女の目
10月12日放送の水曜ドラマ『ファーストペンギン!』(日テレ系)第2話。よくここまで目に力を持つ女性たちを集めてくれた。ドラマの中で「極端な男社会」と言われる漁業の世界。そこで生きる女性たちの目に励まされた。
さんし船団丸の社長・片岡洋(堤真一)に頼まれ、シングルマザーの岩崎和佳(奈緒)は魚を使った新事業を考えることになった。和佳は、漁師たちが直接消費者に魚を売る「お魚ボックス」の販売を提案する。
魚を売るには、漁協や仲買業者を通すのが常識とされていた。和佳のプランでは、その仲介を飛ばしてしまう。そのため、漁協の組合長・杉浦久光(梅沢富美男)は「お魚ボックス」を許さず、和佳が取得した国の「6次産業化」(農業や水産業などの第一次産業従事者が、食品加工・流通販売などの業務展開にも取り組むこと)の認定を取り消させようと動いていた。
和佳に魚を売らないようにと、漁協は漁師や仲買人にメールを送っていた。それを和佳に知らせたのは、汐ヶ崎で仲買人として働く重森梨花(ファーストサマーウイカ)だ。浜をウロチョロしている和佳に、梨花は「顔貸せ、ボケナス!」と凄み、彼女をトイレに連れ込む。
「あんた、知らんかもしれんけどな、田舎っちゅうんは、誰がどこで見ちょるかわからんし、何話したか筒抜けなほっちゃ。おしゃべりには気ぃつけよ」
漁師や漁協の男たちが、女性用トイレの中まで入ってくることはないだろう。梨花は「極端な男社会」を逆手に取り、和佳に魚を売った。彼女は第1話にも登場していて、漁協の前で和佳をにらみつけていた。そのにらみが、今度は和佳を助けた。
杉浦は、和佳の勤めているホテルニュー汐ヶ崎にまでけん制をかける。女将(伊藤かずえ)は、ホテルの給与を上げるから「お魚ボックス」の仕事を辞めないか、と和佳に提案した。それも漁協に言われてのことだ。しかし逆に、和佳はホテルを辞めてまで事業を続ける決意をする。その経緯を聞いた片岡が女将を責めた。
「あん子、女手ひとつで子ども抱えて。そんな子、放り出すて」
女将は片岡から一度目をそらし、そしてすぐにじっと片岡を見つめて反論する。
「社長さんだって同じじゃろ。あん子、守ってやれんのは同じじゃろ。あん子は一生懸命やってくれちょっただけやのに。そんな子に、何もしてやれんのよ。私ら、そんな情けない大人なんよ」
漁協が宴会をするときにはホテルニュー汐ヶ崎が使われていた。漁協はお得意様だ。生きていくために、そして従業員たちの生活を守るために、杉浦を無視することはできなかったのだろう。片岡をにらむでもなく、蔑むでもない、ただじっと見つめている女将の目は、和佳にした仕打ちの罪深さを背負う覚悟を宿していた。
梨花も女将も、汐ヶ崎という土地で生きるために色々なことを飲み込んでいる。けれど、自分のできる範囲で和佳に助け船を出そうとする。浜の女たちの目は、状況のすべてを諦めているわけではないようだ。
「頑張って!」と言ったスナックの店員
他にも、和佳に手を差し伸べようとする女性たちが登場した。ひとりは、農林水産省職員の溝口静(松本若菜)だ。「お魚ボックス」の6次産業化認定が取り消されようとしている状況を、いち早く和佳に伝えてくれた。
ちょうど、農林水産大臣・安堂孝志(大河内浩)が「女の話の9割がくだらないおしゃべり」という女性蔑視発言をして国会で責められている時期。和佳はそれを知らずに、溝口に「女性活躍」と絡めて認定取り消しを阻止できないかと提案した。
「いますよ、うってつけのオヤジが」
女性蔑視発言問題の鎮静化のため、溝口は安堂大臣に、女性である和佳がはじめた「お魚ボックス」事業の全面バックアップ宣言を提案したようだ。「うってつけのオヤジ」と呼ばれた安堂の情けなさ。そして、流し目でその言葉を発する溝口のやり手感。
さらに、和佳の息子・進(石塚陸翔)の保育園の友だち・要(川田琥太郎)の母親である山藤そよ(志田未来)は、察する能力に長けている。困っているらしい和佳を見て、すぐに進を預かると提案してきたり、まだ幼い進の話を聞いただけで賃貸物件を探してきたりする。穏やかで優しそうな人物だが、観察眼の鋭さと行動の早さはこのドラマでナンバーワンかもしれない。
そして、忘れてはならないのが地元のスナック「スター☆フィッシュ」の店員・ユリア(青山めぐ)。スナックの客である「統括さん」こと中川康介(伊沢弘)を呼び出し、和佳に会わせてくれた。
汐ヶ崎では、表立っては誰も和佳を助けてくれない。気が強そうに見える梨花も、肝の据わっていそうな女将も、そしてもちろん漁師たちも杉浦にビビッている。そんな中で唯一、和佳に「頑張って!」と大きな声で言ってくれたのはユリアだ。
彼女が地元の人間なのか、よそから来た人なのかは今のところ描かれていない。ただ、ひとりで戦う和佳に、汐ヶ崎という土地で「頑張って!」と口に出して言ってくれる人がいる。ちょっとしたシーンだけれど、それでもユリアの明るい声と大きな身振り手振りに胸を掴まれた。
「三方よし」を叶えるのは簡単じゃない
『ファーストペンギン!』の原作書籍『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)の著者・坪内知佳さんは、『スッキリ』(日本テレビ系)の特集でこう話して、涙を流していた。
「(漁師たちに)やりたくない、と言われてきたことをやってきたので」
ドラマの第1話で統括さんが和佳に教えてくれた「三方よし」という言葉は、売り手も買い手も社会(漁協や仲買など)もみんなが幸せになるという意味。しかし第2話では、和佳がはじめた「お魚ボックス」事業は、漁師も漁協も誰もやりたいと思っていないと描かれる。では、彼女のモチベーションは何なのか、疑問に思う。
その答えのひとつは、片岡に和佳が言った「私がやりたいからです。もう私自身がこれをやったほうがいいって思っちゃってるからです」という言葉。そしてもうひとつは、大切な息子の進を思ってのことだ。
魚が食べられなかった進は、さんし船団丸の漁師たちが獲った魚をおいしそうに食べていた。進のように、獲れたてで加工がされていない新鮮な魚であれば食べられるという人がこの世のどこかにいるかもしれないと、和佳は気づく。
『ファーストペンギン!』には「奇跡の物語」「一発逆転」などの宣伝文句が用いられているが、ドラマを見ると、和佳は「三方よし」を一気に叶えるわけではないようだ。理想はありながらも、漁師の幸せ、消費者の幸せ、社会の幸せを、ひとつひとつ地道に追い求めている。漁師たちの裏切りや漁協からの嫌がらせにも、唇を噛んで涙を流し、フィードバックとして受け止め、次の提案に活かそうとしていく。この素直さと意思の固さが、あまりにも眩しい。
このドラマを見ている人の中にも、女性という属性やよそ者であることを理由に、仕事でつらい思いをした経験がある人がいるだろう。坪内知佳さんと同じように強い思いを持っていたとしても、環境や状況によっては、誰もが同じように何かを達成できるとは限らない。
だからこそ、『ファーストペンギン!』が沁みる。坪内さんのようになりたかったけれどなれなかった。あるいは、挑戦する前から諦めてしまった。そんな悔しい経験を、和佳がつまづきながらも周囲の人たちと繋がり合っていく姿に重ねて、彼女を応援する気持ちがグッと前のめりになっていく。
まだ和佳とさんし船団丸の「お魚ボックス」事業ははじまったばかり。けれど、なんだかクライマックスのように心が熱くなる第2話だった。
毎週水曜よる10時〜
出演:奈緒、鈴木伸之、渡辺大知、松本若菜、ファーストサマーウイカ、遠山俊也、城桧吏、志田未来、中越典子、梶原善、吹越満、梅沢富美男、堤真一 他
脚本:森下佳子
音楽:菅野祐悟
主題歌:緑黄色社会『ミチヲユケ』
演出:内田秀実、小川通仁、今和紀
プロデューサー:森雅弘、森有紗、阿利極(AX-ON)
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