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Netflix『シスターズ』が熱い。大人になったキム・ゴウンに『トッケビ』のあどけなさが見える

Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『シスターズ』(全12話)は、貧困家庭で育った姉妹が、富と権力をもつ者たちをめぐる陰謀に巻き込まれていく物語。L.M.オルコット『若草物語』から着想を得たというドラマを、韓国留学も経験したライター・むらたえりかが考察します(レビューはネタバレを含みます)。
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印象的な階段シーン

Netflixにて9月3日から配信がスタートしたドラマ『シスターズ』。貧困家庭で育った三姉妹、オ・インジュ(キム・ゴウン)、インギョン(ナム・ジヒョン)、イネ(パク・ジフ)が、それぞれの立場から韓国随一の大富豪の家庭に立ち向かう。

長女のインジュは、学歴を重視する韓国社会で短大卒ながら就職したものの、社内でのけ者扱いされている。正義感が強い次女のインギョンは、プレッシャーからアルコール依存症になり放送局を解雇される。絵画の実力で芸術系の高校に入学した三女のイネは、自分のためにどんなこともしようとする姉たちからの愛情を重く感じている。

母親がイネの修学旅行費を盗んで海外に行ってしまい、途方に暮れる姉妹たち。出発前に母親が漬けた大根の若菜キムチを見て「このキムチは絶対に捨てよう」と言うインギョン。インジュは最初からそのつもりだった。けれど、頷きながら「おいしいよね」と返してしまう。切りたくても切れない家族の縁を、ほんの少しの会話に忍ばせている。

そんな中、インジュが会社で唯一心許せる相手であった先輩のチン・ファヨン(チュ・ジャヒョン)が自宅で死んでいた。彼女はインジュに700億ウォン(約70億円)の大金を遺していた。

突然大金が手に入るならばどうするか。そんな問いからはじまるストーリーは、2021年に世界的に流行した『イカゲーム』や、Netflixにて配信中の『模範家族』(2022年)にも通ずるところがある。また、貧困家庭に生まれた者が貧富の差にどう向き合っていくかという点では、映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)も『シスターズ』に繋がる作品だ。

『パラサイト』では、貧富の違いを表現する際に階段や坂道が効果的に使われていた。『シスターズ』にも、階段が印象的なシーンがある。

例えば、インジュが大おばのオ・ヘソク(キム・ミスク)の家で「700億ウォンを自分のものにするために、リスクを負うべきか」問題や、自分が本当にほしいものについて考えている場面。インジュがぼんやりとした表情で階段を昇り降りする姿は、自分が富裕層と貧困層のどちらに身を置くか決めかねている様子に見えた。

また、イネの友人パク・ヒョリン(チョン・チェウン)は、こどもの頃に遊んでいた秘密の部屋にイネを案内する。部屋は光に続く階段の上にあり、そこにはヒョリンの母親ウォン・サンア(オム・ジウォン)の大切なものがしまってある。サンアは元々裕福な家庭に生まれた人だ。イネとヒョリンは、その部屋でサンアが作った「閉じられた部屋」というドールハウスの一室を見つける。「閉じられた部屋」では、赤いハイヒールを履いた人形がクローゼットで首をつっていた。それはファヨンが亡くなった状況によく似ている。

多くの人が『パラサイト』を見ている世界だからこそ、キム・ヒウォン監督はそうした美術面に貧富の格差や戸惑いを潜ませることができたのではないか。

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過ちに向き合うドラマの姿勢

ドラマは「ベトナム戦争」の負の遺産についても踏み込む。

ヒョリンの母・サンアの父親ウォン・ギソンは、ベトナム戦争で活躍し今でも「将軍」と呼ばれている人物である。ベトナム戦争で出会った12人の軍人とひとりの看護師が作った「情蘭会(ジョンナンフェ)」が、インジュが手にした700億ウォンに関わっているというのだ。

戦争で活躍したということは、多くの人を殺したりたくさんの略奪をしたりしたということである。ギソン将軍がベトナムから奪ったもののひとつは「ベトナムの幽霊(鬼神)」と呼ばれる青い蘭の花。奪われた希少なその蘭は、今はベトナムには存在しない。

1955年から75年まで続いたベトナム戦争中、南北に分かれていたベトナム。韓国は、1964年から73年、南ベトナムを支援するために軍を派遣した。ベトナムには韓国に対して恨みの感情がある人もいるだろう。ギソン将軍の演説や奪われた青い蘭には、ドラマや映画を通じて過ちに向き合う姿勢が見える。

ソウル市長、大統領の地位を狙う貧困層生まれのパク・ジェサン(オム・ギジュン)は、ギソン将軍の演説の構成を模倣する。野心に溢れるジェサンは、人の命や金、それに並ぶほど大切なものを奪うことにためらいがない。奪う者が勝ち、奪われる者は弱くあることしかできないのか。そんな悔しさと疑問に対する答えを示すドラマとなりそうだ。

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『若草物語』から着想を得たシスターフッド

脚本家のチョン・ソギョンは、このドラマはL.M.オルコットの『若草物語』から着想を得たと話しているそうだ。「もし『若草物語』の四姉妹が現代にいたら」をスタート地点とし、ストーリーを膨らませていったという。本作は一見三姉妹の話のようだが、もうひとり、亡くなった姉妹・インソンがいたことが第4話で明かされる。

空いたインソンの穴を埋めるかのように、三姉妹の周囲には女性たちが現れる。インジュに700億ウォンを託したファヨン先輩(作中では「オンニ(姉さん)」と呼ばれる)。両親に愛されながらも孤独を感じるイネの友人、ヒョリン。ファヨンは貧困層生まれという点でインジュに共感を示し、ヒョリンは愛と孤独や自立についてイネと心を通じ合わせる。

また、姉妹にとって良い仲間となるかは別として、サンアは裕福に育ったものの自分のやりたいことができず「ジェサンの妻」という立場に甘んじている。記者のチャン・マリ(コン・ミンジョン)や、ジェサンのもとで働くコ室長(パク・ボギョン)は、ときには非道な方法でインジュやインギョンの邪魔をするが、彼女たちも野心を秘めて懸命に生きていると言える。

日本語版タイトルを『若草物語』ではなく『シスターズ』にしたのは良かったと思う。「シスターフッド」は女性同士の連帯を意味する言葉。インジュたち三姉妹の周囲には、ファヨンやヒョリンのような連帯すべき弱い立場の女性たちが登場する。格差や立場によって連帯できなかったとしても、もしサンアの心の傷を癒すことができていれば。もし、マリやコ室長が「なぜ強い者に従っているか」に想像を巡らせることができれば。彼女たちとシスターフッドを結ぶ未来もあるのではないだろうか。日本版のタイトル『シスターズ』には、そんな希望を感じた。

9月25日(日)に韓国のtvNにて放送、Netflixにて配信された第8話。インジュは700億ウォンを現金で引き出すために、チェ・ドイル(ウィ・ハジュン)とともにシンガポールに飛んだ。

これまで妹たちのために身を削って働いてきたインジュは、人生で初めて「世界一重要な人物」としてセレブ扱いをされ、恥ずかしそうにする。今やすっかり大人の女性になったキム・ゴウンだが、照れた笑顔や心を弾ませて話す姿には『トッケビ』の頃に見せたあどけなさの面影がある。

「疑うのはいいことです。本音を言うと僕だけを信じてほしいけど。誰も信じないで、銃と現金以外は」

これまで多くの資金洗浄をしてきたドイルは、インジュにそう言って銃を渡す。ドイルがインジュに危害を加えることがあれば、その銃で撃ってもいいという。

誰も信じられない状況の中で、最初は心が離れていた三姉妹たちは逆にお互いの身を案じるようになっていく。突然手にした大金、そしてベトナム戦争の時代から続く不吉な縁。貧困を抜け出し、先人たちが遺した罪の真実を暴くために、姉妹たち(シスターズ)は命を賭けるべきなのか。

映画『はちどり』(2018年)で主演を務め、第18回トライベッカ映画祭の最優秀主演女優賞や第39回韓国映画評論家協会賞の新人女優賞などを受賞したパク・ジフ。現在は漢陽大学校演劇映画学科でさらに演技を磨いている/Netflixシリーズ『シスターズ』独占配信中
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ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
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