Netflix『エージェントなお仕事』有名俳優が実名で出演!女性俳優のキャリア問題にも切り込む
●熱烈鑑賞Netflix118
『ウ・ヨンウ弁護士』のチュ・ヒョニョンも出演
韓国ドラマを見てきて良かった。Netflixで配信中の韓国ドラマ『エージェントなお仕事』を見ていると、つくづくそう思う。
芸能事務所を舞台に、俳優のマネージャーたちがさまざまなトラブルを解決しようと奮闘するこのドラマ。実在の俳優が実名で登場し、『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』『ペーパー・ハウス・コリア』『イカゲーム』など、出演作の名前もどんどん挙げていく。あのドラマの、あの俳優か! あの映画の俳優って、こんな演技もするの⁉ と、発見とワクワクが止まらない。
メインの登場人物は、芸能事務所「メソッドエンターテインメント」のマネージャー4人。仕事がデキる理事のマ・テオ(イ・ソジン)は、メソッドエンターを支える中心人物だが、他事務所の移籍が噂されるなど信用しきれない人物だ。
小心者でちょっと抜けたところがあるキム・ジュンドン(ソ・ヒョヌ)チーム長は、いつも俳優の気持ちに寄り添おうとしている。そんなジュンドンと同期のチョン・ジェイン(クァク・ソニョン)は、感情的になりやすいところが玉に瑕(きず)。私生活では彼氏を頻繁に変えている。
そして、新人マネージャーのソ・ヒョンジュ(チュ・ヒョニョン)。芸能マネージャーに憧れてソウルにやって来た彼女は、ジェインの部下が抜けた穴を埋めるかたちで運良くメソッドエンターに入社した。入社前からマ理事に会っていることから、彼と個人的な関係があるようだ。その謎は、現在配信中の第8話までに明かされている。
大人しくて一見トラブルを起こさないように見えるヒョンジュ。しかし、素直な性格が災いして、うっかり失言をしてしまうことも多々ある。そのたびに責任を感じて、いまにも泣きそうに不安げな表情をする彼女が可愛い。Netflixドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』で、主人公の破天荒な友だち、トン・グラミを演じていたときの快活さとは大違いだ。
女性俳優の年齢によるキャリア断絶問題
見どころは、やはり実名で登場する俳優たち。第1話では、映画『パラサイト 半地下の家族』で社長夫人を演じていたチョ・ヨジョンが登場。彼女はクエンティン・タランティーノ監督作品に起用されることが決まり、乗り気になっていた。だが、担当マネージャーのジュンドンに、ヨジョンの年齢を理由に起用が見送られたと連絡が入る。ヨジョンはそれを知らされていない。
ジュンドンは、起用が見送られた理由をヨジョンにどう伝えるか悩む。そんななか、ヒョンジュが“うっかり”ヨジョンにその話をしてしまう。
ヨジョンは、役づくりのために乗馬を習うものの全然上達していなかったり、ジュンドンに「お腹すいた! 何か食べよう」と無邪気に言ったりする。笑顔を絶やさない彼女の姿はとてもチャーミング。けれど、その努力や笑顔に、「女優は40歳を超えるとオファーされる役の幅が狭くなる。役が減る」という問題が迫ってくる。
同じ問題を抱えていたのは、第3話に登場したベテラン俳優のキム・スミ。スミの担当マネージャーであるマ理事は、スミの息子の妻で俳優のソ・ヒョリムと共演させて話題づくりをしようと画策する。ヒョリムは、会うたびに服装をチェックされたり、おかずを差し入れされたりすることがストレスで、スミと半年間も一緒に撮影をするのは難しいと言い出した。
脚本家(作家)のキム・ソヨンは、そんなふたりのギスギスした様子を見て、逆に「嫁姑問題」の脚本の執筆意欲をたぎらせる。しかし、スミの思いは別にあった。ある晩、小劇場に客として来ていたスミは夢を持つ若者たちの演劇を見て、自分も「やりたい役」をしたいと思うようになる。偶然居合わせたジュンドンに、姑や意地悪なおばあさんの役はもううんざりであること、本当は、高齢でも恋をする役をやりたいと願っていることを話した。
女性俳優は、40歳を超えるとオファーされる役の幅が狭まる。さらに高齢になると「いつも姑役」「いつも意地悪なおばあさん役」などと、決まり切った役柄ばかりオファーされるようになる。
第4話では、幼いこどもを抱える女性俳優が、俳優として働きづらい問題も扱われた。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)にも出演し、アクションの腕も確かな俳優のスヒョン。ドラマのなかでは、不規則な仕事の時間に合ったベビーシッターが見つからず、仕事で才能を活かせずにいた。
男性俳優と比べて女性俳優のキャリアは、年齢を重ねることやライフイベントによって狭まることが多い。ほとんどの場合、台本をもらう側である役者やマネージャーができることは少ない。韓国の女性俳優の問題というだけではなく、世界中で似た問題が起こっているに違いない。
チョ・ヨジョン、キム・スミ、スヒョンがぶつかった壁を壊してくれる作品が、韓国でも日本でも、そして世界中でもっとたくさんつくられてほしい。
マ理事と重なる『三食ごはん』のイ・ソジン
その他には、『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』(2018年)で共演したパク・ホサンとオ・ナラが、第4~5話に登場。韓国の植民地時代を舞台にした格差恋愛映画で共演を果たす。ナラがヒットした出演作品の数でホサンにケンカを売る場面は、呆気にとられたホサンの顔に笑ってしまう。
第8話では、『悪の花』(2020年)『ペーパー・ハウス・コリア』(2022年)に出演したキム・ジフンが、自分が出演するべき作品に悩む様子が描かれる。ヒット作や、自分の殻を破るような作品に出演したあと、俳優は何を目指せばいいのか。彼の逡巡を、ジェインがマネージャーとして寄り添い提案をしていく。俳優とマネージャー、でも、本音を言い合えば人と人。その姿に、仕事のやりがいの本質を見たように思う。
冷徹な印象を受けるマ理事役のイ・ソジンだが、わたしが一番好きなイ・ソジンは、バラエティ番組『三食ごはん』(tvN)に出演していたときの姿だ。俳優やタレントが田舎や漁村で暮らし、自給自足生活をする。日本でいうと、『ザ!鉄腕!DASH!!』(日テレ系)の「DASH村」や『アイ・アム・冒険少年』(TBS系)の無人島生活のようなイメージが近いだろうか。
『三食ごはん』でのイ・ソジンは、一緒に暮らすオク・テギョン(2PM)やエリック(SHINHWA)に年長者として敬われる立場。マ理事のような仏頂面をしながら、時々嫌な作業をサボろうとしたり、若いテギョンやエリックを心配したり、そうかと思えば突然やる気を出して「頼れるアニキ」になったりと、色々な面を見せる。寒い日に、あたたかいご飯を食べて顔をほころばせる姿が印象的だった。徐々にヒョンジュに優しい顔を見せるようになるマ理事に、『三食ごはん』の頃のイ・ソジンの姿が重なるようだ。
今後配信される予定の第9話の予告では、『イカゲーム』(2021年)のキム・ジュリョンが本人役で登場。高所恐怖症の克服に挑むようだ(『イカゲーム』で高所から落ちていたのに!)。どんな演技でメソッドエンターをかき回してくれるのか、いまから楽しみである。
出演:イ・ソジン、クァク・ソニョン、ソ・ヒョヌ、チュ・ヒョンヨン、シム・ソヨン、キム・グッキ、キム・テオ、ファン・セオン、ノ・サンヒョン、シン・ヒョンスン、チョン・ヘヨン 他
監督:ペク・スンリョン
脚本:パク・ソヨン、イ・チャン
原作:ドラマ『エージェント物語』(フランス/2015年)
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