まだ語りたい『六本木クラス』茂会長の土下座が日本版で改変された意味は?最終話考察

Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』を竹内涼真主演で「日韓共同プロジェクト」でリメイクした「ジャパン・オリジナル版」『六本木クラス』(テレビ朝日系)が、先週9月29日、13話で最終回を迎えた。telling,で『梨泰院クラス』の全話レビューを手がけたゲーム作家の米光一成が考察します。
考察『六本木クラス』12話。新と葵は愛まっしぐら!長屋茂はどんな土下座をするのか?今夜最終回

形だけの土下座

『六本木クラス』最終回。
宮部新(竹内涼真)は、「父さんが俺の居場所を知っている」という長屋龍河(早乙女太一)のメッセージを受け取る。
新は、病院から抜け出し、長屋茂会長(香川照之)のところへ行く。
茂は「この私に、土下座できるか?」と問う。息子のしでかした拉致事件にかこつけて、新に土下座させようとするのだ。
だが、前回検証したように、もはや新は土下座させることに価値を見出す世界観から解放されている。
しかも、麻宮葵(平手友梨奈)を助けることに命をかけているのだ。
だから「何千回でも何万回でも、できる」と土下座する。
「人生最後の楽しみだと思って期待していたが、拍子抜けだ。くっだらないにもほどがある」と、茂は喜べない。
新は土下座をしているが、茂に屈していないことが明らかだ。
形だけの土下座の代わりに、茂は息子の居場所を新に教えることになる。

最高の幸せをくれたのは葵だ

一方、拉致された葵。「3つ数えたら飛びかかるよ」と言いながら、「ごめん龍二!」と長屋龍二(鈴鹿央士)を押し出し「ファイト!」と言い放って逃亡する。目的のためには手段を選ばない葵のクールさがひさしぶりに発揮された。
助けにきた新は、葵と再会。葵の頭に手をのせて「なんでだ。頭の中が葵でいっぱいだ。俺の人生に最高の幸せをくれたのは、葵だ」と言って抱きしめる。
という幸福を噛みしめる間もなく龍河が襲撃してくる。
龍河、新の顔にナイフを突きつける。が、葵が鉄の棒で後頭部を殴打。
最終話、これで龍河は3度目の後頭部殴打である(1回目は龍二に木の椅子で殴打され、2回目は隠れていた葵から棒で殴打される)。
「おまえ、ゾンビかよ」ってセリフを龍河は吐くが、どちらかというと龍河がゾンビのごときしぶとさである。
警察も駆けつけてきて、龍河一味は逮捕される。
「罪悪感ないのか?」という新の問いかけに対して、龍河は
「おまえは、家畜を食う時に罪悪感持つのか?」と答え、新を殴る。
龍河は、父の茂に何度も見捨てられながら、父の教育の檻から抜け出せないでいる。

土下座をさせない新

そして、茂の番だ。
茂が「二代目みやべ」へやってくる。
「こんなうまい料理を食わせてもらったのに、あろうことか、金を持ってこなかった」
から揚げに箸をつけた後に金を持ってないと言うのだ。
「他のもので、払っていいか」
と立ち上がり、「心から謝る。宮部部長と、君に。本当にひどいことをした」と謝罪する。
本家『梨泰院クラス』では、ここから会長の土下座シーンへ突入する。
パク・セロイは、チャン・デヒ会長の土下座を見たうえで、「夢みていた光景なのに心の底から喜べない」と言って「これはビジネスです」と突き放すのだ。

日本版は、土下座しようとする茂を新がさえぎる。
「いまのあなたが土下座をしたところで何の価値もありませんよ」
と新は、土下座をさせない。
土下座を象徴とする権力志向な世界から決別した新ならそうするだろうと思わせるしっかりしたアレンジで良かった。

場所は「二代目みやべ」だ

もうひとつ新のために映像のマジックが使われている。
最終回、事件解決後も、新が六本木クラスのCEOとしてバリバリ働く姿は、ほとんど映し出されない。
第11話、第12話では、のし上がって大企業化し、初期メンバーはみんな偉い地位について、六本木の高層ビルで働いていた。その姿をばっちりと映し出しだ。
だが、最終話では、ほとんど巨大ビルで活躍する姿は登場しない。新だけじゃなく創業メンバーは、もとの居酒屋「二代目みやべ」に、たむろしているのだ。
楠木優香(新木優子)が「自分のお店出すんだ」と報告するのも、内山亮太(中尾明慶)が綾瀬りく(さとうほなみ)を映画に誘うのも、甘い酒を新が飲む幸福なシーンも、場所は「二代目みやべ」だ。

そう。葵の拉致事件の救出に向かった亮太が、もともと入っていた組織のボスに「こっちの世界が合ってるんじゃねぇか」と言われたときに答えたセリフは「おれは居酒屋の店員が、最高に合ってます」だ。六本木クラスの本部長ではなく「居酒屋の店員」なのだ。
復讐の呪縛から逃れ、なりふりかまわず成り上がったロールモデルに失望した新は、これからどうするのだろうか。
権力志向の呪縛から解放された新は、葵との日々の生活に喜びを見出すのだろう。
少なくとも、巨大ビルのCEOよりも、「二代目みやべ」にいる姿のほうが似合っているのは確かだ。

考察『六本木クラス』12話。新と葵は愛まっしぐら!長屋茂はどんな土下座をするのか?今夜最終回

テレビ朝日系 木曜ドラマ『六本木クラス』

毎週木曜よる9時〜
出演:竹内涼真、新木優子、平手友梨奈、早乙女太一、香川照之、稲森いずみ 他
脚本:徳尾浩司
音楽:髙見優
主題歌:[Alexandros]『Baby's Alright』
監督:田村直己、樹下直美 他
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:大江達樹、西山隆一、菊池誠(アズバーズ)
原作:チョ・グァンジン『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』(『ピッコマ』掲載中)、テレビシリーズ『梨泰院クラス』(JTBC)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
ドラマレビュー