考察『六本木クラス』10話「私は、トランスジェンダーです」素晴らしい日本版アレンジ

『六本木クラス』(テレビ朝日系)は、Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』を竹内涼真主演で「日韓共同プロジェクト」でリメイクした「ジャパン・オリジナル版」。いよいよ「料理番組対決編」のクライマックス! ジェンダー問題に激しく切り込んで感動を呼んだエピソードをどう描いたのか。telling,で『梨泰院クラス』の全話レビューを手がけたゲーム作家の米光一成が10話を考察します。
考察『六本木クラス』9話「愛してます」と繰り返す葵(平手友梨奈)の思いに新(竹内涼真)はなぜ応えられないのか

話題の美人料理人

『六本木クラス』9月15日の夜9時から第11話が放送。料理対決番組「三ツ星スタジアム」の優勝者が決まり、最終話に向けて怒涛の展開がはじまる。

第10話は、『梨泰院クラス』で傑作回と絶賛された「料理番組対決編」がクライマックス。さらに、宮部新(竹内涼真)が、楠木優香(新木優子)と麻宮葵(平手友梨奈)に同時に心情を激白する場面もあって、盛り上がりの連続だった。
料理対決番組「三ツ星スタジアム」の最終決戦直前に、綾瀬りく(さとうほなみ)に関するニュース「話題の美人料理人・綾瀬りく トランスジェンダー告白に、両親困惑」がネットに流れる。長屋龍二(鈴鹿央士)がリークしたのだ。
日本の今の状況とあわせて、受け取る側の反応や状況が微細にアレンジされていて、自然に観れた。
番組内で「美人料理人」「女性料理人」といった表現を使っていたことについて「われわれも配慮が足りず申し訳ありませんでした」とテレビ局員が謝罪する場面や、ショックを受けたときの「親に言ってないのに、なんで」というセリフや、りくが「いつか自分から話したいと思っている」と龍二に伝えてる回想シーンなどは、日本版にアレンジされた場面だ。

第10話は、投資を受ける話が白紙に戻される事件も同時進行で描かれる。
葵が「私を信じてください」と断言して進めたフランチャイズ計画がピンチになっていくのだ。
このあたりの展開、ビジネスドラマとしては実は強引だ。
いままでマネージャーとして超優秀だった葵が急にドジっこになる。
ちゃんと融資契約を結ぶ前に事業を進めるのもドジすぎるし、フランチャイズ計画の重要場面で長期休暇を取るのもトンチンカンだ。天才マネージャーの行動としては不自然なのだ。
だが、第9話で書いたように、『六本木クラス』は、「ビジネス立身出世」「恋の三角関係」「新の長屋への復讐」の3つのレイヤーを巧みに使い分けて観る者を自然に導く。
天才マネージャーとしての葵ではなく、「恋の三角関係」のレイヤーを全面に押し出し恋する葵の気持ちとして自然な流れにみせるのだ。
休暇に入ったのは、りくに「近すぎると見えないことも多いし」と、しばらく新と離れてみることをアドバイスされたからだ。
功を焦ったのも、みやべの成功(=長屋への復讐)を一刻でも速く達成したいからだろう(そうしないと新の心は、長屋のことでいっぱいで恋どころじゃないのだ)。

目は優香を、耳は葵に

第10話は、「恋の三角関係」「新の長屋への復讐」のレイヤーがシンクロし、新の恋愛ボンクラっぷりが炸裂する名場面がある。
「長屋への復讐、苦しみ、全部捨てて、一緒に幸せになろう」
と、優香が新に告白する。
新は、ふたりの関係は優香が決めればいいと言っていた。言っていたのだが、「長屋への復讐、苦しみ、全部捨てて」の部分は承服できない。
さらに、葵から電話がかかってくる。
電話に出るような状況じゃないだろうに、新は優香を見つめながら電話に出る。
葵は、投資が失敗に終わったことを謝罪し、責任を感じている。新は大丈夫だと伝える。
「葵は、俺に人生を賭けたんだろ。だったら俺を信じてほしい」
優香の手を握る。
「俺は、こんなんで潰れたりしない」
父親が殺され、証拠も隠蔽された話をして、
「俺の人生は一回終わってる。でも、それでも立ち直れたのは、復讐を心に誓ったからだ」
目は優香をしっかり捉え、耳は葵につながる電話を当てたまま、つまり恋の三角関係の相手ふたりに同時に喋りかける新。耳と目で分担して二股だ。
「だから復讐が終わるまでは、俺は幸せにはなれない」
優香、泣き崩れる。
「長屋に復讐するまでは恋なんてしない」宣言である。
告白した優香にとっては「ふられた」であり、すでにふられた葵にとっては「復讐を終えたらチャンスあり」というメッセージになった。

私はダイヤだ

葵の活躍によって、「三ツ星スタジアム」の最終決戦に勝てば投資してもらえる状況になる。
だが、新は、トランスジェンダーであることが思わぬタイミングで表に出されてショックを受けているりくに言う。
「逃げてもいい」
ちょっと考えて「いや、逃げるのとは違うか」。
りくを見て、続ける。
「別に間違ったことをしてるわけじゃない。でも世間の目に耐えなきゃいいけないほど大事なことでもない。りくはりくだから他人を納得させる必要なんてない。だいじょうぶ」
何事にも屈せず、人を第一に考える新らしい言葉だ。りくが泣く。新、頭にポンと手を置き、肩を抱く。

葵が電話でりくと話す。
「この状況でりくに、この詩を聞かせるわたしは、悪い女だね」と前置きして、りくのことを思い出したという詩を読んで聞かせる。
「私は石ころ 炎で焼いてみよ」
これは、『梨泰院クラス』オリジナルの詩だ。
スタジオの両開きのドアが開いて、りくが登場する。
[Alexandros]の「Baby's Alright」イントロが流れる。
凛としたりくの顔。決意!
「そんな自然の摂理さえ跳ね返す石ころ」
葵が朗読する詩がインサートされる。
りくが胸をはる。
「二代目みやべ料理長、綾瀬りく。私は、トランスジェンダーです」
りくが宣言する。
葵の声で詩の最後のフレーズが追いかける。
「生き残った私は
 私は
 私は
 ダイヤだ」
強い。

考察『六本木クラス』9話「愛してます」と繰り返す葵(平手友梨奈)の思いに新(竹内涼真)はなぜ応えられないのか

テレビ朝日系 木曜ドラマ『六本木クラス』

毎週木曜よる9時〜
出演:竹内涼真、新木優子、平手友梨奈、早乙女太一、香川照之、稲森いずみ 他
脚本:徳尾浩司
音楽:髙見優
主題歌:[Alexandros]『Baby's Alright』
監督:田村直己、樹下直美 他
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:大江達樹、西山隆一、菊池誠(アズバーズ)
原作:チョ・グァンジン『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』(『ピッコマ』掲載中)、テレビシリーズ『梨泰院クラス』(JTBC)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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