有村架純×中村倫也『石子と羽男』9話。あまりにも騙されやすい赤楚衛二のキャラクターを考える

金曜ドラマ『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』(TBS系)、第9話のテーマは「放火殺人」。有村架純と中村倫也をダブル主演に迎え、『MIU404』『最愛』(ともにTBS系)などを手掛けた新井順子プロデューサー×塚原あゆ子ディレクターがタッグを組んだドラマの第9話を振り返ります。
有村架純×中村倫也『石子と羽男』 8話「モチのロン」で心を掴む梶原善、「暮らしを守る傘」とは雨傘とランプシェード

「私たちが大庭さんを雨から守ります」

大庭蒼生(赤楚衛二)の勾留期間が満期になるまでに事件を解明しなければいけない、タイムリミットの緊迫感に満ちた第9話だった。

石子こと石田硝子(有村架純)、羽男こと羽根岡佳男(中村倫也)らと潮法律事務所で働いていた大庭は、オフィス用品販売会社「ナカマル」に転職。ナカマルの社長・刀根(坪倉由幸)に期待されて順調に働いていた。そんなある日、大庭は突然「放火」の疑いで逮捕、勾留される。

起訴前の勾留期間は、原則10日間、最長でも20日間とされている。事件について何も語らない大庭と、どうにか勾留期間中に大庭の無実を証明したい石子と羽男。その膠着状態を崩したのは、石子と羽男が培ってきた連携プレーだった。

予想外の事態に動揺してしまう羽男のため、石子は裁判などの前に羽男と事前練習をする。石子が台本を考え、話し方の抑揚や、ときには目線配りなどまで細かく練習をしておく。例えば、前回の第8話では、石子の台本のおかげで、羽男が緊張してしまう相手である弁護士の丹澤(宮野真守)に一杯食わせることができた。そうした連携が、台本のセリフを読み指導する石子の姿と、法廷で堂々と話す羽男の姿を交互に、オーバーラップの手法で描かれるのもドラマの見どころだ。

今回、そのちからが発揮されたのは法廷ではなく、留置場にいる大庭に対してだ。大庭は、弟の拓(望月歩)に放火殺人の疑いが向けられないようにかばい、自分がやったと認めていた。石子からの手紙、それを読む羽男が、大庭にその真実を語らせた。

「声をあげていただかなければ、お手伝いすることができません。今度は、私が傘を差し出す番です。ずぶ濡れの私を助けてくれたように、私たちが大庭さんを雨から守ります」

拓のことで目の前がいっぱいになっていた大庭が、石子と羽男という頼れる存在に気づいた。この手紙の言葉や書かれている傘の思い出は石子のものだ。けれど、これまでの積み重ねから、羽男が読むことでそこに状況を動かすちからが加わるのがわかる。いよいよ『石子と羽男』がクライマックスに向かっているのだという盛り上がりを感じるシーンだ。

「なんとか拓を守りたいんです」と声をあげた大庭の背後から光が差し込む。純粋にふたりを信じる大庭の気持ちが光となって、向かい合う羽男にまで届いているようだった。

明らかになった大庭の弟の存在

放火殺人の事件をとおして、大庭に関するさまざまなことが明らかになっていく。

まずは大庭の家族、特に弟の拓の存在だ。拓について、大庭は「生まれつき人と接するのが苦手で」と話した。そのため、明るい時間は家からほとんど出ず、人が少ない夜に散歩をする。拓が放火事件に遭遇したのは、その散歩の間のことだった。

事件について知り、留置場にいる兄を助けるため、ひとりで警察署に向かった拓。そのとき、彼が道路の白線のうえだけをとおっている様子が描かれていた。仕事道具の筆に羽男が触れたとき、「だめです」と言って筆の揺れを止めようとする姿もあった。

人と接するのが苦手で、こだわりが強く、時間をかけないと自分の言いたいことを話せない。何らかの発達障害だろうと推察するが、作中では、拓について障害という言葉を用いて紹介されることはない。ただ「人と接するのが苦手」な性格の人。『石子と羽男』では、あえて拓の性質を病名などで決めつけない。

大庭と拓は1日1回は電話をするほど仲が良い兄弟だったという。たくさんの「蒼」という字を書いていた拓は、大庭が逮捕されたことを知らないとはいえ、電話がないことで大庭に何かあったのだとわかっていたのではないか。

それに、大庭は親に石子との交際を伝えていた。きっと拓にも、石子の話をしていたのではないだろうか。拓が石子に早くも心を開きかけていたのは、羽男が言っていたような石子の人に寄り添う性格によるものだけでなく、大好きな兄の話に出てきた人だからではないか。電話のエピソードから、そんな想像を膨らませた。

騙されやすい大庭というキャラクター

大庭についてわかったもうひとつのことは、彼があまりにも騙されやすい人だということだ。

「俺、騙されてたんですか」
「多分ね」
「また裏切られたのか……」

ナカマルの刀根社長は、大庭を不動産仲介の会社「グリーンエステート」の代表取締役社長にしていた。「君はうちのエースだから」という期待の言葉を信じて、大庭は名義貸しをした。そのせいで、グリーンエステートで不動産投資契約をした日向理一郎(平田広明)に恨まれる。理一郎の焼身自殺に拓を巻き込み、放火殺人の疑いで逮捕される。

「すいません、全部俺が悪いんです。すべて……」と自分を責める大庭に羽男がかけた言葉は「そうだね」。大庭が簡単に名義貸しをしたこと、嘘の供述をしたことは反省すべきだと指摘する。そのうえで、「でも、それ以上の反省はする必要ないから。ちょっと、自分のこと責めすぎ」と言って聞かせた。

大庭がこんなに騙されやすいのはなぜだろうと考えていた。石子と羽男のそばで、危うく「ひき逃げ犯」として必要以上の罪を背負うことになりかけた第4話の一奈(生見愛瑠)や、払う必要のない慰謝料50万円を支払いかけていた第5話の重野(中村梅雀)らの姿を見てきたはず。自分も注意しようと思わないのか。

「本当に責められるべきなのは、人をだます奴」だと羽男が言う。確かにそうなのだ。大庭に対して「もっと注意すればいいのに」とモヤモヤとしてしまったのは、二次加害的な考えだったと反省する。

そして、最後の石子と羽男を抱きしめる大庭の姿と、父親に小突かれ、拓に頭を下げる大庭の姿。それを見て、彼は「つまづいてもやり直せること」を象徴するキャラクターでもあるのではないかと思うようになった。

大庭の「また裏切られたのか……」という言葉が引っ掛かっている。スピンオフドラマ『塩介と甘実─蕎麦ができるまで探偵─』(Paraviにて配信)の「事案03」でも、大庭は起業詐欺に騙されかけている。何度も人に騙された経験がある大庭は、人を疑えない特性を持っている人物かもしれない。大庭と拓は、生きづらさのグラデーションの中にいる兄弟のように見える。

悲しいことに、理一郎は不動産投資詐欺に遭ったせいで、焼身自殺にまで追い詰められてしまった。ひとつ間違えば、拓、あるいは大庭自身もそれに巻き込まれて殺されてしまっていたかもしれない。けれど、大庭は声をあげ、自分が騙されたことを受け止めて、再び石子、羽男や家族のもとに帰ってきた。

石子の言うように「声をあげる」ことで、助かる人、助けられない人がわかれてしまう。大庭の素直さは騙されやすいという危うい面を持つ。けれど、声をあげれば助けてくれる人がいるのだという希望の存在でもあるのだ。

綿郎の言葉の意味を考える

「結局ね、騙されるやつは騙され続けるんですよ。ちからのない者に情報は回らない。知らないから、負け続ける」

エンジェル投資家の御子神慶(田中哲司)は言う。御子神のそばで笑っているのは、石子の父親・潮綿郎(さだまさし)だ。御子神と綿郎に接点があったとは。

綿郎は、整体師の高岡(森下能幸)の不動産投資詐欺被害について1年前から調べているが、訴えるには至っていない。高岡が潮法律事務所に相談をしに来たのが2022年の2月、理一郎の焼身自殺と思われる事件があったのは、2023年の3月9日だ。石子は、高岡と理一郎が被害に遭った不動産投資詐欺の手口があまりに似ていることに気づく。

「詐欺はほら、なかなか証拠が集まらないだろう」という綿郎の言葉からは、御子神と接触して証拠を引き出そうとしていると想像することもできる。そうであってほしい、御子神とグルであってほしくない、という願いもある。

実際の不動産投資に関する事件では、2018年の「かぼちゃの馬車事件」などが記憶に新しい。シェアハウスの不動産投資が破綻し、投資家たちに保証されていた賃料などが支払われなくなった事件だ。このとき、投資家の多くが実際の物件を見ずに投資を決めていたそうだ。ドラマの高岡、理一郎も、実際の投資物件を見ていなかったという点や、被害者らが共同で訴えを起こすという点などが似ている。

かぼちゃの馬車事件は2018年に起こった事件だが、このドラマで不動産投資詐欺が扱われるということは、2022年のいま現在も同様の事件やトラブルがわたしたちの身近にある。石子と羽男が最後に挑む大きな事件。綿郎、泰助(イッセー尾形)という、立ちはだかる「父親たち」の存在。それらに石子と羽男はどんな結末をつけるのか。

最終話は、9月16日(金)放送予定だ。

有村架純×中村倫也『石子と羽男』 8話「モチのロン」で心を掴む梶原善、「暮らしを守る傘」とは雨傘とランプシェード

TBS系『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』

毎週金曜よる10時~
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし 他
脚本:西田征史
音楽:得田真裕
主題歌:RADWIMPS「人間ごっこ」
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子

ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。
ドラマレビュー