有村架純×中村倫也『石子と羽男』6話。赤楚衛二の優しさが染みる東京タワーの明かり
大庭の存在感に似ていて
第5話で、大庭蒼生(赤楚衛二)から「俺と付き合ってください」と告白をされた石子こと石田硝子(有村架純)。たっぷりと悩み、8月19日(金)に放送の第6話の最後に、その告白を受けることにした。
東京都港区芝公園にある増上寺で待ち合わせていたふたり。石階段をあがる途中で大庭が待っている。石子は階段の下から登場。階段をあがっていくふたりの足並みが、ゆっくりと揃っていく。
「自分の好意が100%と言い切れない中、お付き合いしていいものなのかどうか迷いがあります。ルール違反なんじゃないかと」
石子は羽男こと羽根岡佳男(中村倫也)に、大庭からの告白の返事ができていない理由をこう話していた。羽男は「かったいね~」と呆れる。自分と大庭の気持ちが同じではないと感じ、石子は悩んでいた。
増上寺の階段で、石子は大庭に「告白、嬉しかったです」と言い、何に悩んでいたかも大庭に話したうえで、こう続ける。
「一緒に過ごす中で思いを積み重ねてゆくゆく100%になれれば、それはそれでいいのかもと思いはじめました。お付き合いの定義が、大庭さんと私で違うかもしれませんし、そのあたりは、おいおい確認しつつということになりますが、ぜひ告白をお受けさせていただきたく存じます」
先に思いがあった大庭を、石子が追いかけるかたちで交際がはじまる。階段のシーンは、今後ふたりの思いの足並みが揃っていく未来を予感させるようだ。石子の返事を聞いた大庭は「ありがとうございます」と感極まり抱きつく。その後ろには、ライトアップされた東京タワーが映る。
大庭から石子への告白のときには、背景にスカイツリーが見えていた。スカイツリーが見えて都電が走る城東地域周辺を舞台としているであろうこのドラマで、今回は東京タワーが登場した。石子が恋愛をすること、告白の返事をすることの日常とは違った緊張感が、増上寺と東京タワーというロケーションに表れていたように思う。
石子は、スイッチなど細かい部分まで掃除して、でもそれを口にしない大庭の奥ゆかしさや、まわりくどい話し方から滲む誠実さなど、日常の中の大庭のすてきなところをたくさん知っていた。はっきりとは「好き」と思っていなくても、石子の日常の中に大庭の良さがすっかり入り込んでいたのだ。
大庭からの告白のおかげで、彼の良さを改めて言葉にできた。東京タワーの明かりは、何気ない日常の中で大きくなっていった大庭の存在感に似て、優しくあたたかだった。
「法律だけ」では解決できない
今回の依頼人である高梨拓真(ウエンツ瑛士)は、依頼を通してあることに気づいた。依頼内容は、引っ越したばかりの分譲賃貸マンションについてだ。
拓真は、妻の文香(西原亜希)と幼い双子の息子の4人家族。文香は元々育児ノイローゼ気味だった。そこに「その部屋は呪われている幽霊物件です」という手紙が届き、幻覚や幻聴を訴えるようになる。不動産屋から孤独死があった部屋だと知らされていなかった拓真は、引っ越し費用の請求と違約金発生の契約の無効を求めて羽男に相談をする。
「何とかしたい、でも裁判はできない。弁護あるあるだな」と羽男はこぼした。高梨家はすぐに引っ越しをしたいが、そのためには不動産屋に引っ越し費用を払ってもらい、違約金を無効にしてもらう必要がある。しかし、不動産屋の六車社長(佐藤仁美)は告知義務違反を認めず、「幽霊が出る」と裁判でも起こせばいいと言う。裁判をすれば判決が出るまでの間引っ越しができない。裁判は、スピードを求める問題には弱い部分がある。
石子と羽男は、育児休暇は正当な権利だと拓真に話す。しかし、拓真にこう返されてしまう。
「法律としてはそうでも、きれいごとだけじゃ生きていけませんから」
トラブルを解決するとき、法律だけではどうしようもできない。そんなもどかしさを石子も抱えていた。
石子は第1話からずっと、声をあげること、法律や弁護士を頼ることを人に勧めていた。だが、拓真のように、法律に権利を守られていても実際にはそれを活用できず、苦しさを抱えているひとがいる。のちに、「幽霊物件です」の手紙の送り主もまた、ルールがあってもそれにはじかれる悩みを抱えるひとだと判明する。拓真は送り主の苦しさを理解してそれを許す。
告知義務違反の問題は、石子と羽男によって解決。高梨家も無事に新しい家に引っ越しできた。トラブルの中で拓真は、自分の育児への関わり方が不十分であり、文香に負担をかけていたと気づく。これからは、自分のできる些細なことを増やしていこうと気持ちを新たにしたことを石子たちに話す。
「今年の秋から産後パパ育休制度がスタートしますが、実際のところ小さい会社では利用できない方も多いんだろうなと。法律に携わる身としてもどかしかったんです。でも、高梨さんのように考える方が増えるだけでも、社会が変わっていく気がしました」
「きれいごとだけじゃ生きていけませんから」という拓真の言葉を気にしていた石子は、彼の気持ちの変化から、法律に頼る以外にも社会を変えていく方法はあるのだと学んだ。
父親を単純な「悪者」にしない
拓真は育児を妻に丸投げしている夫ではなかった。息子たちの泣き声が聞こえれば、来客中でも様子を見に行く。少人数のスタートアップ企業で働き、仕事が忙しいながら、妻のことを心配して羽男に依頼をした。「TwitterのDM」という依頼方法に、羽男は自分のブランディングが上手くいったのだと浮かれていた。実際のところは、SNSでの検索、DMでの相談という短い時間しか取れないほど忙しかった拓真の状況の表れだったようにも思う。
文香がドラマの中で拓真を責めることはなかった。「イヤイヤ期がはじまったみたい」と言う拓真に「はじまったかあ」と笑う。彼女も拓真のがんばりを認めている。問題の原因は育児ノイローゼとは別の部分にあることを表していた。
この記事を書いているわたしの兄弟にも幼いこどもがいる。忙しい仕事をしながら、できる限りの時間を使い育児に参加しているように見える。しかし、父親である彼をより近くで見ている家族からすれば、足りない面もあるかもしれない。でも、一生懸命何かをしようとする気持ちがあるのだけは確かだと言える。こどものいる若い夫婦の夫には、こんな拓真のようなひとも多いのではないだろうか。
拓真を「育児に参加せず、弁護士に依頼するなどだけはやる夫」として描けば、拓真の悪い面を指摘し、それで留飲を下げることもできたかもしれない。しかし、このドラマは、彼を育児に参加しつつも十分にできないジレンマを抱えたひととして登場させた。いまの時代を生きるひとの姿を誠実に切り取るドラマである。
中村倫也に匂わされた小池徹平の姿
ところで、このドラマは毎話、有村架純と中村倫也らの寸劇からスタートする。今回は、事務員風の制服を着た有村が、椅子の上にしゃがむように座る中村に物件情報を手渡すという寸劇だった。この中村が、漫画『DEATH NOTE』(集英社)の登場人物・L(エル)によく似ていた。
Lは、もっさりとした黒髪で白いロングTシャツとゆるいジーンズを穿いている。椅子にお尻をつけずしゃがむようにして座り、その横にはお茶とお菓子が常に用意されている。中村はそれを模していたように見えた。
『DEATH NOTE』は映画版、テレビアニメ版などさまざまなメディアミックスが展開されているが、今回の中村のLのような姿を見て思い出したのは、2015年に公演があったミュージカル『デスノート THE MUSICAL』だ。このとき、Lを演じてその演技が話題となったのが小池徹平。小池は、高梨拓真を演じたウエンツ瑛士と、2016年まで「WaT」という音楽デュオを組み活動していた。
WaTの解散のときは、ファンから強く惜しむ声が上がっていたのを覚えている。それから6年が経ついまでも、時折SNSなどでWaTの復活を望む投稿や、小池、ウエンツそれぞれの活躍を喜ぶファンの様子を目にすることがある。
ゲスト俳優がウエンツの回での中村のLの扮装に、WaTとそのファンの姿を思い出さずにはいられなかった。
また、「このひとが出ると何かある」と感じるキャスティングが今回もあった。高梨家と同じマンションに住む金子を演じた伊藤修子だ。コメディエンヌとして人気の伊藤が、マンションの集まりにチラッと登場、で終わるわけがない。不動産屋の「告知義務違反」やさらなる悪事を証明する重要情報を持って、あらあらまあまあと気軽に潮法律事務所を訪れていた。
石子と羽男に事務所に置いていかれても、お茶菓子のこんにゃくサブレを「でも、なんかちょっと、ねっ、いただいていこうかしら」と食べて帰ろうとするおちゃめさ。困っているのにあまり困っているように見えない、見ていて不安の残らない演技に笑ってしまう。
石子と大庭の交際がはじまり、羽男は石子のプライベートが充実するように「今回みたいに俺が依頼持ってきて解決してみせるから。そこは心配いらないよ」と頼もしい弁護士になっていく。第7話以降は、第5話でほんの少し登場した田中哲司が演じる御子神の再登場や、石子と父・潮綿郎(さだまさし)との家庭事情など、謎の残る部分が明かされていくだろう。
第7話では、居場所のない若者たちが集まる場所で石子と羽男が聞き込みをしていく。最近話題となり、いくつかの事件も起きている「トー横キッズ」界隈を思わせる少女たちとして、ゲスト俳優には片岡凜と小林星蘭が登場。「このひとが出ると何かある」と思わせる俳優・野間口徹の姿も予告にある。さまよう若者たちの姿を、ドラマ『石子と羽男』はどう切り取って見せるのだろうか。
毎週金曜よる10時~
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし 他
脚本:西田征史
音楽:得田真裕
主題歌:RADWIMPS「人間ごっこ」
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子
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