赤楚衛二に注目!『石子と羽男』4話。キャラクターを活かすセットと光を考察
めるるが電動キックボードで事故を起こす
8月5日(金)放送の金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)第4話。アルバイトの帰り道、電動キックボードで走行していた堂前一奈(生見愛瑠)は、路上駐車されていたワゴン車の影から飛び出してきた新庄隆信(じろう/シソンヌ)とぶつかってしまう。隆信は「ケガはない、何もしなくていい」と立ち去る。後日、隆信の容体が急変し、警察が一奈をひき逃げ事件の容疑者として逮捕した。
事故を起こしたことは一奈も認め、自分から後日警察に連絡をしている。問題は、隆信が一奈について「すぐに立ち去った」と話していることだった。もしそれが本当ならば、一奈は「救護義務・報告義務違反」となる。しかし、一奈はすぐに駆け寄って「ケガはないですか。警察と救急車呼びます」と声をかけたという。被害者と被疑者の意見が違っている。
弁護士の羽男こと羽根岡佳男(中村倫也)は一奈の弁護を担当するも、事故後に一奈がすぐ隆信に駆け寄ったという証拠を探し出すことがなかなかできない。裁判では、羽男の姉で検事の優乃(MEGUMI)と争うことになった。
「あんたが未熟だったら、依頼人が不幸になるんだよ? ひとの人生背負う覚悟持ってやってる? そうじゃないんだったら、弁護士辞めたほうがいい」
優乃の言葉に、羽男は反論できない。フォトグラフィックメモリーというずば抜けた記憶力だけを武器に生きてきた羽男は、それ以外の自分に自信が持てていない。
羽男のパラリーガルを務める石子こと石田硝子(有村架純)に、優乃は「身内に甘すぎるっていうのも考えものだよね」と言う。第3話で登場した羽男の父で裁判官の泰助(イッセー尾形)は、羽男の弱さに目を向けず「君は天才だ」と褒めちぎっていた。優乃は泰助のことを「身内に甘い」と言ったかに思われたが、その言葉には別の意味があった。
勧善懲悪ではないドラマ
車やバイクの運転免許を持っていなかったり普段運転をしなかったりすると、「救護義務違反」「報告義務違反」はなかなか知る機会のない法律かもしれない。いわゆる「ひき逃げ」のことだ。
人身事故が起きた際、運転者には、怪我人に声をかけ安全な場所に移動させたり、警察に連絡をしたりする義務がある。もし事故の相手が立ち去ってしまったとしても、現場検証などのためにその場ですぐに警察に連絡しなければいけない。
事故を起こしてしまうとパニックになり、警察を呼ぶことに頭が回らないひともいるという。それでも自分にどこまで非があるか、どんな規模の事故なのかを第三者に確認してもらうために事故の報告はおこなう必要がある。その点でいうと、一奈が警察への報告義務違反をしていることは明らかだ。
『石子と羽男』の面白いのは、依頼人の自覚していない(場合によってはよかれと行動した)ことの罪の深さにも踏み込むことだ。
第1話では、職場いじめに巻き込まれた同僚のために依頼人の大庭蒼生(赤楚衛二)が盗撮をしていた。その際、盗撮そのものがトラブルになる可能性があるとして描かれていた(その映像はトラブル解決のヒントとはなるが、職場いじめの証拠の決定打は、同僚が録音していた音声データだった)。
小学生が成人だと偽ってスマホゲームに課金した第2話の依頼人は、課金の正当性を疑って依頼してきた親。子どもが嘘を吐いたのは、自分を思い苦労している親を思ってのことだった。それがたくさんのひとに迷惑をかけた。第3話では「ファスト映画」の投稿という軽い気持ちでおこなったことが、誰かの長年の努力や人生そのものを踏みにじる怖さがあった(3話は国選弁護人案件)。
そして今回の第4話は、電動キックボード。レンタルなどで簡単に乗ることができるようになっているが、その気軽さゆえに「自分が人を傷付けてしまうかもしれない」という恐ろしさを忘れがちな乗り物だ。
姉の絵実(趣里)たちの努力で事故現場にいた車が見つかり、ドライブレコーダーから、一奈はひき逃げをしていないと証明された。それでも、人身事故を起こしたのは事実。判決は、懲役2年、執行猶予3年。さらに民事で慰謝料や賠償金についても話し合っていかなければいけない。
ここまでも、未成年によるスマホゲームへの課金、ファスト映画の著作権法違反など身近な問題を扱ってきた現実に即した実態を描こうという思いが感じられる。
実際のニュース映像も用いられるのも特筆したい。毎話、事件のあとに『Nスタ』や『ひるおび』(ともにTBS系)などの現実のニュース映像を差し込むことで「これは実際に起きている、起きる可能性がある問題なんだ」という真実味を頭のどこかに残していく。
「(隆信の)お子さんに、私たちと同じ思いをさせずに済んで良かった」
交通事故で両親を亡くした過去を持つ絵実と一奈。一奈に刑が言い渡されたあと、絵実の言葉がそう続いた。
石子と羽男の奥にいる大庭の存在感
石子と羽男、潮綿郎(さだまさし)、大庭が働く潮法律事務所のセットは、倉庫の中につくられていて(参考:TBSテレビの最新情報「『石子と羽男』スタジオセットではありえない長さ!? 潮法律事務所の裏側!」)、奥行きがかなりある。今回その奥行きが、大庭のために活かされていた。
優乃に言われたことを気にしている様子の羽男を、石子が飲みに誘うシーンがあった。
「納豆、食べないんだそうです」
「は?」
「酒蔵で働くひとって、納豆好きでも、日本酒を造る期間食べないらしいです」
「何の話?」
突然納豆の話を始める石子。羽男が「何の話?」と言ったところで、少し下を向いたまま聞き耳を立てているような大庭の横顔が映る。石子は続ける。
「お酒が必要とする微生物を納豆菌が殺さないための努力なんですって。これ知ると、日本酒飲みたくなりません?」
入り口でこう話す石子の後ろ、事務所の中にいる大庭がややぼんやりと映り続けている。
「飲み行こう、ってこと?」
羽男がそう言うと、ようやく大庭の視線が動き石子を見る。しかし、「ええ」と返事をしながら石子は入り口の扉を閉めてしまう。奥にいる大庭がここでシャットアウトされる。石子と羽男の会話が面白くて気を取られてしまうが、この場面はあえて大庭に注目したい。
その後、羽男が石子を飲みに誘う場面がある。「ふるさと納税やってる?」という、こちらも不器用な誘い文句ではじまる。羽男が主体となって石子を誘う場面には、大庭はいない。彼が見ているのは、いつも石子だけだからだ。
大庭は、羽男と石子がふたりで飲みに行ったのが気になりはするものの、羽男を敵視したりはしない。石子が誰かを誘うのが気になるだけ。石子と羽男がピンチのときにも、大庭は「石子先輩!」と一直線に石子を助けに向かった。向かった相手に阻まれ、倒れた石子を抱き留めたのが結局羽男であるというのがなんとも切ない。
今回お互いに「相棒」と認め合った石子と羽男のふたり。大庭はその間になかなか入れないでいるが、そのもどかしさがセットの奥行きやちょっとしたセリフで表現されている。第4話では得意の剣道が役に立ったが、今後、大庭活躍回が増え、セットの奥からズイッと出てきてくれることを期待している。
「私の性格、ご存じですよね」の意味
セットやロケーションの使い方では、もう一つ見逃したくないのが優乃が上司らしき男性と話している場面だ。
優乃は上司に対して「(新庄隆信の言うことを信じるには)もう少し慎重になるべきだったのでは」と意見しながら階段を上ってくる。長い折り返し階段で「長いものには巻かれとこう」と言う上司。優乃の表情は固い。
上司は、一奈側の弁護士が優乃の弟・羽男であることを指摘し「手抜いたりしないよね?」と言う。「まさか。私の性格、ご存じですよね」と優乃が返し、上司は「ごめんごめん」と軽くいなす。
そして上司のあとについて階段を上がっていく優乃の顔がアップになる。そのとき、階段の窓から差す日の光が優乃の顔を照らす。その表情はニヤリと笑っているのだ。
「まさか。私の性格、ご存じですよね」というのは、もちろん「手を抜かない」という意味だ。そして「手を抜かない」というのは、羽男を負かすことに対してではなく、隆信が通っていた違法カジノの摘発に関すること。一奈と隆信のどちらが嘘を吐いているのかを争うストーリーの中で、嘘を吐かず、しかし本当のことも言わずに目的を果たした優乃の手腕が光る。
石子と羽男の朝焼けで飲むビールのシーンといい、優乃が潮法律事務所に来たときに石子が核心をつくシーンの後ろから差す光といい、このドラマはどれだけ光にこだわるのだろうか。光を美しく撮るための、セットやロケーション、時間帯などへのこだわりの深さに、毎話驚かされる。
次回、第5話は「相隣紛争」の問題。隣の家の木の枝が伸びてきて毛虫が発生、隣の家のピアノの音がうるさい、などの「ご近所トラブル」に羽男が駆り出される。ゲスト俳優は、中村梅雀と風吹ジュンという豪華なふたり。
トラブルを相談しに来たのが石子に思いを寄せる塩崎(おいでやす小田)である第5話で、大庭が石子への告白宣言をするようだ。人間関係や大庭の思いの変化なども楽しみにしたい。
毎週金曜よる10時~
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし 他
脚本:西田征史
音楽:得田真裕
主題歌:RADWIMPS「人間ごっこ」
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子
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