有村架純×中村倫也『石子と羽男』5話。羽男の冷たい態度にハラハラ。一瞬の田中哲司が不穏すぎる!
こじれていく石子と羽男、重野と万寿江
8月12日(金)放送の金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)、第5話のタイトルは「相隣紛争」。
塩崎(おいでやす小田)の叔父・重野義行(中村梅雀)の家の敷地内に、隣の家の梅の木の枝が伸びてきて毛虫が大量発生。自分の家の敷地内であっても、隣人の木の枝を勝手に切ることは違法だ。そこで、塩崎が石子こと石田梢子(有村架純)らの潮法律事務所に相談をしてきた。
重野は隣人に梅の木の対処をお願いすることにあまり乗り気ではない。隣人の有森万寿江(風吹ジュン)と重野は元々は仲が良かった。しかし、重野は石子と羽男こと羽根岡佳男(中村倫也)に「挨拶くらい」しか交流がないと言う。何か隠している様子の重野。そんな彼に、今度は町内会長・川越(渡辺哲)によって万寿江側から「ピアノの騒音への慰謝料」として50万円を要求する内容証明郵便が届いてしまう。
塩崎、川越、石子や羽男の介入によって、重野と万寿江の仲は思いもよらない方向にこじれていく。
一方、第4話で「相棒」として認め合った石子と羽男。だが、羽男は石子に「君、もういいよ」「出しゃばり過ぎじゃない? 君、パラリーガル。俺の方針に従ってくれないと」と言って突き放す。相棒として信頼関係が築けてきたと感じていた石子は、突然の羽男の態度の変化に戸惑い悩みを抱える。
渡辺哲、田中哲司、不穏なおじさんたち登場
ベテランおじさん俳優が贅沢に出演し、ハラハラ感の高まった回だった。
渡辺哲が演じる町内会長・川越は、石子と大庭蒼生(赤楚衛二)が聞き込みに行ったときにはニコニコとした優しそうなおじいちゃん。ところが、石子と羽男が騒音問題の取り下げについて話していると、背後からヌウッと現れ「そういうもくろみかあ」と低い声でふたりに迫る。
今年72歳となった渡辺哲は、数多くの映画やドラマに幅広い役柄で出演している。映画『シン・ゴジラ』(2016年)では内閣危機管理監、『Pure Japanese』(2022年)では孫娘を思い暴力団と対峙する祖父の役を演じていた。Vシネマでは、警察側、暴力団側どちらも演じる。穏やかな笑顔から命のやり取りをする気迫ある表情への変化は、どの作品を見ても圧巻である。
そんな渡辺哲が登場した時点で、毛虫の問題は一筋縄ではいかない予感が走った。その予感どおり、重野と万寿江の問題に「慰謝料50万円」を持ちかけてきたのは川越であると明かされる。
また、大庭の転職希望企業の面接会場に現れた田中哲司も、一瞬の登場にも関わらず不穏なオーラを振りまいていた。彼を「御子神さん!」と呼ぶスーツ姿の社員たちに迎えられ車を降りた御子神は、サングラスに短パン、サンダルとラフでありながら威圧感が漏れ出て止まらない。思わず「こわっ!」とつぶやいてしまう。
田中もまた、登場するだけで「何かある」と思わせる存在感がある。ドラマ『あなたには渡さない』(2018年/テレビ朝日系)での1人の女性に一途に思いを寄せる男性役、『フルーツ宅配便』(2019年/テレビ東京系)での女性を物のように扱う悪徳店のオーナー役、どちらも説得力ある演技を見せていた。心の中で何を考えているか読めない、表に表れない怖さを醸し出す俳優だ。
川越は今回のみの出演だが、御子神は大庭の転職に合わせて今後もストーリーに関係してきそう。並々ならぬ圧を発するおじさん俳優陣に震える第5話であった。
「聞きたいことは聞いたほうがいいよ」
今回のストーリーからは「思いを言葉にする」ことの大切さが伝わってきた。羽男が石子に「君、もういいよ」「出しゃばり過ぎじゃない?」と突き放したのは、石子の体調が良くないと気づいて、休ませようとした配慮からの言葉だった。
また、重野が万寿江と疎遠になったのにも理由があった。重野は慢性腎不全で、週に3日は病院に通い、人工透析をしている。カリウムの含有量を気にしなければいけない食事の制約もある。「老い先長くない」と自覚している中で万寿江と仲良くなり、迷惑をかけてしまうのを避けようと自ら離れていったのだ。
石子と羽男も、重野と万寿江も、互いに知りたいこと、言いたいことを言わずにいたために関係がギクシャクとしてしまう。
「あのね、聞きたいことは聞いたほうがいいよ。佳男、何考えてるかわかんないから」
羽男の姉・優乃(MEGUMI)は石子にそう助言する。大庭は、石子と羽男それぞれに「就職が決まったら石子先輩に告白する」と宣言する。優乃と大庭は、言いたいことは言う、聞きたいことは聞くというタイプなのだろう。
優乃の助言を素直に受け入れた石子は、羽男を問い詰めて、自分を気遣ってくれていたことを知る。「お心遣い、感謝いたします」と涙ぐみ、安心するやいなや仕事に関する私見を述べる。羽男に「元気なら元気でめんどくせえな!」と顔をしかめられるが、その言葉を聞いた石子は満足そうに笑うのだった。
石子と羽男のそんなやり取りに「思いを言葉にする」大切さを感じた。それだけではなく、ドラマでは「全てを見せないこと」で表現できる粋があると感じることもできた。石子たちに説得された重野が、万寿江の家を訪ねるシーンだ。
万寿江が庭の手入れをしていると、インターホンが鳴る。きっと、重野が万寿江を訪ねてきたのだろう。しかし、重野の姿は一切映らない。玄関のドアを開けた万寿江の驚きと嬉しさの表情が、ふたりの気持ちのすべてを物語っている。
コミュニケーションにおいては言葉にすることは大切だ。しかしドラマでは、すべてを見せないことでより伝わってくる思いがある。
抜かりない痛みや小道具による表現
石子の体調不良は、卵巣嚢腫(のうしゅ)が原因だった。病院で検査を受け、良性の腫瘍で治療すれば問題はないことがわかる。
石子がお腹の痛みを感じるとき、下腹部のさすり方が婦人科系の病気であるとわかるそれで、身体構造への理解が感じられた。優乃に「デリカシーがない」と言われていた羽男だが、婦人科系特有の病気ではないかと予想できるからこそ何も言えなかったのではないか、とも想像できる。
日傘ではなさそうな折り畳み傘を日傘代わりに使う石子の倹約家ぶりや、大庭が石子のために買ってきた差し入れのずっしりとした重みから感じる大きな感情など、今回もひとつひとつがなんと丁寧につくられたドラマだろうと感心することしきりである。
この先、再び登場するであろう御子神や、綿郎(さだまさし)が見ていたニュースサイトの「不動産投資詐欺でコンサルタントを名乗る3人の男を逮捕」という見出しなど、気になる点も多々残された第5話だった。
次回、第6話のテーマは「告知義務違反」。分譲マンションに越してきた一家が、部屋に幽霊が出ると潮法律事務所に相談にやってくる。ゲスト俳優は、ウエンツ瑛士、西原亜希、佐藤仁美だ。大庭の告白の結果も気になる第6話は、8月19日(金)放送予定。
毎週金曜よる10時~
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし 他
脚本:西田征史
音楽:得田真裕
主題歌:RADWIMPS「人間ごっこ」
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子
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