考察『六本木クラス』7話。葵(平手友梨奈)の空気を読まない言葉が、新(竹内涼真)のゲス落ちを救った

『六本木クラス』(テレビ朝日系)は、Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』を竹内涼真主演で「日韓共同プロジェクト」でリメイクした「ジャパン・オリジナル版」。宮部新(竹内涼真)と長屋茂(香川照之)の対立がいよいよ激化してきた7話をtelling,で『梨泰院クラス』の全話レビューを手がけたゲーム作家の米光一成が考察します。
考察『六本木クラス』6話。葵(平手友梨奈)愛の名場面!問われる「強さ」の本質

宮部新もゲス落ち?

『六本木クラス』第8話は、8月25日よる9時から放送である。「陥落!? ゲス親子」と予告編のテロップに出た通り、長屋龍河(早乙女太一)のダメゲスっぷりが炸裂する回になるだろう。早乙女太一演じる龍河のゲスっぷりは最高なので大期待だ。

第6話から第7話にかけて、物語のテーマ的にスリリングな展開をみせた。長屋茂がゲス親父になったように、宮部新が宮部新らしさを失いゲス落ちする崖っぷちに立った回だった。

「おまえはマネージャー失格だ」
新は、麻宮葵(平手友梨奈)のマネージャーの名札をもぎとって床に捨てる。
さらに、怒鳴りつける。
「どうして仲間を切り捨てることになるんだよ!」
葵は、ひるまずに、具体的な代案を出せと社長に迫る。
新は「ビルを買う。それが代案だ」と、奇策を提案する。
「そんな金がどこにあるのか」とあっけに取られる六本木クラスの面々だが、視聴者は知っている、新は金を持ってるってことを。
ここで、父親の保険金を株式運用して増やしていたお金が生きてくるのだ。
ビルを買う奇策を成立させるためには資金が必要だ。だから、その前に、長屋の株買い占め作戦で物語を盛り上げながら、資金を持っていることを示した。
居酒屋を大きくして長屋を追い詰めるというのが、新の宣言していた作戦だ。
だから、龍河にいじめられていた桐野雄大(矢本悠馬)が運用していた大金で長屋の株を買い占めて茂を追い詰める作戦は、宣言した流れとはかけ離れている。
二代目みやべが小さい居酒屋のまま株式買い占めで追い詰めても、物語的には盛り上がらない。それを断念させて、しかも、この大ピンチから脱出する方法として出てきたのが「自分たちの自由のためにビルを買う」作戦だ。

「金と権力」を持つ長屋茂と、「金も権力」を持ってなかった宮部新の対立という軸が、どんどんねじれてきた。金も権力もないときはピュアでいられた。だが、新は株式運用で金を持っていることが判明した。第7話で「おれ、ビルのオーナーだよ」と金持ちアピール場面もある。
さらに、小さい店だが「社長」として信頼されて仲間も集まってきた。「権力」を(望んでいなくても)持つようになってしまった。
桜庭町に移転し、さびれた商店街を復活させるためにボランティアで近隣の店の手伝いをする。
その様子を見た謎の老女(倍賞美津子)が「昔のあいつ、思い出すねえ」とつぶやく。
「昔のあいつ」は、もちろん長屋茂のことだ。
新は、金と権力を得て、店を大きくしていく過程で、長屋茂と同じゲス野郎になってしまうのか。

しかも、新が、葵の名札をもぎとって、マネージャー失格だと言ったのは、パワハラだと言っていいだろう。
長屋龍二(鈴鹿央士)が辞めると言い出したことに、「もちろん賛成ですよ。まあ、龍二だって気まずかっただろうし、社長だって今まで気まずかったんじゃないですか」と葵は発言しただけだ。
もちろん、葵らしい空気を読まない言い方ではあったが、新に問われて、明確に意見を言っただけなのだ。
それで名札をもぎとり、マネージャーを辞めさせようとするのは、権力の行使だ。
しかも、理由が、葵の「仲間を切り捨てる」態度なのだから、新が、仲間の葵を切り捨てるのは、自己矛盾しているだろう。
「仲間を大切にする」という新らしさが、権力を持ったために暴走しているのだ。

社長は世界で一番むずかしいタイプ

だが、新がゲス落ちせずに踏みとどまることができたのも、仲間のおかげだ。
ここで、第6話の長屋茂と宮部新の対立が効いてくる。
長屋茂は「どれだけ誰かが苦労して築いたものでも一瞬で壊すことができる。それこそが強さだ」と吐き捨て、
新は「ぼくが考える強さは人が作るものです。みんなの信頼がぼくを強くする」と対抗した。
さらに「商売ができなければ人もいなくなるんじゃないか」と詰め寄る茂に、「人がいるから商売できるんです」と新は応じた。

もし、葵が新に従ってマネージャーを辞めていたら、どうなっただろう。葵に恋をしている龍二も辞めただろう。人がいなくなって商売ができなくなっただろう。異なる意見を持つ者を辞めさせてしまったことになり、「みんなの信頼がぼくを強くする」という新の信念も屈してしまう。新は、ゲス落ちしちゃうんじゃないか。
「昔のあいつ、思い出すねえ」と懐かしがられた長屋茂も、一店舗目を手掛けていたころは、新と同じように誠実にがんばっていたはずだ。だが、今回、新が直面したのと同じような問題を乗り越えるとき、仲間を失ったのではないか。仲間を、自分の言いなりになる者に変えていったのではないか。

葵は新の言いなりにならない。
「社長の考えがそうでも、わたしはこの店のマネージャーです。どんなに理想的な言葉を並べたって結局私達はこの店を追い出されるんです。わたしは社長に人生を賭けているんです。だから責任は取っていただきます。具体的な代案を出してください」と反発する。
その後、「龍二はみやべに必要な存在でした。言い過ぎました。ごめんなさい。許してくれますか」と謝る。新もそれを受け入れる。
この後の葵のセリフが葵らしくて素晴らしい。
「社長は世界で一番むずかしいタイプですけど、理解できるよう努力します」
社長の言いなりになるのではなく、仲間として「理解」しようとすると宣言するのだ。
さらに、龍二が、新を救う。
「社長、ぼくたちのこと仲間だって言いましたよね。社長の言いなりになるのは簡単ですけど、それは社長の言う仲間じゃないですよね。ぼくは従業員のひとりかもしれないけど、葵は違います。マネージャーだし、RC(六本木クラス)の株主です。社長に人生を賭けてる。ちゃんと納得させるべきじゃないですか」
この2人の言葉で、新は自分の行動を反省する。
社長にただ付き従うのではなく、お互いが理解しようとし、お互いが理解してもらうために説明する、そういった関係を築き上げる。それが仲間になるということだ。

いよいよ第8話、ますますゲスになる長屋親子、ゲス落ちを逃れた新と葵の反撃がはじまる。楽しみだ。

考察『六本木クラス』6話。葵(平手友梨奈)愛の名場面!問われる「強さ」の本質

テレビ朝日系 木曜ドラマ『六本木クラス』

毎週木曜よる9時〜
出演:竹内涼真、新木優子、平手友梨奈、早乙女太一、香川照之、稲森いずみ 他
脚本:徳尾浩司
音楽:髙見優
主題歌:[Alexandros]『Baby's Alright』
監督:田村直己、樹下直美 他
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:大江達樹、西山隆一、菊池誠(アズバーズ)
原作:チョ・グァンジン『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』(『ピッコマ』掲載中)、テレビシリーズ『梨泰院クラス』(JTBC)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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