考察『六本木クラス』9話「愛してます」と繰り返す葵(平手友梨奈)の思いに新(竹内涼真)はなぜ応えられないのか

『六本木クラス』(テレビ朝日系)は、Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』を竹内涼真主演で「日韓共同プロジェクト」でリメイクした「ジャパン・オリジナル版」。麻宮葵(平手友梨奈)は宮部新(竹内涼真)に思いを告白するが、新の答えは……。葵の涙が切ない9話をtelling,で『梨泰院クラス』の全話レビューを手がけたゲーム作家の米光一成が考察します。
考察『六本木クラス』8話。長屋龍河(早乙女太一)のダメっぷり炸裂!平手友梨奈との演技合戦に魅了される

「私じゃ、絶対にダメですか?」

『六本木クラス』9月8日の夜9時から第10話が放送。『梨泰院クラス』で神回と絶賛された「料理番組対決編」がいよいよクライマックスをむかえる。いや、泣けるよ、ハンカチの用意を。

第9話は、ついに葵(平手友梨奈)が「愛してます」とストレートに新(竹内涼真)に愛の告白をし、さらに逃げ道をふさいで、ぜがひでも新からのアンサーを引き出そうと迫る回だ。

飲み会で、長屋龍二(鈴鹿央士)が新に対して「いままで葵を女として見たことはありますか?」とストレートに質問する。新は「ないな」と答え、「葵は俺にとっての妹で大切な仕事のパートナーだから」と、葵にとっては辛い発言を引き出してしまう。葵は思わず泣いて、その場から立ち去る。
綾部りく(さとうほなみ)に「大事な子だと思ってるなら一人で泣かせないで」と言われた新は、葵を追いかける。
二年がかりの計画を龍二のせいでぶち壊しにされた葵は「プランB」を発動する。
「好きです。愛してます。愛してます。社長。愛してる。愛してるの」
新が鈍感さに逃げないように、何度も何度も「愛してる」と繰り返す。
「俺が、家族みたいに気軽に話せるから勘違いしてる……」
「勘違いなんかしてません。家族みたいに思ったことなんて一度もありません」
逃げの言葉を封じて、葵は告白する。
新は「10個も年上だ」「仕事も忙しい」とさらに逃げようとする。
「私じゃ、絶対にダメですか?」
「好きになるな」

最後まで新は自分の気持ちを口にせず、葵に「好きになるな」と強いる。
だが、「仕事も忙しい」は、口からでまかせの言い訳ではない。
新は「恋愛に鈍感」ではなく、葵との恋愛を拒絶している。
それは、優香(新木優子)が好きだから、でもない。
もはや新の「優香が好き」は恋愛感情ではないのではないか。
優香も気づいていて、7話で、はっきり告白したことがないと新を責めた。
「留置所で言ったろ」と言う新に、優香は「何年前の話をしているのよ」と返す。
「この間のは?」には「自由にするっていうのが告白?」と返す。
新が「優香を好き」というモチベーションは、もはや「長屋を潰して復讐する」=「長屋から優香を自由にする」に歪んでしまっている。
だから優香は、「新はそういう人、ずっと変わらないから」と葵に言ったことを思い出し、「自分で言ったことなのに私は何も分かってなかった」と心の中でつぶやくのだ。新は「長屋を追い越し復讐する」という目的に一途で、ずっと変わらない。
その目的と一致する「長屋から優香を自由にする」という「恋愛」なら新は受け入れられる。
だが、一緒に働く仲間との恋愛感情は、復讐にとって邪魔になってしまう。だから愛の告白をされた新は困惑して「今までうまくやってきただろう」と答え、「好きになるな」と相手の気持ちを誘導しようとする。
新は自身の意志で、恋愛を遠ざけているのだ。

だが、葵の動機は、新に対する恋心だ。恋愛感情があるので、自分を抑えて新の「目的」を支援している。
「好きになるな」という言葉通り、新を愛する気持ちを失えば、同時に「二代目みやべ」を支える動機を失ってしまうことになる。
とはいえ、葵の一途な愛は、「好きになるな」と言われたぐらいでは消えやしないだろう。
いよいよ、優香、葵、新の三角関係は、ねじれにねじれて、最後のクライマックスに突入していくのだ。

3つのレイヤー

『六本木クラス』は、毎話、必ず大きな盛り上がる場面がある。しかも同じ盛り上がり方を繰り返すのではなく、違う局面を見せる。
それは物語が3つのレイヤーを持って、それぞれズラして山場を迎えるからだ。
1つめのレイヤーは、新と二代目みやべの仲間たちの立身出世物語。
2つめのレイヤーは、新と葵と優香の恋の三角関係。
3つめのレイヤーは、新と長屋茂(香川照之)+長屋龍河(早乙女太一)の因縁の対決。

第9話は、第2のレイヤー「新と葵と優香の恋の三角関係」が、葵の愛の告白で、最高潮に盛り上がった。
同時に第9話は、第1のレイヤーと第2のレイヤーの「仕込み」をしている。
資金援助を成功させて、フランチャイズ展開を計画することで、第1のレイヤーを盛り上げる準備をした(この計画の顛末が後の話で驚くべき展開になるのだ)。
そして、第3のレイヤー「新と長屋茂+長屋龍河の因縁の対決」を次回10話で最高に盛り上げるための「仕込み」がなされた。「料理対決」の前半戦を描き、二代目みやべを2連勝させ、長屋を(そして長屋側についた龍二を)じわじわと追い詰めた。この描写があるからこそ、次回で、龍二がとんでもない手を仕掛けてくることに説得力が増し、それを乗り越える新たちの活躍が輝くのだ。

第10話、『梨泰院クラス』で神回と絶賛された「料理番組対決編」がいよいよクライマックスをむかえる!

考察『六本木クラス』8話。長屋龍河(早乙女太一)のダメっぷり炸裂!平手友梨奈との演技合戦に魅了される

テレビ朝日系 木曜ドラマ『六本木クラス』

毎週木曜よる9時〜
出演:竹内涼真、新木優子、平手友梨奈、早乙女太一、香川照之、稲森いずみ 他
脚本:徳尾浩司
音楽:髙見優
主題歌:[Alexandros]『Baby's Alright』
監督:田村直己、樹下直美 他
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:大江達樹、西山隆一、菊池誠(アズバーズ)
原作:チョ・グァンジン『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』(『ピッコマ』掲載中)、テレビシリーズ『梨泰院クラス』(JTBC)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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