考察『六本木クラス』12話。新と葵は愛まっしぐら!長屋茂はどんな土下座をするのか?今夜最終回

『六本木クラス』(テレビ朝日系)は、Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』を竹内涼真主演で「日韓共同プロジェクト」でリメイクした「ジャパン・オリジナル版」。やっと宮部新(竹内涼真)が麻宮葵(平手友梨奈)への愛に気づく。だが葵は長屋龍河(早乙女太一)に拉致されてしまった!telling,で『梨泰院クラス』の全話レビューを手がけたゲーム作家の米光一成が12話を考察します。
考察『六本木クラス』最終章直前11話。新は葵でも優香でもなく茂を愛してるのか「長くは待てない、早く来い」

ダークキューピッド長屋龍河!

『六本木クラス』9月29日の夜9時から、いよいよ最終回である。最終回直前、第12話。あいつがまたやらかしてくれた。
ダークキューピッド龍河だ。
展開が煮詰まってアクション的に地味になってくると動き出す長屋茂(香川照之)の長男、龍河。
最後の大暴走だ。葵を拉致した。
新と長屋龍二(鈴鹿央士)が助けに向かう。
葵を愛する二人である。
新は、葵が作ったキャンペーンのキャッチコピーで愛を再度確認した。
「あなたにとって一番感謝している人は誰ですか?」「あなたにとって一番謝りたい人は誰ですか?」「あなたにとって出会って最高にラッキーだった人は誰ですか?」「あなたにとって一番愛している人は誰ですか?」
すべて思い浮かぶのは葵だ。
ちょっと気になるのは、思い浮かべるすべてが、二代目みやべのために働いているか、復讐の手助けをしている葵ばかりなのだ。新の信念のために動いている葵なのだ。
龍二が、葵を思い浮かべるときには、クラブで輝くように踊っている姿を思い浮かべるのと対照的だ。

とはいえ、葵も、新に影響を受けて、信念の人になっている。
「誰でも新さんみたいになれるわけじゃない」と言った龍二に、葵はこう答える。
「そうかな? 信念を持って生きることがそんなに難しいこと?」
以前の葵なら「みんなが新さんにならなくてもいい(それぞれの自分でいい)」と答えたのではないか。

呪縛から逃れる準備

内山亮太(中尾明慶)も、立ち上がる。アニキのためにヤクザの事務所に潜入。
「元ヤクザのあんたの話なんて誰も聞かねぇよ」とバカにされるが、立ち上がって反論する。
「今は俺……株式会社六本木クラスの本部長だから」
自分で掴み取った肩書を使う。「本部長」の発音が、綾瀬りく(さとうほなみ)の言った「ほんぶっちょ」なのが良かったよね。

さらに、新から言われたセリフ「俺の価値をお前が決めるな」をかっこよく言おうとする(が、途中で殴り飛ばされる)。
新の周りにいる登場人物が、みんな新に感化されて信念の人になっていく。

亮太が手に入れたのは龍河とヤクザがつながっている証拠映像。
その画像を持って、楠木優香(新木優子)は茂のところへ行く。
「あいつがどんなに愚かでも、拉致? 殺人? ありえない話だ。あいつにそんな度胸はない」
と茂は信じようとしない。

だが、優香は反論する。
「16年前のひき逃げ事件、そして4年前会長が記者会見を行ったことで、そういうことができる人間になったんだと思います」
茂の信念の貫き方が、周囲を歪め、忖度させ、自分の息子を拉致および殺人に追いやったと言うのだ。
そして、「これが人生で初めて自分が希望して選んだ道です」と言って退職願を出す。

奨学金をもらった「あの時」から、ようやく長屋の呪縛から自分で決別した瞬間だ。それと同時に、新の呪縛から逃れた瞬間でもある。
優香は、新の父を裏切り、長いものに巻かれたときから、自分自身を好きでいられなくなった。その自分を解放してくれるのは、新だと思い込んでしまった。だからこそ11話で、優香は新に懇願するのだ。「新は私を自由にしてくれるんでしょ? 新だけは私を好きでいてよ。新だけは……」
葵への愛に気付いた新は「分かってる。分かってるんだけど……」と、いままでずっと貫いていた「好きでいる」ことを拒絶する。ここで、呪縛から逃れる準備が整っていたのかもしれない。

龍二を庇って撃たれた新は、血まみれで倒れ、救急車で運ばれる。
重篤な状態から奇跡的に復活。亡くなった父・信二(光石研)との再会シーンもあって、泣かせる展開の連続だ。
死線をさまよう新は、父に「この先つらい夜が続くとしても、俺には俺を必要としてくれる仲間がいて、みんなと過ごす毎日が楽しくてしょうがないから……」と語り、父に別れを告げて、「この気持ちを全部胸にしまって俺は生きていくよ」と泣く。
復讐にがんじがらめになっていた新は、この宣言で解放された。もはや復讐以上の何かを彼は掴んだことが示された。まさに生まれ変わったのだ。

土下座はどうなる?

そう。『六本木クラス』は、最終回を前にして、すでに問題が解決しているのだ。
新は、葵を愛していることを自覚した。
復讐はまだ成し遂げていないが、そこからも解放された。
優香も、退職届を出して、長屋から解放された。いや、新からも解放された。
もはや、解決した問題を、具体的に行動として示すだけになった(そういう意味では見どころ満載だ)。
新は、葵と再会し、愛を確認するだろう。
解放された優香は、新しい一歩を踏み出すだろう。
茂は、長屋の不正データを優香につきつけられた。もはや逃げ道はない。
龍河は、自暴自棄の大暴走をしてしまったので、その責任を自分で背負うことになるだろう。
大団円へと突き進む状況は整っているのだ。

物語的に一番大きな問題は、余命いくばくもない茂が「土下座」するのかどうかだ。
復讐の呪縛から逃れた新だ。もはや茂の「土下座」は必要がない。新が茂に土下座をさせようと強いることはないだろう。だが、勝利条件として物語的に設定された「土下座」がナシでは盛り上がらない。
茂はどのように土下座するのか。そして、それに対して新はどう反応するのか。
最終回の最大の見所は、そこかもしれない。

考察『六本木クラス』最終章直前11話。新は葵でも優香でもなく茂を愛してるのか「長くは待てない、早く来い」

テレビ朝日系 木曜ドラマ『六本木クラス』

毎週木曜よる9時〜
出演:竹内涼真、新木優子、平手友梨奈、早乙女太一、香川照之、稲森いずみ 他
脚本:徳尾浩司
音楽:髙見優
主題歌:[Alexandros]『Baby's Alright』
監督:田村直己、樹下直美 他
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:大江達樹、西山隆一、菊池誠(アズバーズ)
原作:チョ・グァンジン『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』(『ピッコマ』掲載中)、テレビシリーズ『梨泰院クラス』(JTBC)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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