考察『ファーストペンギン!』3話。これが心から反省したおじさんの顔か!堤真一、吹越満の可愛さ満点
堤真一のしょげ顔と笑顔のパワー
「わしら、あんたについてく。わしらのボスはあんたしかおらんけえ。頼む!」
和佳(奈緒)に「もちのろんスケじゃ!」と返され、堤真一が演じる片岡洋の口角がグーッと上がっていく。左右の目尻にはくっきりと2本の線が入り、笑って持ち上がった頬に押し上げられて、涙袋の輪郭が深く刻まれる。
10月19日に放送された水曜ドラマ『ファーストペンギン!』(日テレ系)第3話。さんし船団丸の「お魚ボックス」を売り込みに東京に通う生活をしている和佳。彼女が留守にしている間に、「岩崎和佳は詐欺師なのではないか」という噂が港町・汐ヶ崎で広まっていた。特に、片岡の右腕である磯田高志(吹越満)は、どうしても和佳を信用できない。
第1話から、おじさんをチャーミングに描いてきた『ファーストペンギン!』。今回も片岡は、布団にくるまって考えごとをしながらゴロンゴロンと転がったり、和佳の息子・進(石塚陸翔)と一緒にペンギンの真似をして遊んだりと、可愛さ満点だった。
長い付き合いの磯田に言われ、片岡も和佳を疑ってしまう。けれど、和佳の営業先である寿司屋「さな田」の大将(六平直政)に叱られ、すぐに考えを改めた。自転車で去ろうとする和佳を追いかけ、しょげた顔で謝る片岡。その顔に力はなく、のっぺりとしている。これが心から反省したおじさんの顔か。
和佳に「わしらの社長になってくれんか」と頼み、それを聞き入れてもらえたときの表情の変化がすごい。一瞬前ののっぺり顔を忘れるほどの笑顔。顔中にしわが入り、眉毛は下がり、前歯がグッと出て見える。これが心から嬉しいときのおじさんの笑顔か。
勝手に和佳に期待し、勝手に和佳を疑った、さんし船団丸の漁師たち。主人公の和佳に肩入れしてつい憎みそうになる。けれど、片岡の笑顔を見るとそんな気持ちは吹き飛び、「和佳も自分が東京で何をしているか報告してなかったしなあ」などと冷静になる。片岡のしょげ顔と笑顔には、心を動かすパワーがある。
吹越満が演じる強くて情けなくて素敵なおじさん
第3話でチャーミングだったのは片岡だけではない。今回、和佳を、さんしから追い出しかけた磯田にも可愛いところが見えた。
「しょっぼい会社じゃけどのう、3人で山あり谷ありやってきたんちゃ。わしは、さんしが大事なんちゃ」
後輩漁師の永沢一希(鈴木伸之)にそう話す磯田。いじわるで和佳を疑っているのではない。大事なものだからこそ、変化に臆病になっているのだ。
「あん子がなんでここまでやるんか、理由が腑に落ちんのじゃ」という磯田の言葉からは、自分たちと同じか、それ以上にさんしを大切に思ってくれる人がいると信じられない、頑なな気持ちが伝わってくる。
危機管理能力が高いのは、不安の種を見つけるのが上手いからだ。小さくて、漁協の気持ち次第ではいつでも潰れてしまうような会社。磯田の変化への不安からは、彼の大切なさんしがそんな風にぞんざいに扱われてきた背景が浮かんでくる。
和佳が体を壊してまで、さんしの魚を売り込んでいたと知った磯田は、片岡たちと一緒に彼女を追いかける。転んで脚を傷めても、その脚を擦るようにして一番後ろからついてくる。間違いを認めたおじさんは強くて情けなくて素敵だ。
漁師たちが和佳を追いかけていたとき、その集団のなかに永沢もいた。しっかりと立つと、頭ひとつ抜け出る背の大きな男だ。
でも、和佳が漁師たちに詰められているときは、何も言えずに背中を丸め、うつむいていた。進と話すときは、進の目線に合わせて背を丸める。片岡たちの話をこっそりと聞いているときも、壁に隠れて身を縮めている。
高校生の頃、和佳は「長いものに巻かれた」という。生まれつき茶色い髪色の生徒を責める教師に、彼女はそれはおかしいと言ったが、誰も和佳についてこなかったのだ。永沢を見ていると、きっとそのときも、彼のように和佳を応援する気持ちはあっても背中を丸めることしかできない生徒がいたんじゃないかと想像が膨らむ。そうであってほしい。
「息子」でつながるストーリー
今回、片岡の息子との思い出が明かされた。息子といっても、シングルマザーだった妻・みやこ(中越典子)の連れ子だろう。
「大事にされちょる子はの、わがままじゃ。あ~、もうブチわがままじゃ! 文句ば~っかり言うちょる!」
進と過去の自分の息子の姿を重ねて熱くなった片岡は、和佳にこう自論をぶつけていた。片岡の息子は、我慢強くて、わがままを言わない子どもだったようだ。他にも下に子どもたちがいたようだが、今の片岡は、子どもたちとはあまり交流がなさそう。
和佳が「先生」と呼ぶ琴平祐介(渡辺大知)が、まるで知っている仲かのように片岡たちを「あの人たち」と言った。もしかすると、琴平が片岡の息子なのかもしれない。
さんし船団丸の周りには、もうひとり「息子」がいる。山中篤(梶原善)の息子・たくみ(上村侑)だ。たくみは、文句を言うわけではないが、遅刻、サボりも多く、漁師の世界に飛び込んでいこうとはしていない様子。彼は山中にとってどんな息子なのか。
進や片岡の息子と、たくみが「息子」としてどこかで重なり合うかもしれない。片岡の息子や琴平の正体も気になるし、今後出てくるであろう山中とたくみのエピソードも楽しみだ。
さんし船団丸の事務所に泊まり、「スッくん」と呼ばれ可愛がられるようになった進は、10年後の声でナレーションもしている(10年後の声は城桧吏)。今回は、ペンギンや絵本をとおして和佳と漁師たちの物語をつなぐ大きな役割を担っていた。
本筋である「お魚ボックス」事業の成長とともに、進をとおした「息子たち」の物語も楽しみに見ていきたい。
毎週水曜よる10時〜
出演:奈緒、鈴木伸之、渡辺大知、松本若菜、ファーストサマーウイカ、遠山俊也、城桧吏、志田未来、中越典子、梶原善、吹越満、梅沢富美男、堤真一 他
脚本:森下佳子
音楽:菅野祐悟
主題歌:緑黄色社会『ミチヲユケ』
演出:内田秀実、小川通仁、今和紀
プロデューサー:森雅弘、森有紗、阿利極(AX-ON)
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