前田敦子さん「仕事より子育て優先って当たり前?」 環境を変え、選んだ両立の道

俳優として活躍する前田敦子さんは10月14日公開の映画『もっと超越した所へ。』で、独身の衣装デザイナー役に挑んでいます。一方、私生活では3歳の息子さんを育てるワーキングママ。出産が人生の大きな転機だったと語る前田さんに、産後の仕事復帰について、育児との両立への思いなどを聞きました。
【画像】前田敦子さんの撮り下ろし写真 前田敦子さん「理想の相手は愚痴がこぼせる関係」。映画『もっと超越した所へ。』に出演

母が出産した時期をずっと意識していた

――以前、「20代後半で子どもを産みたかった」と話していましたね。

前田敦子さん(以下、前田): そう、20代で産みたかったんです。母は24歳の時に姉を産んでいるので、母の産んだ年齢が自分の中の基準になっています。女性って、そういう方が多い気がします。母の基準で自分の人生を考えるというか。

――telling,では20代のうちにできれば結婚をしたいし、子どもも産みたいという「29歳問題」がしばしば話題に上がります。

前田: そうですよね。私の周りもみんな同じようなことを考えています。でも年齢に囚われているのって、もしかしたら日本だけなのかもしれないですよね。

実は海外に住む友人に「私ももうおばさんだなって思うこと、あるよ」と言ったら、「そういうことを言うのは本当に日本人だけなんだから、敦子は固定観念で話すのをやめなよ」って言われたことがあって。その時に「うん、確かに」って思わされたんですよね。

私はたまたま仕事をしていくうちに、結婚をして子どもを産む流れになったのですが、30歳の関門を突破したら、悩んでいた友人たちも独身でも楽しそうですけどね。そういう生き方もいいなって。

子育て中だからこそ、風通しのよい環境を

――出産後、仕事に復帰する際に大変だったことはありましたか?

前田: やっぱり「子どもを産んで、すぐに復帰は難しいよね。今は子育てを優先するしかないんじゃない?」って言われた時、とっさに「いや、それ、違くない?」って思ったんですよ。

それで、半分フリーランスみたいな形で事務所と業務提携を結ぶ働き方をしていらっしゃるMEGUMIさんに、いろいろと相談に乗ってもらったんです。そうしたらMEGUMIさんも出産した後、私と同じようなことを感じたと。「2年間ぐらい、時間が止まっているような気がした」と。MEGUMIさんには「産後は辛抱の時期だよ」と言われたんですが、辛抱している最中にも何かできることはないかと考えたら、私が出した答えは「働く環境を変える」ことだったんですよ。

そこから半年以上、いろんな方とお話をしながら、「本当に自分が行きたい場所はどういうところなんだろう」って考えましたね。でも次の道に進むにしても、私は子育てをしながらそれをしなくちゃいけない。そうすると、産後すぐに感じたモヤモヤに引き戻される。「子育てしていたら、仕事をしちゃいけないのかな?」とか、「仕事より子育てを優先って、なんで当たり前に言われちゃうんだろう」とか。こういったモヤモヤが結構自分の中に溜まっていきましたね。

これは俳優という仕事に限らず、どの職種でも小さいお子さんがいる方は皆さん、感じていらっしゃることだと思うんですけど。子育て中は突発的にいろんなことが起きます。子どもに何かあった時に、周りの融通が効かないことも当たり前になっていく。当然、友だちとの約束もできなくなっていきますし、自分の周りが難しいことだらけになるんですよね。

「今、ウチの子どもはこういう状況だから」と、仕事関係者の皆さんに説明しなくてはいけない。その現状にちょっとずつ違和感を覚え始めていたんです。決して事務所や仕事関係者の方と関係が悪いわけではない。でも「私の状況をみんなにわかって」は、すごく難しい話だったりもする。子育てで何かあるたびに状況説明するのは大変です。だったら自分にとって、本当に風通しのよい環境を作るのが一番いいかもしれない。そうやってフリーランスになることを模索していきました。

子どもに自我が芽生えるまでに、自分の基礎を作ろう

――俳優として、母親として、育児との両立はどのように?

前田: 周りの方々に自分の置かれた状況をわかってもらうまでの過程って、結構苦しいこともいっぱいあるじゃないですか。そこに時間を使うのではなく、私は子どもとの触れ合いに時間を使いたかった。だからフリーになる決断は、私の性格的にも合っていたなと。実際に独立してみると、日々いろんなことが起きますけど、私は自分のいる環境をシンプルにしたかったんだと思います。

独立したのは去年。今、息子は3歳です。独立する時期があと何年か遅かったら、状況は今と変わっていたんじゃないかと思います。子どもの物心がついてから私の環境を変えてしまうと、子どもの刺激が強すぎてしまうのではないか。だから子どもがまだ上手く話せない、物心がそれほどついていない去年の頭に独立して、子どもに自我が芽生えるまでの間に自分の基礎を作ってしまおう。2020年の時は、「独立するタイミングは今だ!」って思ったんですよね。

まだ息子を保育園に入れてない時期に事務所の退所を決めて、去年の頭に独立して離婚し、その後子どもは保育園に入園して。そうやって1つ1つ仕事もプライベートも整理しながら進めていきました。

息子はやっと喋れるようになって、最近は「ちょっと寂しい」などと自分の意見も言うようになってきました。このところ舞台の稽古が続いているので、息子と一緒にいられる時間が少ないせいか、ちょっと不安定なんですよね。家に帰った後は、私から離れないし。

そろそろ息子との思い出を優先しないといけないなと。でもフリーランスならそれは可能ですよね。もしも事務所にそのままいたら、説明しないといけないことが増えていたと思います。

――仕事も結婚も出産も、「やりたいことがあっても、なかなか一歩が踏み出せない」と感じているtelling,読者の方は多いです。最後にメッセージをお願いします。

前田: 有名YouTuberさんやティックトッカーさんがわかりやすい例だと思いますが、自分がそんな職業に就くなんて思いもしなかった人たちが今はスーパースターになっていく時代です。これから世の中で何が起こるかなんて、わからないのが当たり前なんだと思います。だから「私なんてこんなもの……」と、今いる場所に自分を縛り付けてしまうのはすごくもったいないし、人生を損してしまうと思います。人生は何が起きるかわかりませんから。

「これから楽しいことが起きたらいいな」という気持ちで、私はいつも仕事をするようにしています。作品に向き合うことは苦しいこともありますが。だから皆さんも心地よくいられる場所で、少しでも楽しんで仕事をしてもらえたら嬉しいです。

【画像】前田敦子さんの撮り下ろし写真 前田敦子さん「理想の相手は愚痴がこぼせる関係」。映画『もっと超越した所へ。』に出演

●前田敦子(まえだ・あつこ)さんのプロフィール

1991年生まれ、千葉県出身。2005年「AKB48オープニングメンバーオーディション」に合格し、14歳で1期生としてデビュー。センターとしてグループを牽引し、2012年8月にAKB48を卒業した。2018年に結婚し、翌年男児を出産。2021年1月に独立しフリーランスで活動、同年に離婚。近年は舞台での活躍が目覚ましく、10月16日まではミュージカル「夜の女たち」で全国6ヵ所を巡演中。映画も2022年は3本公開予定。本作『もっと超越した所へ。』や12月公開予定の『そばかす』の公開が待たれる。

●映画『もっと超越した所へ。』


10月14日(金)公開
出演:前田敦子、菊池風磨、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以、三浦貴大、趣里、千葉雄大
監督:山岸聖太
原作:月刊「根本宗子」第10号『もっと超越した所へ。』
脚本:根本宗子
音楽:王舟
主題歌:aiko 「果てしない二人」
製作:(C)2022『もっと超越した所へ。』製作委員会
配給:ハピネットファントム・スタジオ

横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。
1983年生まれ。出版社勤務を経て、2008年 フリーランスフォトグラファーに。「温度が伝わる写真」を目指し、主に雑誌・書籍・web媒体での撮影を行う。
育児も、仕事も、My Style