前田敦子さん「理想の相手は愚痴がこぼせる関係」。映画『もっと超越した所へ。』に出演

AKB48卒業後も、映画に舞台、ドラマと多方面で活動する前田敦子さん。昨年には事務所から独立してフリーになりました。10月14日公開の映画『もっと超越した所へ。』では、ヒモ体質の彼氏に翻弄されるデザイナー・真知子役に扮します。作品を通じて男女関係について考えたこと、フリーとなった背景などを伺いました。
【画像】前田敦子さんの撮り下ろし写真 前田敦子さん「仕事より子育て優先って当たり前?」 環境を変え、選んだ両立の道

4組の男女が織りなすそれぞれの恋模様

――映画『もっと超越した所へ。』の原作は、もともと劇作家・根本宗子さんの演劇ユニット、月刊「根本宗子」で上演された2015年の舞台です。

前田敦子さん(以下、前田): 根本さんの作品は、年に4〜5本観ているんじゃないかな。彼女の舞台によく出演しているモデルの長井短ちゃんと一緒に観るせいか、比較的大きな劇場での公演から、バーのような所で行う小規模なものまで観ています。根本さんは2020年3月にそれまでいた事務所を独立されたことで、戯曲以外にも小説や映画脚本と仕事の幅を広げられましたよね。それもあって、今回の映画のお声がかかったんだと思います。タイミング的に私は出演できて、ラッキーでした。

――今回の映画は、クズ男を引き寄せてしまう女性4人それぞれの恋愛模様を描いています。山岸聖太監督から、女性キャラクターに差異が生じるような細かい演出はありましたか?

前田: いえ、山岸監督は男性だからこそ、相手役の菊池風磨さんや、千葉雄大さんら男性たちには「こうしたら面白くなるんじゃないかな?」とアイデアを色々出していましたが、その分、私たち女性陣は現場で自由に泳がせてもらっていたと思うんですよね。女性たちは細かい演技よりも、どれだけ自分の中にあるものをさらけ出せるのかが肝だったと思うので。難しいことは考えずに、感情の流れるままにお芝居ができる環境を作っていただいたんじゃないかと思います。

女性はどうしてもガマンしがち。無理のない関係性を求めたい

――前田さん演じるデザイナーの真知子は、何かと菊池さん扮するわがままな「ヒモ・ストリーマー」の怜人に押し切られがちです。真知子を演じることで、男女の向き合い方について考えさせられることはありましたか?

前田: 女性は何かしら相手に我慢をして、胸の中にパワーを秘めていることが多いと思うんです。だから相手との関係性で、そのパワーをどうコントロールするのか。そのバランスが難しいと思うんです。

相手に求めるとしたら、「もう、疲れた〜」ってお互い愚痴が言い合える関係性ですかね。家族のように心を許している関係なのに、パートナーに「お前は悪口しか言わないね」って言われて凹んだという話も聞きます。自宅で「ちょっと愚痴を言い過ぎだよ」って注意されたら、もう無理です、私は(笑)。でも心に抱えていることをこぼせる人間関係は、男女間に限らないですね。女友だち同士でも一緒です。

――気兼ねなく愚痴がこぼせる。身近な人だから、無理のない関係性を求めたいですよね。

前田: 子育てをしているから余計に思うんですけど、無理をするとどんな関係でも限界が来てしまいます。これは夫婦でも家族でも、友だちでも仕事に対してでも、みんな言えることです。多少の我慢や歩み寄りは大事かもしれませんが、「ここは私が飲み込んでしまえばいいや……」というのは一番良くないと思います。

――前田さん自身、無理をしていた時期があったのですか?

前田: 最初は何でも無理をするじゃないですか。仕事でも人間関係でも。スタートをどれだけゆるく始められるかが、人生では結構大事なんじゃないかって思います。私はそのスタンスを、かなり仕事で活かしている部分があって。最初からどれだけ肩の力を抜いてスタートできるかで、後々の結果が変わってくると思うんですよね。

キャリアを重ねても、自分が大人になった気がしなかった

――長く所属した太田プロダクションから独立し、2021年からはフリーとして活動を始めました。何が変わりましたか?

前田: 事務所にいてもフリーになっても、現場でお芝居をする環境自体はまったく変わらないんです。変わったのは自分の内面です。最終的な判断を全部自分でしなくてはいけないという責任感はあります。でもそれがプレッシャーにはなっていなくて、仕事に対してむしろフラットな気持ちが持てるようになったというか。自分の中で、仕事に向かう気持ちがより冷静になったんだと思います。

具体的にどう表現していいのかわからないのですが、事務所に所属していると、自分以外の大人に育ててもらっている子どものような気分になってしまうんですね。特に私は10代からこの仕事を続けているので、キャリアを重ねても自分が社会人になっている感覚がちっともしなかったんですよ。

――仕事との向き合い方は変わりましたか?

前田: それまでは、基本的に事務所の方に現場まで連れていっていただくとか、普段から段取りもマネージャーさんが全部つけてくださっていたわけです。

事務所の方も、もちろん私に「どうする?」と意向を確認してくれます。それでも大きな判断に関しては「お任せします」と、私も事務所の方に委ねている部分が大きかったんです。今はその「人に委ねること」がない状態。自分の仕事は人に決めてもらうのではなくて、やっぱり自分で決めるべきなんですよね。仕事って、そういうものだよなという思いがありましたね。

だから環境が変わったことで、自ずと仕事への向き合い方が変わりました。最近はフリーになる同業者の方も増えていますが、みんながみんな、フリーになることを私はオススメするわけではなくて。性格的に、私はフリーになることが合っていたんだと思います。

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●前田敦子(まえだ・あつこ)さんのプロフィール

1991年生まれ、千葉県出身。2005年「AKB48オープニングメンバーオーディション」に合格し、14歳で1期生としてデビュー。センターとしてグループを牽引し、2012年8月にAKB48を卒業した。2018年に結婚し、翌年男児を出産。2021年1月に所属事務所から独立、同年に離婚。近年は舞台での活躍が目覚ましく、10月16日まではミュージカル「夜の女たち」で全国6ヵ所を巡演中。映画も2022年は3本公開予定。本作『もっと超越した所へ。』や12月公開予定の『そばかす』の公開が待たれる。

●映画『もっと超越した所へ。』


10月14日(金)公開
出演:前田敦子、菊池風磨、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以、三浦貴大、趣里、千葉雄大
監督:山岸聖太
原作:月刊「根本宗子」第10号『もっと超越した所へ。』
脚本:根本宗子
音楽:王舟
主題歌:aiko 「果てしない二人」
製作:(C)2022『もっと超越した所へ。』製作委員会
配給:ハピネットファントム・スタジオ

横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。
1983年生まれ。出版社勤務を経て、2008年 フリーランスフォトグラファーに。「温度が伝わる写真」を目指し、主に雑誌・書籍・web媒体での撮影を行う。