●本という贅沢#168『未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる』

さとゆみ#168 マジか。これを知らずに生きてたなんて! 『未来のお金の稼ぎ方』

コラム「本という贅沢」。今回は書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが、最近話題の「安いニッポン」についての1冊を紹介します。日本に住んでいると危機感を感じにくいですが、他人事ではすまされないようで……。
さとゆみ#167「いつか時間ができたら」が、永遠に実現しないのはなぜか。『限りある時間の使い方』

 

本という贅沢#168 『未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる』(児玉隆洋/幻冬舎)

夏休みにしばらくバリ島に行っていた。3年ぶりの海外だ。
帰ってきて、友人に「どうだった?」と聞かれて、多分友人は「やっぱり旅行いいなと思った」とか、「ビーチもスパも最高」とか、そんな言葉を予想してたんだと思うんだけど、自分から最初に出た言葉が「国力の衰えを感じた」で、私自身もびっくりした。
そう、今回バリにいる間、ずーっと感じていた、ぼんやりとした寂しい気持ち。

そうこれ、「日本って、いつのまにこんなに安い国になったんだっけ?」ということだった。口に出したらすっきりした。

私、昔からバリが大好きで、20代、30代の頃に計6回行ったことがある。取材で訪れたこともあるから、いろんな場所でいろんなホテルに泊まり、いろんな場所で食事をした。
で、今回思ったのは、あれバリのお食事ってこんなに高かったっけ? ということだったんです。

とくにそれを強く感じたのは、あるレストランでの出来事だった。
私、今回、小学生の息子と旅行したのだけど、彼の父親(私の元夫)と10年以上前に入ったレストランに、偶然また予約を入れていたのですよ。
お店に着いた時は気づかなかったんだけど、席に通された時に思い出した! あ、このお店、前も来たことある。そして、この席に座った!って。

そのお店は、元夫が、今まで食べた料理の中で一番美味しかったというフォアグラが出たお店で、だからよく覚えているんだけど、コース料理の順番も内容も、全く同じだったわけです。
息子にその話をしたら、じゃあ、僕もそのフォアグラを食べたいというので、同じコースを頼んだのだけど、あれ? っと思ったのは、メニューのお値段を見た時。

ここ、こんなに高かったっけ?
と、思ったのです。

以前、ここを訪れた時の私は、30歳そこそこだったと思う。今ほど収入に余裕もなかった。だけど、このお店のメニューをそれほど高いと思わなかった。むしろ、ホテルの中のダイニングなのに、ずいぶんリーズナブルだな、と思った記憶がある。

でも、今回は違った。
感覚的に、「このくらいかな?」
と思ったお値段の2倍を軽く超えていた。
これ、日本でもこんなにしないよな、めっちゃ高くない? って思った。

私、30歳の頃よりは、稼いでいるはずだと思う。
だけど、海外に来た私は、30歳の頃より貧しくなってる。
あれ、これってどういうことだっけ? 
頭の中が???となった。

このレストランの話だけではない。私が覚えているバリは、日本の3分の1とか、4分の1とかの値段で、美味しいものが楽しく食べられる場所。素敵なサービスが受けられる場所というイメージだった。
でも、ホテルの中だけではなく、街中でも、ん? それほど安くないなと思うことが何度もあった。

そして思ったのが、日本ってものすごく安く美味しいご飯が食べられるし、安く質の良い服が買えるし、安くて高技術のマッサージ店や美容院が大量にあるんだな、ということ。
私がすごくリーズナブルに過ごせると思っていた国において、日本の方が安い、と思うシーンが何度もあったのだ。

そしてはたと気づくわけです。

ん、待てよ。
このまま日本で日本円を稼いでいたら、ちょっと、今後ヤバいんじゃない?
って。

で、成田から自宅に戻るまでの間のスカイライナーで、久しぶりにFacebookを開いたら、この本のレビューを書いている友人の投稿があった。

あ、これ。私が今まで避けてきた、「最近のお金」のこと教えてくれる本だ!って思ったよね。即ポチ。そして、うわあああってなった。
やっぱり、ダメじゃん。
このまま、ただ働いて、ただ銀行に日本円がちょっとあるだけだと、全然ダメじゃん、ってなった。
ちょっと待って、世の中こんなことになってるの? え、これ、もう世界の常識なの? 全然知らなかった。というか、知らなかったで済まされないじゃん。って、なったんですよ。

ここで教えてもらえるのは、メタバース、Web3、暗号資産……etc.の話。

いや、いつかまとめて勉強しなきゃって思っていたよね。
でも、それってなんというか教養として必要というか、ビジネス分野の原稿書く時にそれとなく知識を持っていなきゃとか、そういう話だと思っていたんだけど。

こういった動きがすべて、自分の「財布の中身」とこんなに関係あると思っていなかったよ。
というか、こんなに差し迫って、「待ったなし」の状態になっているなんて、知らなかったよ。

この本によると、今、日本は急速に「安い国」になっているという。
たとえば、ディズニーランドの入場料金は、世界で一番安いのが日本なのだそう。賃金が上がらない。だから値上げもできない。ジリ貧のスパイラルをこの数十年。
怖いのは、日本でふんわり生きていると、それに危機感を覚えないまま過ごしちゃっていることだ。
言われてみれば私、ライターになって21年目だけど、1年目の時がページ単価(原稿料)が一番高かった。
それでも、まだなんとなく生活できている気持ちでいるから、余計、世の中の流れに取り残されていく。じりじり、じりじり、取り残されていく。

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先日、超インフルエンサーの友人が、「今は、メタバースの勉強をしている」と言っていて驚いたのだけれど、彼女いわく「今の時代に支持されている人ほど、現状に満足するから、新しい波に乗り遅れて下克上されるんだよ」と言っていた……。

あれって、こういうやつだったのか。
って、なってます。

私、この本を読んでから、いろんな人にこの本を勧めまくっているんだけど、読んだ人みんなから「一気読みした」「ヤバい、これ知らずに生きてたなんて」という感想が続々届いている。

いやほんと、それな。
ってなってます。

みなさまにおかれましても、ぜひご覧くださいませ。

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「本という贅沢」は次回は9/28、10月以降は、第2・第4水曜に公開の予定です。

 

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さとゆみ#167「いつか時間ができたら」が、永遠に実現しないのはなぜか。『限りある時間の使い方』
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。

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