さとゆみ#167「いつか時間ができたら」が、永遠に実現しないのはなぜか。『限りある時間の使い方』
本という贅沢#167『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン著、高橋璃子訳/かんき出版)
先日、365日で世界の絶景を観光する的な写真集を最初から最後まで見て、たいへん絶望的な気持ちになった。
そこにある365枚の写真の景色を実際に見るためだけでも、もう時間が足りないことは明々白々で、なんだか、「ああ、生きているうちにできることは限られているんだな」と、しんみりした。
絶景だけじゃない。書店に行くと、それがどんなにコンパクトなサイズの書店であったとしても、「ああ、もうここにある本を全部読むことはできないんだな」と思う。
この仕事が終わったらやろうと思っていることがいくつもある。
行きたい場所があるし、読みたい本がある。
でも、実際に仕事が終わったら、次の仕事が待っている。ずっとモグラ叩きをしている気がする。
料理を作りながら、インタビューの音源を聞いている。お風呂に入りながら、ドラマを確認している。お願いできることは、なるべく人に頼んでいる。
あれ。おかしいな。前よりずっと効率良くタスクを倒しているはずなのに。
いやでもこれって、私だけじゃないよね、きっと。
みんな、多分、そんなふうに思ってるうちに30代に突入して、気づいたら、半ばを超えようとして、これが40代になると坂道を転がるように、時間がもっと溶けて消えていくんだ。
どこへ?
どうして?
どういう法則?
って、ことを少しでも思った過去がある人に、この本です。
『限りある時間の使い方』
これね、最初に言っておくのですが、ライフハック的な本じゃないんですよ。
「時間を効率よく使って、余暇を増やそう」という話じゃないの。
むしろ、逆。
もうね、身も蓋もないんだけれど、
そもそも「いつか時間ができる」という大前提が、根本的に間違ってるよという本だ。
「もっと効率的にやれば忙しさから逃げられる」という希望を捨てなさいという本だ。
それをね、ずっと、耳元でこんこんと諭され続ける本だよ笑。
今はまだ楽しむときじゃない。 いつかタスクがすっかり片付いたら、 そのときこそリラックスして楽しもう。
そう思っている人に、「今を犠牲にして未来に期待するのはやめなさい」とこの本は言う。
うん。そうだよね、うっすらそうじゃないかと思ってたよ。
そうに違いないって気がするよ。
で、私たちは、今日からどうすればいい?
って、なる本です。
で、私たち、今日からどうすればいい?
って話なんですけれど。
ここがこの本がtips本じゃないところの良いところでもあり、弱いところでもあるのだけれど、明日からやるべきことはそこまで明確に書かれていない笑。いや、全然書かれていないわけじゃないし、私もすぐに取り入れてみようと思ったところも結構あるの。
たとえば、「開放リスト」と「固定リスト」。
やるべきこと、やりたいことを、開放リストに死ぬほど書き出したら、そこから最大10個選んで固定のリストにうつす。固定リストが1個減ったら、開放リストから1個うつしてきても良い。
そして、これがポイントなのだけれど、固定リストの数を上限以上に増やさないこと。
で、開放リストは、すべてやらなくていい。というか、やってはいけない。
とか。とか。そういう対処法も書いてあると言えば、ある。
でもまあ、やっぱり、この本の本質は、
「効率よくやればいつか、時間ができる」という幻想を手離すことにあると思う。
「生産性を上げればあげるほど、仕事が増える」ということを認めることにあると思う。
この本が私たちにしてくれるのは、マインドセットまで。
そこから先は、多分、自分で考えるやつです。
ひとまず、そんな「いつか」が来ないんだったら、今、このタスクを抱えながら楽しむしかないよね。
と思った私は、いま、南の島に向かうフライトの途中です。
「仕事をするために、休む」のではなく、「仕事しながら、遊ぼう」と思っている。
永遠に終わらないのが仕事なのだとしたら、そうして生きていくしかないではないか。
果たして、うまくいくだろうか。
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