なぜ既婚男性ばかりに惹かれてしまうのか? 臨床心理士の分析で見えてきたこと
「好きになるのは既婚者ばかり」という30歳女性
30歳の節目を迎えた望美さん(仮名)は、都内の大手広告代理店で働く独身女性で、サラサラの黒髪と美脚が印象的なキャリアウーマンです。女子会ではもっぱら「そろそろ結婚したい」という話で盛り上がっています。現在、彼氏はいません。というのも、20代は2人の既婚男性との恋愛に時間を費やしてしまっていたのです。
不倫関係に陥った2人の既婚男性のうち、最初の1人は社内恋愛で、もう1人は趣味で参加したワイン会で出会った男性でした。他に独身男性がたくさんいる中で、望美さんが選んでしまうのは既婚男性ばかり。
彼らの「いつか別れるから」「ずっと一緒にいたい」という甘い言葉を信じていましたが、かねてから結婚願望があった望美さんは、30歳を機に今までの恋愛に区切りをつけ、心機一転「婚活モード」に切り替え始めました。
独身男性を目当てに参加した飲み会で……
ある日の仕事帰り、以前ワイン会で友達になった男性から「今、男10人くらいで飲んでるから来ない?」と誘われて、急でしたが「いるのは独身男性ばっかりだよ」という言葉に期待して、そのお店へと向かいました。
到着後、望美の女友達も駆けつけてくれ、10人ほどの男性に女性2人という飲み会に。男性陣はこぞって望美たちに話しかけてきて、「逆ハーレム状態」となりました。
その中でひときわ目立つ、みんなから「リョウさん」と呼ばれる男性(仮名・42歳)がいました。リョウさんは、大きな声でみんなを盛り上げ、会話に合わせて合いの手を入れたり、時にはモノマネをして笑いを取ったりと、本当に面白い人。その飲み会のムードメーカーでした。
飲み会の後半でわかったことですが、この中で唯一リョウさんだけが結婚していて、子どもも2人いる既婚者でした。
でも、時すでに遅し。
気づけば望美はリョウさんに心酔していました。
他の9人の男性は、みんな独身なのに……。
その中で、たった一人の既婚者に、望美は心奪われていたのです。
それが一目でわかった女友達は、望美に「リョウさんは既婚者なんだって」と耳打ちしましたが、それでも望美は常にリョウさんを目で追っています。
そして結局、望美はリョウさんとだけ連絡先を交換し、帰りも一緒のタクシーで家の途中まで送ってもらったとのこと。
「なぜ、あんなに沢山の独身男性がいたのに、いいなと思うのは既婚者なのだろう……」と、今もなお望美は悩み続けています。
専門家に聞く 既婚男性に惹かれる心理の背景
望美さんのように、“どうしても既婚者に魅力を感じてしまう”というループにハマってしまうのは、なぜなのでしょうか? そして、このループから抜け出す方法はあるのでしょうか。
女性の心理に詳しい臨床心理士・公認心理師のMiKiさんに、お話を伺いました。
MiKiさんは、大学院での臨床研究やカウンセリング業務を通じて計10年間にわたり恋愛や夫婦関係、親子関係などに関する相談約600件に携わってきました。主に女性特有の悩みを研究テーマとし、『月経前症候群(PMS)重症度別における感情調節機能の特徴』などを日本心理学会で発表しています。また、東京都内で小・中学校や専門学校のスクールカウンセラー業務を通して、親子の愛着関係などについても担当してきました。
まず、不倫してしまう女性の心理として、一般的に親との愛着関係が不安定で、自己肯定感が低いという傾向があります。もちろん、人間の恋愛に関して100%こうだと一概に言い切ることは難しいですが、たとえば精神的に大人な男性に惹かれる理由の一つには「ファザコン」とよく似た心理があります。
幼少期に、無条件で自分を愛してもらった経験はとても大切になりますが、そのような経験が少ないと、大人になってからも年上や包容力のある男性、甘やかしてくれる男性を求めてしまうのです。既婚男性との恋愛に陥るのは、自己肯定感が低い人や、意外にも頑張り屋さんが多かったりもします。
また、そうした女性には「幸せ恐怖症」を抱えている人も少なくありません。これは、自分が幸せになる自信がなかったり、自分は幸せになる価値がないと無意識に考えてしまったりする心理で、たとえ自分が幸せな状況になったとしても「この幸せはいつか消えてしまう」というような、ネガティブ思考になってしまうのです。
「幸せ恐怖症」を抱えていると、先が見えないものや不安定なもの(=不倫)に好奇心をそそられたり、一時的な快楽やスリリングで刹那的な恋愛にハマりやすくなったりしてしまいます。無意識のうちに、自分を大切にしない恋愛を選んでしまっているのです。本当は永遠に変わらない愛情を求めているはずなのに、実際には幸せとは程遠い人を選んでしまうのです。
不倫の場合、“禁断の恋をしている”という背徳感も、「吊り橋効果(不安や恐怖を感じるような場面で、恋愛感情を抱きやすくなる傾向のこと)」と似た心理状態となって、さらに気持ちを燃え上がらせていることも考えられますね。
こうした、スリリングで、背徳的な恋愛を求めてしまう心理にも「幸せ恐怖症」が関連していることがあります。
意識的、あるいは無意識的に「幸せ恐怖症」になってしまう理由としては、自己肯定感の低さが要因のひとつとされています。
日本でソシオセクシャリティ(恋人以外の人ともセックスをしてしまう傾向)の先駆的研究で知られる東京未来大学の仲嶺真・特任講師の研究(※)によると、刺激(=スリル)の高さを好む人ほどソシオセクシャリティが高いとのこと。また海外の研究では、愛着不安定型の人ほどソシオセクシャリティが高いことも指摘されています。
自己肯定感は、幼少期の親子関係が影響すると言われています。ありのままの自分を認めてくれる親のもとで育った子は自己肯定感が高くなり、頑張る自分も頑張れない自分も受け入れることができます。うまくいかないときに、自分で自分を支えることができるのです。しかし、自己肯定感が低いと、(例え幸せにしてくれないとわかっていても)つい甘い言葉で支えてくれる人についていってしまうのです。
いかに幼少期の親との愛着関係が大切で、恋愛傾向にも影響することがわかりますね。
脳内では、不倫などスリリングな状況においては、快楽物質のドーパミンが分泌されやすくなります。ドーパミンによってやる気や幸福感が得られますが、過剰分泌は過食や、アルコール、ギャンブル、セックスなどとの依存関係も指摘されています。ドーパミンが過剰分泌されないようにコントロールするのがセロトニンですが、これがうまく機能していないとき、また新たな快楽を求め、不倫にのめり込んでいってしまう悪循環を生むのです。
(※論文『ソシオセクシャリティを測る 1 ―SOI-R の邦訳― 仲嶺 真 2 古村 健太郎 心理学研究 2016 年 第 87 巻 第 5 号 pp. 524– 534』)
既婚者との恋愛から脱却する3つの方法
では、今まで既婚者との恋愛ばかりに夢中になってきた人が、どうしたらこのループから脱却できるのでしょうか?
こうした背景や傾向を知り、受け入れることで、自分で気持ちを切り替えて、しっかりと自分を愛してくれる人に目を向けることができる強さがあれば、自分自身でその恋愛傾向を変えることは可能です。
しかし、自分だけでは変えられない人は、カウンセリングを受けて話を聞いてもらい、共感して認めてもらいながら「育て直し」をしていくとよいでしょう。自分の心と進むべき方向を一致させていく作業をすることで、自分を成長させ、人生を本当に幸せな道へ進めていくのです。
また、日常生活の中から意識を変えていくことも大切です。
近年、欧米のエグゼクティブも注目する新しい概念「セルフコンパッション」を身につけることで、自分を大事にする感覚を育て、不倫体質から脱却しましょう。セルフコンパッションとは、自分への思いやりのことです。親友や恋人など、大切な人が苦しんでいるときに、思いやりの言葉をかけたりしますよね。それを自分自身に向けることをセルフコンパッションと言います。セルフコンパッションは、学術的には3つの軸があります。(1)自分へ思いやり(2)マインドフルネス(3)共通の人間性です。
【「セルフコンパッション」の実践方法3つ】
(1) 自分へ思いやりを持つ
何かあっても自分を責めないこと。時には休むことも必要です。自分を甘やかしたり、自分へのご褒美を考えたりしてみましょう。
(2) マインドフルネス
そのままの自分を受け入れること。うまくいかないことがあっても「まいっか」といったん終わらせて、過度な自己否定をしないようにしましょう。
(3) 共通の人間性
失敗して落ち込んだ時に、自分を責めずに「この状況だったら失敗して当たり前だよ、誰でも失敗するよ」と、自分に共感してみましょう。
この3つのポイントを日々の生活で意識していくことで、自分の心と向き合い、自分の恋愛体質を変えていくトレーニングになります。無理のない範囲で実践してみていただければと思います。
どこまでも自分を大切に
臨床心理士・公認心理師のMiKiさんにお話をお伺いした通り、既婚男性に魅力を感じてしまう理由は、幼少期の親との愛着関係や自己肯定感の低さなど、様々な心理的要因が関係することがわかりました。
本当に幸せな恋愛や結婚を手に入れるためには、まずは深く自分自身と向き合い、その心理的傾向や原因を見つめ直したうえで、自分を大切にすること。それが幸せへの第一歩となるのでしょう。
(写真:プロフィール以外は、getty images)
●MiKiさんのプロフィール
筑波大学附属病院にて2年間の研修終了後、東京都内の教育委員会や専門学校で、スクールカウンセラーの仕事に従事。出産を期に退職。恋愛や不倫、セックスレス、仮面夫婦等の夫婦関係の問題をはじめ、子どもの不登校、いじめなどの家族の問題を専門とする。現在は、母親のニーズに応じた心理支援を「プラスワンラボ合同会社」で行っている。二児の母。
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