『消えない罪』サンドラ・ブロックはアメリカの大竹しのぶかッ!仮釈放中の女性を描いて賛否両論
●熱烈鑑賞Netflix104
女優オーラを完全に消したサンドラ・ブロック
Netflix作品のサンドラ・ブロックはめちゃくちゃ凄い。アメリカの大竹しのぶかッ!ってぐらいの存在感を出してくる。
伝説級の傑作、Netflixオリジナル映画『バード・ボックス』での熱演はもちろんだが、今回紹介したいのは、サンドラ・ブロックが主演だけじゃなく制作にも関わった『消えない罪』である。
サンドラ・ブロックが演じるのは、警官を殺した罪で20年服役の後出所した女性、ルース・スレイター。
ベルトコンベア上の大きな魚を包丁でさばき続けるサンドラ・ブロックの落ちくぼんだ目、ひび割れた唇。女優オーラを完全に消して、仮釈放中の女性を映像の中に存在させた。
人を殺した罪で服役した後の生活を描き、過去の罪を受け入れるために社会はどのようにあるべきか、居場所をどう作り出すべきかという重いテーマを描いている。だが、『消えない罪』は、どんでん返しあり、スリルありのサスペンス映画だ。
殺された警官の息子である兄弟たちは、自分の父親を殺した女が釈放され、のうのうと生きていることが我慢ならない。兄は「やってやる」と不穏な計画を立て、弟は「やるなら、俺を巻き込むな」とは言うが、止めようとはしない。この復讐兄弟パートが不穏なサスペンスを生み出して、飽きることなく観せるエンタテインメント作品になっている。
それ以上に、こちらの気持ちを駆り立てるのが、仮釈放になった女性の日常を描くパートだ。
物語的な悪役は復讐兄弟に任せて、それ以外には露骨な悪役は出てこない。
優等生的に描かれない主人公
だが、保護観察官が忠告する通り、「思っているほど世の中は甘くない」のだ。
予定していた建設関係の仕事は偏見によって失われる。しょうがなく保護観察官に紹介してもらった水産工場で働くことになったのだ。
寝泊まりするのは、シアトルのチャイナタウンにあるシェアハウスだ。喧嘩や言い争いが耐えない。持ち物を盗もうとする者もいる。「警官殺しめ」という嫌がらせの電話もかかってくる。
ある日ルースは、ホームレスのための施設を作る現場を見つけ、薄給だが、そこを手伝うことにし、水産と木工の仕事を兼任する。
水産工場でいっしょに働く男ブレイクが、ルースを気にかけてくれる。
彼が、木工仕事の現場に、ドーナツを差し入れにくる場面がある。ルースは自分を狙う者だと勘違いして、あわやぶん殴りそうになる。
無口で、人付き合いも上手くない。誰にも気を許さず、ひりひりしながら生きている。
そういった仮釈放のルースの日常が、ていねいに描かれる。
1994年の『スピード』で、キアヌ・リーブスと共演しアイドル的人気を獲得したサンドラ・ブロックの華やかさはない。熱演というのでもない。存在そのものをキャラクターと同化して、そこにいる。没入型の演技だ。
ルースがなぜ刑務所に入ることになったのか、何が起こったのか。挿入されるフラッシュバックは冗漫な煽りではなく効果的な伏線として機能する。
20年前いっしょに暮らしていた妹が、いまどうしているか。養親に引き取られているであろう妹の所在を確かめようと行動するが、ここでも、服役していた「消えない罪」が妨害する。
ルースが優等生的に描かれないことも生々しい。20年服役していたためか、彼女は、ときに暴力的になり、社会と折り合いがつかない。
議論噴出の問題作
監督は、ドイツのノラ・フィングシャイト。ベルリン映画祭で銀熊賞を獲得した『システム・クラッシャー 家に帰りたい』で長編デビューした新鋭だ。
『消えない罪』は、すべてが高得点を獲得できるような端正な傑作ではない。海外の映画評価サイトでは、嫌悪感あらわに1点をつける人いて、それに対して「不当だ」と怒って10点をつける人が続出、作品を巡って議論が噴出している。問題作なのだ。
ノラ・フィングシャイト監督の技量と、サンドラ・ブロックの演技力が、サスペンス的なプロットを凌駕してしまったのではないか。そのせいで映画全体のバランスは奇妙に歪みながら、観る者の心に深く傷を残す問題作になった。
ラスト、少女が引いているピアノ曲は、Radioheadの「Everything In Its Right Place(すべてのものに居場所はある)」。
出演:サンドラ・ブロック、ヴィンセント・ドノフリオ、ヴィオラ・デイヴィスほか
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