珍しい韓国宇宙SF『静かなる海』演技派俳優ペ・ドゥナ、コン・ユらと新人監督の美しい化学反応
●熱烈鑑賞Netflix105
ペ・ドゥナ、コン・ユら演技派俳優が謎に翻弄される
韓国SFドラマ『静かなる海』が2021年12月からNetflixで独占配信されている。主演は、是枝裕和監督映画『空気人形』(2009年)や山下敦弘監督映画『リンダリンダリンダ』(2005年)などに出演しており、日本にも縁の深い俳優ペ・ドゥナ。水や食料など資源が枯渇した未来の地球の宇宙生物学者、ソン・ジアン役を演じる。
ジアンとともに、月に向かう任務を命じられるハン・ユンジェ隊長を演じるのは、日本でも人気の高い俳優のコン・ユだ。1月に放送されたバラエティ番組『徳井と後藤と麗しのSHELLYと芳しの指原が今夜くらべてみました』(日本テレビ系)で、俳優の高畑充希がコン・ユを「キス王子」として紹介し、最近再び注目されている。キスシーンにときめく大人気ドラマ『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』(2017年)とは違い、今回は入院中の娘のために任務に臨む、寡黙なチーム隊長を演じた。
ハン隊長、ジアンとともに、エンジニアのリュ・テソク(イ・ジュン)、チームドクターのホン・ガヨン(キム・ソニョン)ら11人は、月にある閉鎖された宇宙基地に行き、あるカプセルを回収する任務に就く。ハン隊長は、娘のハジン(キム・ボミン)の治療に必要な水を得るため。ジアンは、その基地に行ったきり地球に帰って来ない姉・ウォンギョン(カン・マルグム)の行方を知るため。それぞれに、任務とは別な胸に秘めた目的を持っていた。
空気や水、生命維持装置が失われれば死んでしまう宇宙で、本当にそこにあるかもわからないカプセルを探す。基地に入ると、かつてそこで働いていた研究者たちが「溺死」としか思えない謎の死を遂げていた。水のない月でなぜ彼らは「溺死」してしまったのか。カプセルの中身は一体何なのか。基地に生存者はいるのか。そして、テソクら他のメンバーたちが任務に参加した目的は何なのか。全8話という短さの中で、多くの謎が急速に紐解かれていくスピード感がハラハラを加速させていく。
韓国宇宙SFドラマの美しさ
韓国ドラマで宇宙を舞台にしたSF作品は珍しく、とっつきにくいのではないか、と不安があった。しかし、日本でも馴染みのあるペ・ドゥナが主演、同じく日本で人気の高いコン・ユや、“ヨンギドル”(=演技が上手いアイドル)の先駆けであるイ・ジュン、バイプレイヤーとしてNetflixドラマ『愛の不時着』『賢い医師生活』『椿の花咲く頃』でも活躍したキム・ソニョンらが主要キャスト。演技力は申し分ない俳優たちが、宇宙という不自由な場でもがく。それだけでも、十分に見てみるきっかけとなり得る。
また、月への探索メンバー11人を見て思い出すのが、萩尾望都の漫画『11人いる!』(小学館)だ。メンバーのひとりで副操縦士のイ・ギス(チェ・ヨンウ)は、もともとは月に行く予定ではなかった。出発5分前に突然交代要員として宇宙船に乗り込んで来た、謎の11人目のメンバー。互いに疑心暗鬼のなか、どこにも逃げられない宇宙での任務。チェ・ハンヨン監督が『11人いる!』を踏まえているかはわからない。ただ、「1人の侵入者」というだけでも見ごたえのある大きな謎ということは明らかだ。
さらに、生存者、新たな侵入者、基地の謎を知る者と、隠されていた要素がどんどん暴かれていく。隠されて複雑に絡んでいた互いの意図や目的、謎をほどき去ると、最後には真実と本心が浮かび出る。構造が紐解かれていく過程の美しさ、そしてラストの映像の美しさは、構成や画作りに定評のある韓国ドラマでSF作品をつくる意義をありありと示していた。
このドラマは、韓国では新人発掘の場として有名なミジャンセン短編映画祭に、チェ監督が2014年に出品した同名映画をもとにつくられている。また、ポン・ジュノ監督映画『母なる証明』(2009年)に参加した脚本家、パク・ウンギョが脚本を担当。期待の監督とキャリアのある脚本家がタッグを組んだ。
新人も大きなチャンスを掴みやすいのが、韓国エンターテインメント業界の魅力のひとつだ。現在日本で公開中の映画『ユンヒへ』の若き監督イム・デヒョンは、フェミニストを名乗る男性で、日韓の国境を超えて惹かれ合う女性同士を描くことに挑戦した。こちらも日本で公開中の映画『声もなく』は、ホン・ウィジョン監督のデビュー作ながら若手スター俳優のユ・アインを主演に迎え、韓国内外で多数の賞を受賞している。
期待の監督チェ・ハンヨンの挑戦作として、『静かなる海』も押さえておきたい作品となるはずだ。
改めて、ペ・ドゥナの黒い瞳の魅力
本作を見るにあたって、ペ・ドゥナ主演の日本映画『空気人形』を改めて見返した。公開当時はまだ「韓国映画」「韓国ドラマ」のジャンルが現在ほどは一般的でなく、韓国の俳優もほとんど知られていなかった。そんななか、ペ・ドゥナを観たくて地方のミニシアターにひとりで向かったのを覚えている。『空気人形』は、心を持ってしまったラブドールののぞみ(ペ・ドゥナ)が世界に触れて、生死の悲しみや美しさを知っていく物語だ。
愛や心を求めたのぞみが、愛や心によって傷ついていく。『静かなる海』でペ・ドゥナが演じるジヨンもまた、水や姉を追い求めたことによって、それらの脅威や罪を知り心を痛める。キリスト教の聖書には「求めよ、さらば与えられん」という言葉があるが、与えられたものをどのように受け止めるかの責任は、人間が負うべきなのだと感じる2作品だ。
求めて受け止めたものを、ペ・ドゥナの黒い瞳が真正面からしっかりととらえている。どちらも、どんな現実も吸収してしまうかのように深いところで受け止める、彼女の真摯な瞳が効果的に用いられた作品である。
監督:チェ・ハンヨン
脚本:パク・ウンギョ
出演:ペ・ドゥナ、コン・ユ、イ・ジュン、キム・ソニョン、イ・ムセン、イ・サンウク
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