『カトラ』Netflixで一番ヤバイ作品を観てしまった
●熱烈鑑賞Netflix 75
予備知識なしで観るのがベストだが
オススメしていいのだろうか。Netflixで一番ヤバイ作品を観てしまった。
タイトルは『カトラ』(KATLA)。
バイオレンスとか、犯罪が過酷だとか、そういった危なさではない。倫理的にヤバイ。己を問われる。自我を揺さぶる。精神にクル。
舞台は、アイスランドの町ヴィーク。
噴煙をあげ続けるるカトラ火山は噴火の危険性もあり、ほとんどの人は避難し、事情のある人たちだけが残っている。雪と灰に包まれ、雲は厚く黒く重く垂れこめる。圧倒的な自然の脅威/驚異のなか、人間はどうにか生き延びさせてもらっている。
遠景から映し出される町は、自然の中に取り残された廃墟のようにも見える。
『カトラ』は、バルタザール・コルマウクル監督の最新作。
『エベレスト3D』や『アドリフト 41日間の漂流』といった作品で自然の圧倒的驚異を見せつけた監督だ。
いっぽうでコルマウクル監督は、ドラマ『トラップ 凍える死体』や『湿地』などでサスペンスを独特の重いトーンで描く名手でもある。
『カトラ』は、圧倒的な自然の脅威/驚異と、重くスリリングな展開を融合させたコルマウクル監督最高傑作だ。
1話45分ぐらい、全8話で完結している。
予備知識なしで観て、衝撃に直面し、じわじわと感じ入るのがベストだろう。
とはいえ、どんな話なのかをまったく説明しないのも不親切なので、前半部を中心に「何のドラマ」なのかを解説しよう。
この部分を明かしたからといって衝撃が減ってしまうようなヤワな作品ではないからね(とはいえ、何も知らずに観たいのならば、以降を読まずにドラマをさっさと観るほうが良いだろう)。
ゆっくりと怪異が迫ってくる
ドラマは、ヴィークの街に起きる怪異に、人々がどう対峙するかを描く群像劇だ。
その中心となる主人公が、グリマ(グドルン・エイフィヨルド)。
数年前に行方不明になった妹のアシャを探している(同時に、もう生きていないだろうと諦めてもいる)。
灰で全身まっ黒の全裸女性が発見されたと聞き、妹かもしれないと思う。が、女性はグンヒルドと名のる。
ホテルで働いていたと証言するが、それは20年ぐらい昔のこと。
名簿にあった自宅に電話すると、息子ビョルンが出る。
ビョルンは「母は、ここにいる」と答える。
そして、母グンヒルドが電話にでる。
息子を持つグンヒルドは、電話口の女が、関係のない同姓同名の人物だったり、虚言で騙そうとしている人物ではないと感づく。そして、ヴィークへ向かう。
ふたりめの灰まみれの女性が発見される。グリマの妹アシャだ。
本人がそう名のり、記憶も姿も、アシャそのものだ。
女性だけではない。少年も現れる。死んだはずの少年が、父親のところに現れる。
生き返ってほしいと願っていた息子が、本当に生き返ったとき、両親はそれを受け入れられるのか。それを本当に息子と考えていいのだろうか。
ゆっくりと怪異が迫ってくる。
この怪異の在り方が『カトラ』のヤバイところであり、凄いところだ。
どう言っていいのか。怪異が自然なのだ。
悪意ある亡霊や、悪意ある侵略者なら、まだまし。
敵として認定して戦えばいい。排除すれば解決する。
だが、ヴィークの街で発生する怪異は、人間にとっては怪なる出来事だが、自然現象にすぎない(と思われる)のだ。
本当の私が、目の前に現れたらどうする?
ドラマは、謎や原因を解き明かす方向には進まない。
美男美女が困難や難題に立ち向かい解決してスッキリ終わるような話を期待してはいけない。
原因や因果などと言ってはおれぬほどの圧倒的な自然なのだ。
死んだはずの人間が、目の前に現れる。
数十年前の自分が、自分の目の前に現れる。
そのことに対して、人はどう応じるのか。
倫理的にヤバイというのは、敵意すらないこの圧倒的な自然現象に、人は応じ切れるのかということが延々と描かれるためだ。
「私探し」なんてものが流行った時代があった。
だが、本当の私が、目の前に現れたとき、そして、その私が自分の生活に悪意もなく入り込んできたとき、私は、耐えられるのか。
映画化もされたスタニスワフ・ レムの名著『ソラリス』を連想する人も多いだろう。
おそらく『ソラリス』をリスペクトして作られたドラマだ。
惑星ソラリスに出向いて、そこで遭遇した現象が、地上の自分の生活のなかに浸食してきたとき、何が起きるのか。
提示されたひとつの事例としてこのドラマを観たあと、問わずにはいられなくなる。
もし、自分が同じような状況になったときに、耐えられるのか。どうするのか。どうできるのか。
倫理的にヤバイ作品だ。オススメしたいのだが軽々にはオススメできない。観るのならば覚悟してくれ。
『カトラ』
出演:グドルン・エイフィヨルド、イリス・ターニャ・フリーゲンリング、アリエット・オパイム
原作・制作:バルタザール・コルマウクル