矢部太郎さんは気象予報士の資格も 「僕にとっての反抗期は、お父さんと逆の方向に行くことだったのかも」

父の絵本作家・やべみつのりさんと過ごした幼少期を描いた新作漫画『ぼくのお父さん』(新潮社)を先頃、刊行したお笑い芸人の矢部太郎さんは、俳優の顔もあり、気象予報士の資格も持つなど多才で知られています。矢部さんにコロナ下の暮らしなどについてお話を伺いました。

4月に突然の入院、感じた“医療従事者の大変さ”

――コロナ禍は続いています。

矢部: 今は大変ですね。舞台の場合は、僕がコロナになったら止まってしまうから、気を付けています。実は4月の終わりに盲腸(虫垂炎)で入院したんです、創作のストレスですね。校了するタイミングでしたから(笑)。
入院してもコロナで誰も面会に来られないし、売店もやってない。差し入れも週1回だけという感じ。僕は盲腸なので手術はしたけど早く退院できましたが、雰囲気などから医療の現場の方々の大変さを、ほんの少しだけですが感じましたね。

――コロナ禍で社会がギスギスしているように感じます。

矢部: マスクを付けるだけでも、ストレスになりますから。
僕はお酒を飲まないのですが、好きな方は大変でしょうね。僕は飲み会を断る口実を考えなくて済むように(笑)。コロナで自分の時間が持てるようになった側かもしれないです。

――自粛生活でNetflixなどにハマる人も多いです。

矢部: Netflixは僕も見ますし、漫画も昔の作品を遡って読むようにもなりましたね。だから、雑誌など様々なサブスクに入りました、映像も漫画も新聞も含めて。

コロナで始めた家庭菜園 凝りたくない理由とは?

矢部: その中でも、漫画でのコロナの描かれ方は興味深かったですね。『相談役 島耕作』の主人公はコロナに感染しましたしね。朝日新聞の4コマ漫画でいえば朝刊のいしいひさいちさん(「ののちゃん」)はコロナのない世界、夕刊のしりあがり寿さん(「地球防衛家のヒトビト」)はコロナがある世界を描き続けていて。様々なアプローチが面白いですね。
ただ、現代の話だとコロナを描いているか否かが気になるので、昔の漫画の方がスッと入ってきますね。水木しげるさんの『河童の三平』や、ご自身の戦争体験について描かれた作品を、よく読んでました。僕が漫画を始めたからこそ気づいたのかもしれませんが、抜群に絵もうまいし描き込みもすごい。

――新たに始められたことがあれば教えてください。

矢部: 自宅のベランダに花やトマトなど様々、植え始めました。家庭菜園みたいな感じですね。『ぼくのお父さん』に出てきますけど、お父さんは異常に畑に凝っていたので、そこまでいかないよう気を付けています。家でできることを充実させようとしているのは、コロナの影響かもしれませんね。

矢部太郎さん『ぼくのお父さん』より=新潮社提供

芸人の友達から天気を聞かれた矢部さんは……

――話は変わりますが、気象予報士の資格を取られたり、番組でスワヒリ語など数カ国語をマスターされたりしています。勉強は得意だったのですか?

矢部: 全然苦じゃなく、好きだったと思います。お父さんからは「勉強しろ」と言われたことがない。僕にとっての反抗期は、お父さんと逆の方向に行くことだったのかもしれません。予備校に行って国立大学に入り、気象予報士にもなって、という。

――気象予報士のお仕事は?

矢部: 芸人の友達から明日の天気を聞かれたときにLINEで伝えるくらいですね。天気図を読んで教えることもありますが、場合によっては「ヤフー天気」を見てそのまま(笑)。

――矢部さんは漫画家、お父さんは絵本作家として活躍を続けられていますし、姪っ子さんは紙芝居の原作を・・・・・・。おばあさんも川柳をやられていたそうで、クリエーターの家系なのでしょうか?

矢部: おばあちゃんの川柳は、お父さんがまとめて句集にして、手製の本にして家族に配っていましたね。代々そういう感じなんですかねぇ? 家族の歴史を徹底調査するNHKの「ファミリーヒストリー」でやってほしいですね(笑)。

「僕が漫画を描き始めたのは38歳」 やりたいことが見つからない人へ

――矢部さんのルーツはお父さんですか?

矢部: 否定できませんね。子どもの頃は、お父さんがつくったものを最初に見られる環境にあって文集に「絵描きになりたいです」と書いていたこともありますから。

――お父さんは矢部さんに「とにかく好きなことを見つけなさいと言い続けた」と話しています。20代後半~30代前半のtelling,読者の中には「やりたいことが見つからない」という人も多い。

矢部: 僕も今、インタビューとか受けちゃってますけど、漫画を描き始めたのは38歳。telling,読者のみなさんは、まだまだ何でもできます。好きなことに今後、出会うこともあるでしょうし。小さい頃に好きだったものの中に、今から広げられるものがあるかもしれませんよ。

――2021年も下半期に入りました。今後の目標を教えてください。

矢部: 『ぼくのお父さん』を描き終えたので、新連載ができたらと準備をしています。

●矢部太郎(やべ・たろう)さんのプロフィール
1977年東京都東村山市生まれ。お笑い芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活動。初めて描いた漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞。同書は80万部超と大ヒットし、シリーズ累計では120万部を突破した。吉本興業所属。

『ぼくのお父さん』

著者:矢部太郎
発行:新潮社
価格:1265円(税込)

ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。
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