市原隼人さん「もともと前に出るのは苦手。でもファンの方のまっすぐな言葉で意識が変わった」

6月18日に全国公開された映画『リカ ~自称28 歳の純愛モンスター~』は人気サイコスリラー小説の初の映画化。主演の高岡早紀さん演じる「リカ」は、運命の人以外は目に入らない最恐の“純愛モンスター”です。リカの運命の相手役を演じる市原隼人さんに映画版『リカ』の楽しみ方から、34歳になった現在の心境まで、お話をうかがいました。

「リカ」はある意味、純粋な人間

 ――映画『リカ ~自称28 歳の純愛モンスター~』は怖いシーンが最初から続きますが、その本質に気づくのは見ていくうち――。つくりも興味深かったです。

市原隼人(以下、市原): 非現実的なホラーでありコメディーなので、そこが今作の醍醐味です。怖がって悲鳴を上げるか、楽しんで笑い声を上げるか、自分の思いを代弁してくれたとすっきりして帰るか……、見る方によって受け取るものが違うと思います。

――高岡早紀さん演じる「リカ」を、どう受け取るかで感じ方も変わってきますね。

市原: そこもありますね。リカは感情が偏っているように見えますが、彼女が持っているのは極めて普遍的な人間の本質だと思うのです。僕らは社会で生きていくなかで、私利私欲から出てくる言葉を自制心や理性で抑えていますが、何のフィルターもない、人間のありのままの感情を表現しているのが「リカ」なのではないかと思える部分があります。僕はそこをすごく現実的なキャラクターだと感じ恐ろしさを覚えました。

©2021映画『リカ ~自称28歳の純愛モンスター~』製作委員会

――今回、人気シリーズ映画化のオファーを受けて、どのように思いましたか。

市原: 長く愛されてきた作品の映画化に参加できることがうれしかったです。僕の役はリカの新たな運命の相手。リカをどう受け止めればいいのか、どう感じればいいのか、というところから役作りを始めました。僕の感じたリカは、すごく生々しく人間くさい人で、ある意味、純粋な人間だと思いました。

――市原さんご自身は、目の前にリカのような“純愛モンスター”が現れたらどうしますか。

市原: 純粋ならばいいのではないでしょうか…。実際にリカという人間がいても、おかしくないので。ですが、周りに迷惑かけてまで突き通す「愛」は、違うとも思います。ただ、愛のかたちは、いろいろあって、愛し合っている者同士にしか分からない場合もあるので、正解も不正解もないと思います。

――“自分が愛する分だけ、相手にも返してほしい”というリカのような人をどう思いますか?

市原: 何でも押し付けることはよくないと思います。自分の思いを押し付けるのではなく、相手の幸せが自分の幸せと思えることが一番だと。

©2021映画『リカ ~自称28歳の純愛モンスター~』製作委員会

「奥山次郎」を演じる迷い

――今回演じられた奥山次郎は、ストイックで責任感が強く、市原さんご自身とシンクロしてしまいました。奥山をどういう人物だと思いますか?

市原: 奥山は常に逡巡の中にいる人間で、答えを出しきれない。警察官で、常に中立的に人を見なければいけないのに、目的達成のためにその中立さえも失ってしまう。全てのボーダーライン、善と悪さえ分からなくなってしまう理由が映画では描かれています。どんなに気丈に振る舞う人でも、心の中には手を伸ばして助けを求める、トラウマのようなものを持っているかもしれない。そのトラウマとリカの存在が重なったばかりに、善のためなら悪にもなってしまうという……。奥山は全てが紙一重で成り立っている人物だと思います。

――奥山を演じ、難しさを感じる部分はありましたか?

市原: 常に迷いの中にいました。でも、奥山自身が常に迷い、考えながら人にアプローチをするタイプでしたので、迷うことが正解なのかなとも感じました。どんな世の中であれ、最後は規律が人を導く部分も大きいですよね。しかし、その規律自体、人が作ったものなので、間違っていることもある。一方で、人と人がうまく歩み寄っていけるヒントでもある。だからこそ、何を信じればいいのか、分からなくなってしまうのではないかと。なので、奥山も次第に自分自身が分からなくなってしまったのだと感じました。

奥山は、リカが犯した罪はしっかり償ってもらいたいという気持ちは持ちつつも、リカ自身を責めることには迷いが生じています。さらに、奥山もリカも人格形成をする幼い頃に傷を抱えていて、演じる上で境遇が重なることの心の揺さぶりが難しく、複雑な気持ちに陥りました。

――見ている側も奥山の本心が見えずに悩みました。

市原: たまに我に返ってもらいたいのですが、これは全編を通して笑っていただいてもいい作品なので(笑)。

――思わず真剣に見てしまいました……。

市原: 僕も試写で「今、何を見ているんだろう」と不思議な気持ちになりました(笑)。ジャンル分けするとしたら、どれに当てはまるのかを考えていたんです。でも、何にも当てはまらないなと。とにかく、「リカ」という人を見に来てほしい。見終わった時に、リカを許せるか許せないか、認められるか認められないか、いろいろ考えてもらいたいです。リカ自身は、自分を救ってくれる人を探していて、たまたまそれが、愛だったのではないかと思います。

コロナ禍で考えた、今やるべきこと

――リカは運命の相手を探すために、マッチングアプリを駆使していますね。

市原: 実は僕はあまり、テレビもネットも見る時間がなく、気になることがある時はネットで調べますが、それ以外は見ていなくて。最新のテクノロジーを駆使して男女が出会うというのも、わからないことが多いです。

――日々、情報は何を使って得ることが多いですか?

市原: シンプルに、周りから聞くことが多いですね(笑)。だから、知らないこともたくさんあると思います。僕もInstagramは使っているので、テレビやネットの全てを否定するわけではありませんが、事実と異なっていたり、ニュアンスが変わっていたりする記事を見て、「全ての真実をきちんとユーザーに伝えることは難しい」と感じたことがあります。そう思った時から、あまり見なくなってしまいました。

――「きちんと伝えられない」とは具体的にはどのようなことですか?

市原: いろいろ考えてまとめていただいた記事でも、映画やテレビのドキュメント作品などでも、いろいろな制限あったり編集がなされている。それを感じたときですね。

――そのなかでも、Instagramを続けているのはなぜですか?

市原: Instagramは、自分の言葉をそのままで発信できるので、単純にそういう場所がほしかったんです。役柄を通して作品について、前に出る機会をいただいてお話させていただくことが多いのですが、その作品や役柄というフィルターを通してしか話していない。等身大の自分がもっと伝えなければならないことがあるのではないかと自分の中で感じていて……。34歳になって、どんどんできなくなることも増え、消費期限があると気づいてしまったんです。

――「消費期限」という意味合いを教えてください

市原: 体力的にも感覚的にも、社会のシステムのようなものを理解すればするほど、自分が小さくなっていってしまうような感覚がありまして、アクション作品もやりたいのですが、身体的な動きでいえば、20代後半から30代がピークだと思うんです。そういう意味でも、コロナ禍で自分と向き合う時間が増えて、自分はもっとやらなければいけないことがたくさんあるんだと感じて。今、どうにか“かたち”にできないかと、もがいてます。

枠を超えて、自分発信の作品を作りたい

――具体的には、どのようなことを“かたち”にしたいと思っていますか?

市原: 写真を撮るのも好きなので、写真に自分の詩を乗せて、想いを伝えたり……。海外に行き、いろいろな人と触れ合う中で感じたことや、見てきた世界も伝えたいと思っています。

それらが見てくださった人の経験になり、その方々がもっと心豊かに生活できたり、ポジティブになれたり、可能性を感じたりと、自分の居場所があるんだと思ってもらえるような作品を発信していきたいです。あと、映画を作りたいとも思っています。僕は映画出身なので、自分が思う作品を作ってみたいですね。

――表に出るというよりは、何かを作ってみたいという思いが強くなっているということですか?

市原: 僕はもともと何かを作るのが好きなんです。18歳の頃からビデオカメラを持ち、友達とショートムービーみたいなものを作っていました。何のために作るかと言ったら、単に誰かに見てもらい、何かを感じてもらいたい一心でした。役者はお客様に楽しんでいただくことで成立する生業です。その中で、自分の発信でやってみたいという思いが強くなりました。役を与えられると、演出がいて、こういう芝居にしてくださいと指導され……。その枠の中でいつももがいています。その枠を超えて、自分でゼロから企画したものを発信し、見ていただいたお客様によろこんでいただきたいという思いがふつふつと湧いてきています。

――今年の抱負に「本気で笑え、本気で泣け、本気で悔しがり、物事の根源を見つめる力」とInstagramで発信されています。この言葉の意味を教えてください。

市原: 物事の本質を捉えるということを伝えたいという想いがあります。役者は何のためにあるか、なぜその職業が成立してるのか、なぜ必要とされているか――。それを突き詰めていくと、努力するべき山が見えてきます。一生懸命、頑張りたいと思っていても、ポイントが分からない人は山ほどいると思います。でも、根源を探っていけば、自分の努力するポイントが見えてきたり、登らなければいけない山が見えてきたりする瞬間を感じられます。それを毎日、こなすのではなく、しっかり本気で向き合い、本気で笑って、本気で泣き、悔しがれないと、次にはつながっていかないと思います。

「それでいいや」ではなくて、「それがいいや」ということを選択していると、物事の本質が見えて、迷子にならなくなる自分がいます。

ブレると、やりがいも生きがいも分からなくなり、迷子になってしまいます。物事の根源を見つめ続けると、自分で決めたときから、人生がガラッと変わっていきました。それを伝えたくて発信しているのかもしれません。

――そのことに、いつ気づいたのですか?

市原: ファンの方たちからの言葉です。「余命数カ月と言われたけれど、隼人くんの映画を見ると頑張れます」「目が見えなくなるかもしれない手術を受けるので、最後に力ください」「作品を見て親子の会話が増えました」など、率直な想いを伝えてくださったのがきっかけでした。

これだけ真摯に見てくださる方がいるのに、僕はなんて失礼な向き合い方をしていたんだろう、と気づきました。もともと前に出て話すのも、芝居も好きではなかったので……。でも、想いを伝えてくれるファンの方がいることを自分で感じてから、もっとしっかり向き合わなければと意識が変わりました。

メイク:大森裕行(VANITES)  スタイリスト:小野和美

『リカ ~自称28歳の純愛モンスター~』

6月18日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか
全国ロードショー

高岡早紀 / 市原隼人 内田理央 尾美としのり マギー 佐々木希
監督:松木創 原作:五十嵐貴久「リカ」「リターン」(幻冬舎文庫) 脚本:三浦希紗 音楽:戸田有里子
主題歌:FAKY99」(rhythm zone) 挿入歌:Lil Fangfrom FAKY)「人形の家」(rhythm zone
制作プロダクション:共同テレビジョン 配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2021映画『リカ ~自称28歳の純愛モンスター~』製作委員会
http://www.rika-28.com/

telling, 編集長。女性誌編集、WEBディレクター、PR、フリーランス編集・ライターを経て、2020年3月より現職。年間70回以上コンサートに通うクラオタ。国内外のコレクションをチェックするのも好き。美容に命とお金をかけている。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。
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