「母親は“心配”を通して私をコントロールしている」毒親を生む、人生への不満

娘に過干渉を繰り返す母親。度を越えると、娘を追い詰めてしまうことも。なぜ母親は娘の人生をつぶそうとするのでしょうか。母親が毒親と化した30代女性にお話をうかがいました。

「母親に『恋人と別れないと自殺する』と脅迫された」「母親がデートを尾行していた」……「毒親」についていろいろな人から話を聞いていると、信じられないようなエピソードに度々出くわす。
母親たちは、「自殺する」と脅したり、「あなたのためだから」と嘯いたりして、子どもたちを支配しようとする。また、子離れができずに過干渉を繰り返すこともある。
親たちが「毒親」と化すのには、様々な要因があるが、子どもたちとその母親世代の価値観や生きてきた環境のズレが両者の関係を悪化させることもある。

出版社で働く中島由美さん(仮名・30代前半)は、「専業主婦の母親とは話が噛み合わない」とこぼす。

 

実家を出ることを反対され、うんざり

「元々、心配性の母親とは性格が合いませんでした」。中島さんは開口一番、母親との“性格の不一致”を嘆き始めた。「私が何かをしようとすると『○○が心配だ』と難癖を付けてくるんです。本当に嫌になります。私からするとやりたいことを妨害されているようにしか思えません」

母親との衝突で特に印象に残っているのは、実家を出ようとしたときのことだ。中島さんの実家は首都圏の“ベッドタウン”にあり、都心までは電車でおよそ30分。通勤に便利なので、大学卒業後もしばらくは実家に住んでいた。

「それまでは家賃を節約したいと思い、実家に住んでいたのですが、やはり一人暮らしをしたいと思い、物件を探し始めました。しかし母親から『実家を出る必要があるのか』『一人暮らしは危ない』と繰り返し言われ、うんざりしました。実家を出て、一人で生活したいと思うのは当たり前のことじゃないですか。しかもそのときすでに20代後半で、経済的にも自立しています。それなのに母親にしつこく反対されました。母親は一人暮らしをしたことがないので、過度に怖がっているところもあるのだと思います」

中島さんの母親は、1958年生まれ。一人暮らしをする女性は今よりも少なかった。結婚するまでは実家で暮らし、結婚してからは夫と暮らしたという人もめずらしくない。女性の場合、実家に住んでいないと就職活動で不利になることもあったという。“女性の一人暮らし”に関する考え方の違いが、二人の衝突の一因になったのかもしれない。

結局、母親を説得できなかった中島さんは、強引に家を出る。

「仕方がないので、保証人には、家賃保証会社を利用しました。緊急連絡先は親族じゃないとだめだと言われたので、友人に母親のフリをしてもらうことにしました。親には実家を出ると伝えないまま、引っ越しを決行しました。

今は、恋人と半同棲して楽しく生活しています。それなのに、こちらの意向を無視して、『実家に帰ってきなよ』と言い続けている母親にはもはや恐怖を感じますね」

 

結婚を前に価値観の違いがあらわに

家を出て数年。今度は、中島さんの結婚を巡って、揉めたという。

「母は結婚と出産を機に退職し、その後は専業主婦として生きてきました。朝晩と毎日食事を作ってくれていましたし、毎日掃除をしてくれていました。それ自体はありがたいのですが、女性は結婚したら誰でもそのくらい家事をするものだと思い込んでいるようで、びっくりしました。今時、夫のお弁当を毎日作っている女性なんているんでしょうか。夫だってそんなこと望んでいないと思います。

それに『介護は嫁の仕事』とも思っているようです。もちろん義理の家族は大切にしたいですし、お見舞いや介護の必要が出てくるかもしれません。しかし母に『義母の介護はあなたがやるのよ。その覚悟はあるの』といったことを言われ、驚きましたね」

1980年には1100万世帯以上に上った専業主婦世帯。その後も1990年代までは共働き世帯の数を上回っていた。共働き世帯数が専業主婦世帯数を突き放し始めるのは、1990年代後半になってからのことだ※1

ミレニアル世代にとっては、もはや共働きが当たり前。ましてや、将来は書籍に携わりたいという夢を叶えた中島さんに、仕事をセーブするという選択肢はない。しかし母親は結婚を機に退職することがめずらしくなかった世代。性別役割分業に関する二人の考え方には隔たりがある。

中島さんは、こうした価値観の違いや度重なる“過干渉”に嫌気がさしてしまったという。元々父親とも折り合いが悪く、現在は両親の番号を着信拒否、LINEをブロックし、実家とは絶縁状態だ。

                                        

「人生対する根深い『不満』」

「『心配しているだけ』『あなたの幸せを願っているだけ』と言われると、反論するのがとても難しい。でも実態は『心配』を通してコントロールしようとしているのだと感じます」
中島さんは、「母親はコントロールしようとしている」と訴える。母親本人がそれを意図しているかどうかはわからないが、「心配」による制限がコントロールに結び付くことは想像に難くない。

『毒になる親』※2の著者スーザン・フォワードによると、子どもをコントロールしようとする親は総じて「自分自身の人生に対する根深い『不満』と、見捨てられることへの強い『不安』がある」という。

中島さんの母親は、かつて「学校の先生になっていれば結婚後も働けたのに」ともらしたことがあるという。当時、一般職の女性は結婚を機に退職するのが当たり前だった。独身のまま職場に残る女性たちが「お局」と揶揄された時代だ。

「仕事も諦め、父親とも不仲。これといった趣味もなく、娘である私に構うことが生きがいになっているのではないでしょうか」
母親たち自身が抱える人生への不満。それが親子関係を悪化させ、ますます人生への満足度を引き下げてしまっているのかもしれない。

 

【参考文献】
1平成30年版厚生労働白書 図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移
2スーザン・フォワード著、玉置悟訳『毒になる親 完全版』2021年、毎日新聞出版

千葉県生まれ。一橋大学社会学部卒業。編集者として働きながら、ライターとして活動している。関心のあるテーマは、シェアハウス、共同保育、コミューン
毒親の呪縛

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