「働く意思見せろ」と責められ…専業主婦からマンガ家へ転身して得た自由【肩書05】
●肩書って何だろう 05
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――現在の肩書きを教えてください。
ゆむいさん(以下、ゆむい): イラストレーターです。
――作品は実体験をベースにしたセミフィクションということですが、ご自身も専業主婦を経験されているのですか。
ゆむい: リーマンショック後の就職氷河期世代ということもあり、大学卒業後、就職がちゃんとできなくて。絵の仕事には就きたかったのでフルタイムのアルバイトでイラストレーターになりました。でもそれもすぐに契約解除されてしまって。そういうタイミングで結婚したので、あまり深く考えずに主婦になりました。結婚後もフリーとして絵は描いていたんですが、妊娠してからはつわりが酷くてそれもできなくなって、子どもが産まれてからは子育てが忙しく……。2、3年は絵を描くこともしていませんでした。
――作中では主人公の夫「つとむさん」が、定職に就いていない主人公の妻・ももこを責めるシーンがたくさん出てきます。ご自身も、旦那さんから「働きなよ」みたいな圧を感じていましたか。
ゆむい: そういうプレッシャーがあったのは事実です。夫は私が結婚してから一度も外で働いていないということを根に持っていて、「働く意思を見せてみろ」と言ってきました。
私もいつかはデザイン職で働こうと思っていたんですが、2人の子どもを育てる大変さに追われてしまって。とりあえずパートでつなごうと思っても、子育て中の母親を採用してくれる会社はなかなか見つからないんです。
――子育てと仕事との両立は難しいものですか?
ゆむい: やっぱり全て子どもの世話に持っていかれますよね。私はもともと掃除が苦手なので、夫から家事ができていないことを責められていて。だったら手伝ってくれれば……とも思うんですが「家事は俺の仕事じゃない」と。「家事ができないなら働けよ。お前は何もしていない」などと常に責められるので、過呼吸の症状が出て心療内科に行ったこともあります。
家庭内では責められ、家庭の外では社会的信用がない
――家事も労働だという認識が広まってきているなかで、旦那さんにはその意識が欠けているように思います。
ゆむい: 主婦の仕事を年収に換算すると数百万円になる、みたいな話もありますが、夫にそのことを言うと「そういう話を持ち出すなら、数百万円の『業務』として家事を依頼するよ?ミスは許されないし、もちろんクレーム対応もしてもらう。責任をもって家事をしてもらうけどいいの?」と言われてしまって言い返せませんでした。
――漫画では主人公・ももこが夫の無理解な発言に耐えかねて別居を考え、一人で部屋を借りようとするシーンがありますね。
ゆむい: 私も実は似たような経験をしていて、実家近くの団地に部屋を借りようとしたんです。その時に家賃の4倍以上の収入があることを証明しないと貸せないと言われてしまって。私は一人暮らしをしたことがなく、そんなことも知らなかった。その時に初めて自分が「社会人として一人前じゃない」と思い知ったんです。
働きはじめたら夫婦関係も改善した
――そうした状況から脱却するきっかけが、イラストや漫画を再び描き始めたことだったんですね。いまのご活躍に至るまでに、どんな経緯があったんですか。
ゆむい: ずっと絵で仕事がしたいという気持ちはくすぶっていたのですが、ある日突然「描こう!」と火がついたんです。そこから、育児を描いた「絵日記ブログ」を始めました。最初は手がなまっていたので絵を描くのも時間がかかり、子供もまだ保育園に入れていなかったので、当時の記憶がないくらい忙しかった。がむしゃらに働いた結果、1年くらいで収益につながるようになりました。
――働き始めてから、生活にはどんな変化がありましたか。
ゆむい: 夫と口論になっても言い返せるようになりました。社会的信用や収入では定職に就いている夫にまだ及ばないけれど、絵の仕事をしていきたいという夢が叶ったことで自分に自信が持てるようになったんだと思います。それに、絵を描きはじめたら夫も私を応援してくれるようになって、以前のように責められることが減ったんです。それはそれでなんかムカつきますが……。
――共働きになることで家庭が健全に回りはじめたようですが、専業主婦として楽しい家庭を築ける可能性はなかったんでしょうか。
ゆむい: 後から気づいたんですが、夫の中では私がしている家事も育児も「見ていないもの=存在しないもの」になってしまっていたんです。苦労している姿を見せないことが、すれ違いの元になっていました。
ただ、私も仕事でストレスを溜めている彼の愚痴をちゃんと聞いてあげていませんでした。いまは余裕ができてお互いの話を聞けるようになり、すれ違いも減りました。「夫婦だけどお互いのことを全然知らないんじゃないか」と、相手に対する思い込みを捨ててみることが重要だと思います。
逃げ込む形の結婚でも、自分一人で生きていける用意を
――忙しく働いていると「専業主婦になりたい」とふと考える瞬間は多くの女性にあると思います。そういう「逃げ場」としての結婚についてどう思いますか
ゆむい: 貯金してからがいいと思います(笑)。やっぱりお金は大事ですよ。私は専業主婦の時、何を買うにも夫の許可を得ていたんです。数百円くらいの「味噌こし器」を買いたいと言ったら、「もったいない。おたまと箸でいいじゃん」って否定されて、何も言い返せなかった。その点、自分で稼いだお金なら、自分の判断で必要な物を買うことができます。誰かの支配下に収まらない、というのが自分にとっては大きかったです。
自分ひとりで生きる術もないまま誰かの世話になると、逆らえない。自分の人生が相手次第になってしまうのは怖いことだと思います。
――経済的に安定してお金を稼ぐ必要がなくなったとしたら、専業主婦に戻りますか?
ゆむい: もし宝くじが当たったとしても、絵は描くと思います。専業主婦でイキイキしている人もいますが、家にこもって家事だけという日々が私にはつらかった。ただ、いまは収入の見込みや作業ペースがつかめるようになってきたので、これまでよりは子育てにもっと時間を割いていきたいと思っています。
●編集後記
専業主婦時代、夫から求められた「家事を完璧に1人でこなす」という役割が肌に合わなかったというゆむいさん。いまは自分らしく働ける道を見つけ、経済的にも精神的にも余裕が生まれたことを語ってくれました。お話を伺いながら、夫の理解がないと「ないもの」にすらされてしまう家事労働をこなす日々って仕事に行くよりも辛いのでは……?と考えていました。ほとんどの人がその立場を経験したことがないのに「楽している」というイメージを持たれがちな専業主婦という肩書き、うまく付き合っていくにはパートナーの理解が必須のようです。
ゆむい
発行:KADOKAWA
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