知念美加子の「MY LIFE, MY CLOSET」12

周りの人が「肩書きを休憩する」ことをすすめてくれました

女性誌「ViVi」などで活躍中のスタイリスト知念美加子さんにとって、ファッションは「自分自身を高めてくれる日常」。その日、見た・感じた・聞いたことから感じたインスピレーションをファッションに反映するそうです。知念さんのファッションのルーツを知るべく、頭の中をのぞいてみました。

●知念美加子の「MY LIFE, MY CLOSET」12

8月23日、実家のある沖縄で男児を出産しました。
正直まだ不思議な気持ちですが、息子から自分や旦那さんの遺伝子を感じるたびに、嬉しくなります。
東京での仕事のことや、拠点についてなど……しばらく家族と過ごしながら考えていきたいと思っています。
そんなわけで、今、「ファッションスタイリスト」の肩書きは一瞬だけクローゼットの中に眠っています。

私の職業はファッションスタイリスト

24歳で独立してからずっと、職業は「ファッションスタイリスト」と名乗っています。正直昔は、この肩書きにすごくこだわりがありました。
「スタイリスト」というと美容師のスタイリストと混同されがちなので、「洋服のスタイリスト」であることをきちんと認識してもらいたかったということ。

そしてもう一点。ありがたいことに、テレビや雑誌などで人前に出る機会をいただくことがあった際にも、「スタイリスト」という肩書きの表記や自己紹介については強く意識をしていました。

それは「モデル気取り」だと思われたくなかったから。
日々モデルさんと一緒に仕事をしている中で、彼女たちのそのストイックさを目の当たりにし、心からリスペクトをしています。
たまたま同じ雑誌の中で、モデルさんと同じように私が写っていても、モデルを職業にしている、表現者の方とは全然違うと私は思っています。「スタイリスト兼モデル」では絶対にない。だって今も、こうして甘いお菓子を片手にぐうたらしているぐらいですから(笑)

なので、人前に出る仕事の依頼があった際も「私に“モデル”は求めないでください」とお伝えするようにしていました。今にして思えば少し生意気だったのかもしれませんが、それが当時の、自分なりの肩書きに対するブランディングでした。

「肩書き」にこだわってよかった

肩書きにこだわってきたことで、「ファッションスタイリスト知念美加子」の認知度は自分が思っていた以上に高まった体感があります。SNSなどに「スタイリストになりたい」というお問い合わせをもらうことも増えました。
かつての自分がそうだったのですが、漠然とファッションに興味はあるけれど洋服のセールスやデザイナーはピンとこない。どんな仕事についたら良いのかわからない人たちに「スタイリスト」という選択肢を提示する一端を担えているのかな?と感じる瞬間もあります。

たまに「インフルエンサーとして」仕事の依頼をいただくことがあるのですが、残念ですがお断りするようにしています。

最近急速に増えている「インフルエンサー」。元々の意味は「影響力のある人」。数年前、雑誌WWDが「注目のファッションインフルエンサー100人」という企画を行い、光栄なことに豪華な面々のうちの一人に選んでもらったことがありました。その時は本当に嬉しかった。

ただ、日本では少しずつ「インフルエンサー」という言葉の意味が変化し、今ではフォロワーの数がフォーカスされがちだと感じます。
私自身は多くの方がフォローしてくれていることは嬉しいですが、その「数」が勝負どころではないので、今のような意味合いでの「(フォロワーの)数を求められるインフルエンサー」のお仕事については距離を置きたいというのが私の考えです。そこはまだまだ自分なりの「肩書き」へのこだわりかな。

「母」という肩書きについて

さて、この取材は臨月真っ只中に受けているのですが、「母」という肩書きにまだ抵抗している自分がいます。
「母親」って、そもそも肩書きなんでしょうかね。もっともっと、広くて大きな概念のような気がしますね。

「お母さんだからこんなファッションはしてはいけない」とか「もうお母さんなんだから」にはとらわれたくないと、今は思ってはいますが。
そんな考え方や、そして自分の人生そのものと言っても良い、ファッションについても価値観が変わってしまうのではないかと怖くなることもあります。

仕事について、初めは本当にビクビクしていました。妊娠を伝える前から「いつ復帰すると周りに伝えよう」と、復帰の報告のタイミングばかり考えていたくらいです。
普段は重い荷物をわんさか持って現場を駆け回るスタイリストですが、妊娠を知られてしまうと気を遣わせてしまうだろうと、なかなか言い出せなかったり。
でもそんな時、お世話になっているスタッフの方に言われたんです。
「産んでみなきゃ分からない事だと思うから、事前にどうするかなんて決めなくていいよ。待ってるから」
今まで、スタイリストという肩書きでいる時間は極力他人に甘えないようにしようと努めていたのですが、はじめて、そうした周りの方の厚意に甘えてみようと思えました。

「肩書き」はずっと変わらないけど……

20代のあの頃も今日、この日も。私の肩書きは「知念美加子」であり「スタイリスト」ではあるけれど、そのスタンスは少しずつ変わっています。

次にみなさんにお会いする時もきっと、「あなたの肩書きはなんですか?」と聞かれたら同じように答えると思います。ただ、その心境やこだわりについては、もしかすると変わっているのかもしれません。

1987年、那覇市生まれ。スタイリストのアシスタントを2年経験し、2011年に独立。雑誌「ViVi」を中心に活動する人気スタイリスト。
大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。
肩書って何だろう