はしかよこさん「私が『肩書なし』で生きる理由」〈前編〉
会社員をやめたらどんな肩書を名乗ればいいかわからなくなった
大人になってからの自己紹介って「肩書ありき」ですよね。「〇〇社でPRをしています」とか「××社で編集をしています」とか、分かりやすいテンプレに乗せないと会話にならなかったり、〇〇や××に入る社名はできるだけ有名な方が話が早かったり。
とにかく、分かりやすいフックがないと誰も自分に興味なんて持ってくれません。
なので、会社を辞めてしまった時には「これから自分はどんな肩書きを名乗るべきだろう?」と、かなり頭を悩ませました。
いや、会社を辞めた時というより、そもそもキャリアが始まった時から肩書きとアイデンティティが一致せず、ずっと悩んできました。
「やりたいことが分からない」迷子だった20代
昔から表現することが好きで、文章を書いたり、映像を撮ってみたり、バンドを組んでみたり、ホームページを自作してみたり……。学生時代をそんな風に過ごしていたので、会社員として働くための就活に全く興味がわかず、気づいたら大学を卒業して新卒ニートになっていました。
たぶん半年くらいボケーっと過ごしていたと思います。さすがにこれはマズイと気づいて、仕方なく働き始めたのですが、自分がやりたいことが分からない。
新しいことを知ることが好き、表現をすることが好き、旅をするのが好き。好きなことはたくさんある。でも、コレ!といったものはなくて。そこそこに好きなことがたくさんあるだけ。どうやったら一つに決められるんだろう?「好きなこと」と「キャリア」を結びつけられるんだろう?
それが分からなくて、興味のあることをまずやってみて、別の興味があるものが見つかったらまた飛び込んでの繰り返し。
ふと振り返ってみるとキャリアには何の一貫性もありません。「アパレルの販売員」から「WEBエンジニア」になるほど振れ幅がありました。ただ「時間も場所も自由に働けるようになりたい」という目標だけはずっと掲げていたので、そのためのスキルを身に付け、紆余曲折を経てフリーランスになったのが20代の終盤でした。
「何で収入を得ているか」で自己紹介するのに違和感を覚えていた
もうすぐ三十路だというのに、いまだにあれもこれもと興味のあることに手を出している。自分の中では全部興味のあることをやっているので納得感があるのですが、外からみたら「なんか色々やってるよく分からない人」という感じで、それがとてもコンプレックスでした。
だから、自己紹介って本当に苦手でした。
「何してるんですか?」と聞かれた時、それは大人語に翻訳すると「どうやって収入を得ていますか?」という意味になります。「旅をしています」と言うと相手は納得してくれませんし、「ヨガをやってるんです」と言うと「へー!ヨガの先生なんだ!」と早とちりされてしまいます。
「あ、いや、本業はWEBの開発をしていて、メインのお金はそれで稼いでいます」と答えると「なるほど!」と、やっと満足してもらえるのです。
大人って「この人は一体どうやって稼いでるんだろう?」と、どうしてもそこが気になってしまう生き物みたいなんですよね。
でも、「何でご飯を食べているのか」が自分の自己紹介になってしまうのは、それでいいんだっけ?と思いました。
だって、それって本当に「私」なんでしょうか?
肩書きの枠に収まらない小さな「好き」に耳を傾ける
これまで「アパレル販売員」とか「WEBエンジニア」とか「コミュニティマネージャー」とか、転職をする度に新しい肩書きを名乗ってきました。確かにそうやって言語化することで、周囲からの認知と理解を得ることができます。
けれど、その肩書きの枠に収まりきらない、ハミダシてしまった自分の一部が「おーい!ここにも私がいるよ〜!」と小さく叫んでいました。
フリーランスになったことをきっかけに、その声はどんどん大きくなっていって「いやいや、ヨガとか、旅とか、物語が好きとか、そういう話はビジネスの世界とは関係ないんだから!趣味の方の自分は引っ込んでて!」とは、言えなくなってしまったんです。
せっかくフリーランスになったのだから、この小さな叫びをなんとか拾ってあげなくては。
私は改めて「自分らしい働き方」を模索し始めました。
「ご飯を食べるための肩書」をいったん脇に置いてみた
それでやってみたのが「週5日働かない」という試みです。
メインの収入源だったWEB系の仕事は週2日~3日に抑えて、残りの時間は「お金にならないけど好きなこと」に割いてみました。「手元にもし1億円あったとしてもやりたいと思えることは何?」と自分自身に問いかけ、それでもやりたい!と思えることをやってみたのです。
Podcastを配信してみたり、ヨガを教えてみたり、旅に出たり、noteを書いてみたり。
「毎日が楽しい。でも、こんなキリギリスみたいな生き方をしてたら、冬が来た時には私は死んでしまうのでは......」と思いながら。
こんな風に「自分らしい働き方」を模索していたら、気づけば肩書を持たず、名刺も持たず、「色々やってるよく分からない人」のまま半年が経過していました。
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