肩書って何だろう07

はしかよこさん「好きなことで人とつながれば、肩書はいらなくなる」〈後編〉

会社員をやめ、「肩書なし」を自認して生きるはしかよこさん(30歳)。前編ではあれこれやりたいことに手を出し、キャリアにまとまりがない自分にコンプレックスを抱いていたということを書いていただきました。趣味でやっていた好きなことをどうキャリアにするか悩むなかで、ある日「バラバラだと思っていた“やりたいこと”に一つの軸がある」ことに気づいたはしさん。後編では一気に肩書に対する思いが変わった理由、現在の活動にかける想いを書いてもらいました。

「肩書」はビジネスの世界で目立つための服

数年前から「新しい働き方」「個の時代」「パラレルキャリア」といったキーワードが叫ばれ、SNSを使った自己ブランディングで成功した人々の「自分だけの肩書を持ってもっと自由に生きよう!」という声がよく耳に入ってくるようになりました。

とにかくレアな人材になって市場で選ばれないといけない。

そんな風潮もあって、私も一言で注目を集められるようなユニークな肩書を持ちたいなあと思っていました。

ちょうど会社員を辞め、お金のために働く時間を大幅に減らし「好きなこと = 趣味以上、仕事未満」に時間を割き始めたタイミングです。

Podcastの配信、ヨガ、旅、文章を書く、etc......すべて側から見たら趣味のようなことだけれど、趣味で済ませてしまうにはちょっと寂しい、自分のアイデンティティに直結するような「趣味以上、仕事未満」たち。

フリーランスになった最初の頃は、これらを全て一纏めにできるような自分だけの肩書を作れないものかと考えあぐねていました。

でも、しばらくして気づいたんです。そんなのは無茶だと。

実際のところ何者でもないのに、言葉をひねくり回して肩書を考えるのは何だかおかしい。そうやって無理に肩書を作ることは、利害の上に人間関係を構築していくビジネスの世界で、出来るだけ目立つ服を着て踊っているだけのように思えました。

「何をやっているか」より「なぜやっているか」

気づけば肩書を持たず、名刺も持たず、「色々やってるよく分からない人」のまま半年が経過していました。

それでも、そうやって模索していく中でバラバラに思えていた「「趣味以上、仕事未満」たちに共通点が見えてきたのです。私の中の「WHY」、「なぜそれをやっているのか」がとても明確になりました。

私は「生きづらさ」をなくしたかったんです。

世の中には色んな生きづらさがあると思いますが、ここで取り上げたいのは「社会通念としての当たり前にハマれない辛さ」のこと。例えば「学校へ行くのは当たり前」「女は子どもを産んで一人前」とか、世間が考える当たり前の枠に収まれない時、人は「生きづらさ」を感じると思います。

私自身、不登校や新卒ニート、休職の経験など、生きづらい思いをしてきました。

当たり前からハミダしてしまった時、あるいはハミダしたいけど一歩が踏み出せない時、自分で自分を肯定してあげられたら楽なのでしょうが、なかなか難しかったりします。

何故かというと、他者が決めた幸せの尺度に心が囚われているから。

「やっぱり学校は行っといた方が良いよね」、「結婚はしておくべきだよね」。

「こうあるべき」が私たちを苦しめます。

そんな時、自分の心の声や、「当たり前」以外の選択肢に気づくことがとても大切だと思うんです。

振り返ってみれば、Podcastは「自分の中の違和感に気づくこと」をテーマにしていましたし、ヨガは「自分を観察すること」、旅は「凝り固まった価値観をリセットすること」といった感じで、これまでやってきた活動は全てそんな想いがベースになっていました。

「生きづらさをなくしたい。そのためには誰かに決められた幸せではなくて、自分の時間を納得感を持って生きることが大切。」
「私自身そうありたいし、周りにもそうあって欲しい。」


自分の根っこにある気持ちがわかったとき、色んなことが腑に落ちて、バラバラだった活動に一本の横串が通った感覚がありました。

想いで繋がれたら、顔も名前も知らない人から「選ばれる」必要はない

それからは「私はこういうビジョンを持ってます!」そんな想いをどんどん言葉にして、公言していきました。すると、共感してくれる友達ができて、一緒になんかやろうよ!と言ってくれる人ができて、縁が広がっていって。気づいたら自分に肩書がないことはあまり気にしなくなっていました。

自分らしく生きていくために必要なことは、ユニークな肩書を持つことでもなく、有名になることでもなく、不特定多数の誰かから選ばれることでもなかったのです。

大事なのは、自分の想いに気づくこと、それを言語化すること、そして誰かと共有できること。

そのためのツールとして、仲間と一緒に「肩書きじゃなくて、好きなことで繋がろうよ」を体現する名刺を作ったり、想いをベースにした繋がりを広げていく中で、少しずつ「趣味以上、仕事未満」が「仕事」にもなってきました。

「小さな違和感を大切にしたい」という想いから始めたPodcast「ハミダシミッケ」は、渋谷のコミュニティFMのラジオ番組になりました。現在、私は世界一周中で収録には参加していませんが、同じ想いを持った仲間がラジオを放送し、私は番組の内容を元にWEBメディアでコラムの連載をしています。

また、「忙しい毎日でも、1分1秒を大切に生活したい」という想いから、食卓を軸に暮らしのプロデュースを行う会社・tumugi LABOの立ち上げにジョインしています。

やっていることはバラバラでも「誰もが自分の時間に納得感を持って生きる世界 = ウェルビーイングに生きられる世界」を作りたいという軸からはブレていません。

自分の人生の価値観がはっきりしている今、肩書がない状態やまとまりのないキャリアに対する不安もなくなりました。

誰かから、急に興味を持ってもらえるような鮮烈な肩書がなくても、私は、そんな肩書なしでも繋がれる人と、これからも時間をかけて関係を作っていきたい。そして、そんな仲間と未来を作っていきたい。そう考えています。

1988年東京生まれ東京育ち。渋谷のIT業界を飛び出し、ウェルビーイングをテーマに夫婦で世界一周中のフリーランス。「誰もが自分の時間を生きられる世界」を目指して日々活動中。株式会社MIKKE取締役。合同会社tumugi LABO立ち上げ参画。生きづらさを軽くする処方箋のような文章を書きたいなと思っています
肩書って何だろう