ピアニスト・佐野優子さんに聞く、現地の空気を吸っているだけで、幸せで満たされる旅の経験とは?(後編)
●自分を変える、旅をしよう。#20 佐野優子(31)後編
リーマントラベラーの東松寛文です!世界を舞台にして活躍するピアニストの佐野優子さん。後編では、旅にハマったきっけかや印象に残っている旅先、これからの目標を聞いてみました。
東松寛文(以下、――): 前編では過酷な演奏旅行についてうかがいました。現在のように演奏旅行をする前もよく旅をしていましたか?
佐野優子さん(以下、佐野): 実は、もともと旅好きではありませんでした(笑)。今も、演奏でなければなかなか旅に出て行かず、私自身の新婚旅行でさえも、式から1年も放置してしまったほどです。結婚式の3日前まで、ロンドンからはるばる中国まで演奏旅行には行っていたのですが(笑)。
――旅にハマったきっかけはありますか?
佐野: 私の旅はほぼ毎回、現地でのミッションがあり、旅の印象はそれに左右されることが多いのですが、初めて全てを差し置いて惚れ込んだ国が、スペインです。
当時はハンガリーのブダペストに留学中で、スペインには演奏で何度か滞在しました。ある時、母が日本から会いに来てくれ、スペインで合流したのですが、演奏を控えている私とは裏腹に、母は観光客気分全開で、スケジュールの合間を縫って名所めぐりに駆り出されました。おしゃべりが大好きな母は、何も知らないスペイン語だろうと全く躊躇せず、とにかく現地の人と交流します。なぜか会話が成り立ち仲良くなって、地元っ子からオススメ情報をゲットしたり、買い物でも割り引いてもらったり、レストランではいろいろとサービスしてもらったり、旅を楽しむ才能があるなぁと思って感心しました。
――お母さんすごい旅上手ですね!スペインのどこに魅力を感じたのですか?
佐野: そんな母の提案で、演奏旅程にはなかったスペイン南部のアンダルシア地方へ足を伸ばしてみることに。街並み、料理、音楽、文化、人々、言語の全てが私たちの感性とどんぴしゃりで、二人で大興奮して楽しみました。
現地の空気を吸っているだけで、幸せで満たされる旅の経験は、人生初だったと思います!私も現地での冒険や交流をすっかり楽しむようになり、気がつくとたくさんの友人ができていました。
南部では英語ができる人が少ないのですが、独学でスペイン語を学びながら連絡しているうちに、私もすっかりスペイン語も話せるように。心の底から全てが大好きな国で、初のスペイン旅行から約10年が経ちますが、今でもその時に知り合った友人たちとは家族ぐるみで連絡を取り、仲良くしています。
ーー今までに一番印象に残っている旅先はどこですか?
佐野: コンサートツアーで行った南米のチリは鮮烈な印象でした!約1カ月かけて縦断ツアーをしたのですが、まず、愛と情熱に溢れたチリ人のコンサートの楽しみ方に、すっかりハートを奪われました。驚くことにクラシックコンサートの客層もとても若く、若者が半数を占めていました。初めてのチリでしたが、私のコンサートも全日程・全会場で完売し、とある会場では1500席が発売からたった3日で完売して、当日は会場前にキャンセル待ちを求めて長い列ができていたそうです。
――チリでは若者もクラシック音楽に関心があるんですね。
佐野: そんなチリで一番印象に残っているのが、コンセプシオンという街。コンサートの翌日、タクシーを呼んだところ、迎えに来た運転手さんが「えっ、もしかして本物のユーコ・サノ?ピアニストの!?」ととても驚いていたのですが、なんと前日のコンサートに、ガールフレンドや友人と聴きに来てくれていたというのです!大喜びの運転手さんは、赤信号で停止するたびに弾ける笑顔でセルフィーを撮り続けて、こんなにコンサートを楽しんでくれたんだなぁととてもうれしかったです。
チリでは、スペイン旅行がきっかけで身につけたスペイン語がとても役立ちました。
――日本からチリへは直行便がないので1日以上かかる遠い国ではありますが、魅力がいっぱいありますね。
佐野: 南北に細長い国なので、それぞれの地域で気候や地形も大きく変わり、赤道に近い世界一乾燥した砂漠から、楽園のようなビーチ、チリ富士と呼ばれる活火山のオソルノ山と湖、スキー場、大自然の島、モアイのあるイースター島など、たったひとつの国の中で幅広い経験を楽しめますね。
2019年と2020年にも再びコンサートツアーに招待していただいていたのですが、2019年は「チリ暴動」で公演中止、2020年はコロナで延期となってしまいました。2021年こそは!と熱いコールをいただいているので、実現するといいなあと願っています。
――ところで、リーマントラベラーを知ったキッカケは何でしたか?
佐野: 昨年の春先に新型コロナが蔓延し始めた頃、共通の友人が「リーマントラベラーの東松さんがYouTubeで新企画をやっていて、海外在住者を募集しているから、よかったら連絡を取ってみて」と教えてくれたのがきっかけでした。
東松さんを知って一番に感じたことは、とにかくバイタリティのすごさです。会社勤務のあと、毎週末海外旅行へ行くって、才能や旅が好きなだけでは、絶対できないことだと思います。東松さんのYouTubeを拝見して、新企画のひとつとして私自身もお話させていただいた(https://youtu.be/_2bb3JFkcDY)中で、東松さんの飽くなき好奇心、計画力、貪欲な向上心があってこそなんだなと、気がつくことができました。ちなみに自粛中に頑張られていた韓国語のレッスンや検定も、影ながら応援していました!素晴らしいですね!
――えー!そうなんですね。ちょっと恥ずかしいですが、うれしいです。ありがとうございます。リーマントラベラーを知って、旅のスタイルや普段の生活で変化したことはありますか?
佐野: コロナ渦の最中のご縁だったのでまだ実践はできていませんが、週末や休日など2日もあれば、経験豊富な東松さんのように充実した旅ができるんだ、というのが新鮮な発見でした。
そして、コロナ渦で海外・国内旅行に行かれない状況を、むしろバネにして好転させながら、クリエイティブに、前向きに、楽しみながら日々進化し続ける東松さんを、私も見習いたいです!
――海外に住まれるようになって変わったことはありますか?
佐野: 世界はまだまだ広がっていて知らない場所があり、さまざまな人がいて、多様性に満ち溢れているんだ、と身をもって経験できたことだと思います。多様性に触れることで、今まで考えもしなかった疑問が湧いたり、新鮮なアイデアを思いついたり、当たり前だったことを見直してみたり、自分の中の世界も広がっていきました。
また、私は日本で生まれ育ちましたが、子どもの頃から枠に収まることができない一面があり、そのことを不自由に感じて、欠点だと思っていました。しかし、世界のさまざまな地を訪れる機会に恵まれ、また海外で生活するうちに、周囲の多様性を自然と受け入れるようになり、結果として自分自身の違いも欠点ではないんだと分かり、心が解放されました。
――逆に、変わらなかったことは何ですか?
佐野: 私自身の、超が付くほどの楽天的な性格は、海外の荒波に揉まれてもなぜか全く変わりませんでした。もっと真面目な人間になれるのではないかと思っていたので、少し肩すかしだった反面、この性格に救われてきた面もあるので、これでよかったのかもしれませんね。
――佐野さんにとって、“旅”とは?
佐野: 旅の大半がキャリアに直結しているので、それぞれの旅が階段だと感じています。新天地はもちろんのこと、同じ地を再び訪れる場合は期待を越えていきたいです。自分自身への新たな挑戦を必ず設定しているので、それを達成できるよう、毎回全力で臨んでいます。
――次に行ってみたい旅先を教えてください。
佐野: 実は、日本国内は親戚のところや修学旅行以外、ほぼ旅をしたことがないのです。海外生活も10年を超え、私自身の生まれ育った日本について考えたり、日本文化を誇らしく思う機会が多くあります。もちろんコンサートでも訪れたいですが、ドレスもハイヒールも持たず、踊る心だけをおともに、もっと様々な日本国内の地を訪れてみたいです!
――最後に、これからの夢や目標はありますか?
佐野: クラシック音楽という伝統的で保守的なジャンルも、今回の新型コロナで、現代やテクノロジーとの融合が一層求められるようになりました。コンサートや演奏旅行が延期・中止となる中で、自分自身の挑戦として、昨年3月から毎週日曜にロンドンの自宅からライブ配信コンサートを始めました。マイクやカメラなど機材も本格的に用意し、日本やイギリスをはじめ世界各国から多くの方々にアクセスしていただき、あっという間に40回目を迎えました。まずは、丸一年になる2021年3月までの完走を目標に、今週日曜(日本時間22時、無料)に配信をがんばっています。まだまだ外出を自粛する日々が続いているので、気分転換に聞いていただけたらうれしいです。
佐野さんのYouTubeチャンネルはこちら
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