銀行預金の不正引き出し 気づく人と気づかない人の差は「銀行口座の数」!

“お心当たりのないお取引に関するご確認のお願い” ゆうちょ銀行のサイトに9月、決済サービス事業者を通じて銀行預金が不正に引き出されたことのお詫びが掲載されました。「万が一、不正に引き出された時、すぐに気づくか否かは、銀行口座の管理の方法次第です」と、悩める女性の相談に乗ってきたファイナンシャルプランナーの中村芳子さんは話します。銀行口座をどのように管理したらいいか、中村さんに話を聞きました。

不正引き出し、総額は約5000万円

最近、キャッシュレス決済を利用する人が増えてきました。クレジットカードはもちろん、交通系ICカードやペイペイなど様々な手段で決済が可能になり、便利になりました。その一方、先日の「ドコモ口座」で不正利用があったように、新手の金融犯罪が出てきています。ゆうちょ銀行では、これまでの不正引き出しが約5,000万円という報道もありました。ドコモ口座を作っていない人の預金からも不正引き出しがあり、みなさん心配されたと思います。このような事件が起きた時、すぐに不正に気づく人と気づかない人がいます。その差はどこにあるのでしょうか?それは、「所持している銀行口座の数」なんですね。ある女性の話を例に出して、説明していきたいと思います。

口座をたくさん持つリスクとは?

東京都在住の31歳自営業の遥さん(仮名)は、ゆうちょ銀行に口座がありますが、不正引き出しのニュースから2カ月経った今も、貯金の現状を把握していませんでした。

ゆうちょ銀行の他にいくつ銀行口座を持っているかを聞くと、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、中央労働金庫(ろうきん)、そして楽天銀行で計6個の口座を持っているとのこと。その中で、給与振り込みやクレジットカードの引き出しなどメインで使っているのは東京UFJ銀行。残りは、「家賃振り込み用に手数料がかからないように」などの理由で開設をしたと言います。

遥さんに、三菱UFJ以外の預貯金額を聞いたのですが、明確な返答はありませんでした。他の口座は、休眠状態になっていたんですね。

使ってない銀行口座は、「解約すべし」

使っていない口座で、無くても不自由しない場合は解約したほうがいい。その理由は、口座が増えれば増えるほど、管理のための労力がかかるし、管理ができなくなるからです。遥さんには、「使わない口座を持っていても、害はないのでは?」と質問されましたが、答えは「使わない口座は有害です!」。 

普段から残高を確認していない口座があると、今回のゆうちょ銀行の不正引き出しのように、被害にあった時にすぐに被害に気づかないリスクがあります。また、キャッシュカードを落としたり、盗まれたりしても気付かないこともありますよね。

口座の解約をためらう心理として、「解約手続きが面倒だから」、「いつもの銀行で預貯金が引き出せなくなった時のために複数の銀行に口座を持っておきたい」、また「旧姓(のカードや通帳)を残しておきたいから」という人にも会ったことがあります。

それぞれの事情がありますよね。でも、使っていない口座は解約する、が原則です。もし、使ってないけど持ち続けたいというときは、リスクを十分知った上で判断することをお勧めします。

銀行口座はメインとサブの二刀流がオススメ

銀行口座は、できるだけ少なく持つのが理想ですが、たったひとつというのも困ります。東日本大地震の時、システム障害である都市銀行の預貯金がATMで引き出せなくなりました。このような予想外のトラブルが生じた時に、ひとつの銀行の口座しか持っていないと、大変な思いをすることもあります。メインに使う銀行に加えて、1つか2つの銀行に口座を持っておくのが良いと思います。

そして、それぞれの銀行の口座の目的をはっきりさせましょう。たとえば、生活費の管理はメイン銀行、特定の目的の貯金や投資はサブ銀行という具合です。

遥さんにはこう提案しました。メインの銀行を三菱UFJにして、次にお話しするとおり、目的別に4つの口座を設定します。サブをゆうちょと楽天にする。残りの3つの銀行は口座は解約!こうすることで支出入が明確になり、お金の使い方が変わります。

また、自営業やフリーランスの人は、仕事のお金とプライベートのお金を分けるのが原則です。仕事専用の口座、キャッシュカード、クレジットカードを作って、個人のお金とは区別します。仕事の売り上げは仕事口座に入金されるように、仕事の経費は仕事口座から決済します。そして、自分で決めた給与を、毎月決まった日に決まった額、自分の個人口座(生活費口座)に入金します。これで、お金はぐんと管理しやすくなりますよ。

口座の数はいくつが適切?メインバンクの口座を目的別に使いこなす

では、メインバンクの口座を目的別に使う方法をお話ししましょう。これができると、生活費を楽々管理できて、お金が自動的に貯まり、投資もできます。
以下が「一つの銀行で4つの口座を使い分ける」テクニックです。
① 「生活口座」日々の生活費を管理する口座
② 「緊急口座」予想外の緊急の出費に備える口座
③ 「特別口座」特別支出用の取り分け口座
④ 「殖やす口座」積み立て、増やしていくための口座。

オンラインで残高確認などができるインターネットバンキングや、銀行口座と連動する家計簿アプリを使えば、全ての口座残高を一目でリアルタイムで把握できます。

先程の遥さんにはメインの三菱UFJ内で、
 を普通預金、
② を定期預金(スーパー定期)、
③ を貯蓄預金(スーパー貯蓄)、
 を自動つみたて定期預金+つみたてNISA、
にするのが良いと伝えました。詳細を説明していきますね。

4つの口座を使いこなすと、貯金を増やせる!

まず①の生活口座。給料の振込先、そしてクレジットカードや公共料金の引き落とし先をこの口座に集約します。給料が入金されたら、他の3つの口座へ決めた額を振り替えるように設定します。そうすると、普通預金を見ただけで生活費の流れを把握することができるようになります。

②の緊急口座で予想外の緊急の出費に備えておきます。病気やケガをはじめ予想外の出来事は人生につきもの。給料の1〜3カ月分をここに入れて、いざという時に備えておきましょう。

③の特別支出用の取り分け口座は、帰省費、スマートフォンやパソコンの買い替え、賃貸住宅の更新料、結婚式の祝儀など、1〜3年スパンで見ると、必ず必要になってくる費用のため。金額の目安は年収の10〜20%と考えておいてください。

④ は殖やしていく口座。値下がりのリスクのない「自動つみたて定期」とややリスクはあるけど値上がり益が狙える「つみたてNISA」の二本立てを勧めました。つみたてNISAは、運用益が非課税で、そのメリットは最長20年間続きます。殖やす口座で積み立てる金額は手取り収入の15%が目安です。

2020年も終わりに近づいてきましたね。今年中にやっておくリストに、この銀行口座の整理と、4つの口座の設定を加えてください。お金の流れがわかるようになると、自然と出費に気を使うようになるものです。自動つみたてが組み込まれているので、必ず貯金が増えます。貯金が増えると夢が膨らみます。
そして2021年は、長年してみたかったこと、手に入れたかったものを実現し、また夢に一歩近づいてください。

いま、働く女子がやっておくべきお金のこと

著者:中村芳子

出版社:青春出版社

ファイナンシャルプランナー。東京・下北沢のオフィスで多くの人のお金の相談にのり、人生の悩み解決のお手伝いをしている。早稲田大学商学部卒。メーカー勤務を経て1985年に独立系ファイナンシャルプランニング会社に転職、女性FP第1号に。91年に友人と「アルファアンドアソシエイツ」を設立。『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(ダイヤモンド社)『いま、働く女子がやっておくべきお金のこと』(青春出版社)など著書多数。
同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
働く女子のお金のトリセツ