嘘つきだらけの証言で二転三転ベルギー発ミステリー「運命の12人」は「人が人を裁けるのか?」を問う問題作【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 26
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全員が怪しい、偏っている
「運命の12人」はカンヌ国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。2019年12月からベルギーのテレビドラマとして放映され、絶大な人気を獲得し、2020年7月10日にNetflixがピックアップして全世界配信となった。傑作!
オリジナルの言語はフレミッシュ語(フラマン語)。
フリー・パルマースは、殺人の罪に問われている。
彼女は、自分の幼い娘を殺したと疑われている。
さらに、18年前、2000年ミレニアルパーティーの直後に、友人のブレヒテを殺したとも疑われている。
証言台に立つフリー・パルマースは、憔悴し、情緒不安定に見える。信頼のおける語り手には見えない。実際に、ストーカーまがいの嫌がらせをしている。
だが、ここからが問題なのだが、以降、証言する人物が、全員、信頼のおけない怪しい人物だらけなのだ。
フリーの元夫であるステファン・デ=ムンクは好色家だ。死んだブレヒテにも手を出している。
親権を不当に奪われたと嫌がらせをしてくる「イカれ女」は、ステファンとその新しい妻にとって邪魔者でしかない。ステファンたちがフリーを疑い、憎むのは当然かもしれない。フレヒデの殺人容疑も、この男の証言によるところが大きい。
いっぽうでブレヒテの父親マルクは、フリーを犯人だと思っていない。動物権利団体のメンバーである自分を恨んでいたヒー・ファネストが犯人だと確信している。
証言台に立つ全員が全員、怒りと憎しみで視野狭窄に陥り、偏った観方で世界を眺めている。それぞれの事情で、誰かを激しく憎しみ、犯人に仕立て上げようとしている。
それどころか、調べる側の女刑事のエリアン・パスクアルも信用がおけない。「あなたは娘を殺そうとした。必ず刑務所送りにしてやる」と予断たっぷりで捜査を続ける。
ブレヒテ殺害事件を担当していたドナルト・ファントム男刑事も信用がおけぬ。賄賂をもらって決め打ちの捜査だ。
法廷に関わる主要人物のほとんどが、嘘つきだと思ってもらっていい。
こうなると事件は、混迷を極める。
次々と、新しい証拠や証言が現れ、推理によって、事件がくつがえされる。
このあたり、どんでん返しが連続するミステリー的な興奮と「先の展開をいますぐ観たい!」と思わせる中毒性があるのだが、このドラマはそれだけで終わらない。
「人が人を裁けるのか?」という問い
12人の陪審員が、この物語の主軸である。
二転三転する事件と、陪審員の人生が重ねられる。
デルフィンは三人の子どもの母親だ。異常に嫉妬深い夫の暴力に苦しんでいる。
ノエルは、金に困っており、記者に情報をリークする。
アルノルトは、サル好きの孤独な男だ。
ユーリは、兄と会社経営している。不応労働者の問題で苦しむ。
陪審員長のホリーは、大きな秘密を抱えている。
カールは、娘とうまくいかず悩んでいる父親だ。
それぞれの人生が、じょじょに明らかになってくる。
まったく関係のない12人が、何度も会うことによって、新しい関係性が生まれる。
同時に、観る者に強く突きつけられるのは、「人が人を裁けるのか?」という問いだ。
不法労働者が何を言っているのかわからず「フラマン語を学ぶように言え」と言うシーン。
日本語で話しかけられるがスマホの翻訳機能の力不足でまったく会話が成り立たないシーン。
生活のなかですら、お互いに意志の疎通がままならない。
ベルギーは、多言語の国だ。オランダ語、フランス語、ドイツ語を話す人に分かれる。フラマン語圏、ワロン語圏と分けられることもある。首都ブリュッセルは、フランス語地区とオランダ語地区とが混在している。
近所の人に話しかけると、違う言語を話しているという状況があるのだ。
陪審員それぞれの人生が描かれ、彼/彼女たちのもつ多様な個性が分かってくることで、人は洞窟の狭い穴から世界の一部しか観察しえないことを思い知らされる。
事件で暴かれる事実の積み重ねが、彼/彼女たちの人生に影響を与え、それが真実を判定できなくする。
サスペンスミステリーと呼んでいいのか、ポリフォニックな人生ドラマと呼んでいいのか、いままでのドラマのジャンルを超えた不思議な作品だ。
全10話が一本の長い映画のように緻密に構成されている。
そのため第一話で、誰が誰やらーってなりそうな危険があるので、主要登場人物一覧をリスト化しておく(見分けができるよう外見の特徴をあれこれ書いてみた)。
【主要登場人物】
◆事件関係者
フリー・パルマース:被告、校長、女性。
ステファン・デ=ムンク:元夫。2000年のころは長髪。
マルゴー:ステファンの今の妻。「アイロン台」と言われる。
ローズ:フリーとステファンの幼い娘。死亡。
ブレヒテ・フォンデボーケル:フリーの親友、マルクの娘。黒髪。18年前に死亡。
マルク:ブレヒテの父、動物権利団体ビーストのメンバー。おでこ広し。
ヒー・ファネスト:男農民、マルクと対立。
スパーク:男弁護士、長い白ひげ。
エリアン・パスクアル:長い黒髪。女刑事
ヘドウィヒ:女検察官
ドナルト・ファントム:男刑事、スキンヘッド。
◆陪審員
デルフィン:3人の母。ショートヘア。夫のマイクに苦しめられている。
ノエル:無精ひげ。黒い服を着がち。黒人記者にリーク。
アルノルト:めがねぽっちゃりおじさん。セーター着がち。猿好き。
ホリー:陪審員長。金髪ロング。家を売ろうとしている若い女性。
ユーリ:兄と会社経営、不法労働者の問題を抱える。
カール:ジュリエットの父。やせ型の黒髪。
もうひとつ蛇足。
このドラマで驚いたことは(本来、驚くことではないのだが)、さまざまな職場で女性がしっかりと活躍していることだ。
学校の校長先生、検察官、裁判官、検視官、刑事が、女性だ。
裁判のシーンも、おおよそ半分ぐらいを女性で占めている。
さすが、首相が女性の国ベルギーである。
正直に言って、こんなに女性が自然に活躍している法廷シーンを、日本のドラマでは観たことがない。
「運命の12人」
監督:ウォーター・ボーヴェン
出演:マーイケ・ノイヴィル、シャーロット・デ・ブリュイヌ、トム・フェルメールほか
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