てんこ盛りバトル映画「ユーロビジョン歌合戦」ビールにスナック菓子用意して週末を楽しく【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 25
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- 前回はこちら:「ミスコン」をどう捉えるか。ぽっちゃり女子の挑戦を描く「ダンプリン」が示す第三の道
現在のアメリカンコメディ映画を代表する俳優・プロデューサーの1人、ウィル・フェレルの新作がNetflixに登場。サムネイル画像のビミョーな長髪姿を目にした瞬間、「これはバカそうだ……」と直感、すなわち傑作の匂い。見ないという選択肢はない。
実在の音楽コンテスト番組を舞台にした歌バトル映画
本作「ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~」は、ヨーロッパの実在する音楽コンテスト番組「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」に材を得た作品だ。この1956年から続く歴史ある音楽の祭典を舞台に、歌に踊りに恋の鞘当て、果てには爆破事件、殺人エルフまで飛び出す、てんこ盛りバトル映画の幕が切って落とされる。
物語はアイスランドから始まる。小さな漁村で生まれ育ち、歌手を夢見るラース(ウィル・フェレル)とシグリット(レイチェル・マクアダムス)は、彼らのバンド「ファイア・サーガ」でのユーロビジョン出演を目指し、お互い惹かれ合いながらも「音楽優先」という誓いを守り、練習の毎日を送っていた。だが、昔気質の漁師であるラースの父親(5代目ジェームズ・ボンドことピアース・ブロスナンが渋く格好いい)を始め、保守的な町の住人たちにその夢はまったく理解されず、「恥さらし」扱いという悲惨な状況にあった。
ユーロビジョンは、まず出演国内で予選が行われ、そこでの優勝者が国代表として大会に進出するというルール。この年も例外ではなかったが、圧倒的な才能を持つ歌手カティアナ(デミ・ロヴァート)の存在が抜きん出ていたため、アイスランドのテレビ局では「予選はやってもやらなくても彼女で決定だろ」な雰囲気である。とはいえ、建前としてはやらねばならない。そんな事情から、ファイア・サーガが頭数合わせのためテキトーに選ばれることに。
そんな裏事情は知らない2人は狂喜乱舞するが、予選は、空を飛ぶ演出で失敗したラースが落下するトラブルから惨めな結果に……。終了後の船上パーティーにも参加せず、悔し涙を流す彼と、慰めるシグリット。しかし、目の前でパーティー船が突如爆発。代表が決定していたカティアナどころか、アイスランドの才能ある歌手たちが全員死亡。ファイア・サーガがなし崩し的に本大会に出演する運びとなる。
「んなアホな」な成り行きから、大会開催国スコットランドはエジンバラへ乗り込んだ彼らを待っていたのは、ひしめく世界各国の強豪たち。恋のライバルの出現、アーティストとしてのすれ違い、親子の軋轢を乗り越えて、2人は大会優勝を果たせるのか?
ド派手なパフォーマンス、ダサ味わい深い楽曲
本作の見所は、まずはやはりユーロビジョンのド派手なステージだろう。登場する歌手たちの濃すぎるキャラと、ミュージカル顔負けの大仰極まりない演出・パフォーマンスに驚かされるが、これは別に映画用に大袈裟なことをやっているわけではなく、実際のステージもこんな感じなのである(YouTubeなどで検索すれば、過去の映像がたくさん上がっているので確認できる)。
しかも映画には、実際の過去のユーロビジョン出演者たちが大挙して登場。彼らがパーティーシーンで披露する、ひとつの曲を順番で歌い回していくパフォーマンス「ソングアロング」は、シェールの1998年の大ヒット曲「ビリーブ」という曲のチョイスも相まって、バカみたいに盛り上がる。ここで可視化される歌い手たちの個性は、本作の全体に透けて見える「多様性」というキーワードを体現した見せ場のひとつだ。
そして音楽繋がりで言えば、ファイア・サーガの楽曲は、90年代を席巻した(今の耳からするとダサい)ヒット曲の数々を想起させる曲調で、あの時代を知る人間には「あったあった、こういうの!」という感じで大変楽しい。もちろん北欧は北欧でも、カーディガンズとかクラウドベリー・ジャムのような、いわゆるスウェディッシュ・ポップ勢ではなく、エイス・オブ・ベイス、ミー・アンド・マイのようなテクノ・ポップ系の方である。このレビューを書くにあたり2回本作を見たが、その後しばらく……いや今でも、問題続きの主人公2人を体現したような曲「ダブル・トラブル」の、「ダーボ、ダボトゥナイ!」のフレーズが脳内ループして止まらない。ちなみに、実際にウィル・フェレルとレイチェル・マクアダムスが歌っていることがエンドクレジットで確認できる。
「バカ映画」で終わらない懐の深さ
実在の音楽コンテスト番組を舞台にしていることもそうだが、本作はフィクションながら、そこに巧みに「現実」が織り込まれていることも指摘しておきたい。
映画の冒頭で映し出される、サーガの2人が歌手を目指すきっかけとなるABBAのパフォーマンスは、1974年のユーロビジョンのもの。彼らが大ヒット曲「恋のウォータールー」で優勝する同大会の裏では、主催国だったはずのルクセンブルグが国の予算を超えているとの理由からコンテストの主催権を放棄(その年の主催は、前年の優勝国が担うことになる。開催地も同国となる)、イギリスのブライトンに開催地が変更になったという経緯があった。「ユーロビジョン歌合戦」には、アイスランドの中央銀行総裁が「(アイスランドが優勝すると)開催費用が膨らみ国が破産する懸念がある」と渋るくだりがあるが、それはその時に大会が直面した問題をトレースしていると思われる。
また、劇中でラースが「低脳アメリカ人」「お前ら最悪! アイスランドには来るな」など、やたらとアメリカ人観光客をディスるシーンがあるが、これも2008年にアメリカのサブプライムローンをきっかけに国家破綻しかかった、いわゆる「アイスランド危機」を背景とした描写。それを、アメリカ人俳優であるフェレルがやる自虐が痛快である。この「国」という視点は徹底されていて、エンドクレジットでは、メインキャストの名前の脇にはきっちり出身国の国旗が付されているなど芸が細かい。その他にも、ロシアでは現在「いない」こととされている性的マイノリティの問題など、社会的な問題にもさりげなく言及しているところにも注目だ。
基本的にはバカ映画だが、それだけでは終わらない懐の深さは、良質なコメディを量産し続けるフェレルの面目躍如といったところか。2時間3分は正直ちと長いかなとも思ったが、ビールにスナック菓子なぞ用意して見れば、これくらいたっぷりしてる方がむしろ良いのではないだろうか。週末のお供にぜひ。
「ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~」
出演:ウィル・フェレル、レイチェル・マクアダムス、ピアース・ブロスナン
監督:デヴィッド・ドブキン
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