徹底検証「IPPONグランプリ」バカリズム優勝の軌跡!松本人志が最後に叫んだ言葉に泣いた

先週6月13日に放送された、大喜利バラエティ番組『IPPONグランプリ』。初出場の若手3人も奮闘するものの、結果はベテラン、バカリズムが優勝した。新型コロナウイルス対策万全で開催された『IPPONグランプリ』を振り返ります。
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6月13日に放送された『IPPONグランプリ』(フジテレビ)。オープニングで松本人志は「こういうときだからこそIPPONグランプリはやるべきなんじゃないかと」と話す。

「考えてみたら、一番こういうときに支障がないのは大喜利なのではないかな」

「こういうとき」とはもちろん、コロナウイルス感染対策防止で思うようにコンテンツが作れない今のこと。その点、大喜利は「密」になりにくく、『IPPONグランプリ』のスタジオも出演者同士が離れて座っている。

だが念には念を入れた。回答席にソーシャルディスタンスをとり、その間には番組ロゴ入りのアクリル板。一般の観覧は入れず、ゲストを観覧席にまばらに配置。番組関係者には黒いマスクを配布し、オープニングVTRでは最後に「I P P O N」と文字間を広げたロゴが出た。

番組の世界観を壊さぬまま、ソーシャルディスタンス仕様で届けられた『IPPONグランプリ』。激闘を振り返ろう。

 

Aブロック:自分のコネを最大限に使うと?

Aブロックの出場者はバカリズム、アンガールズ田中、麒麟川島、アインシュタイン稲田、ハリウッドザコシショウ。いつもよりスカスカな客席に、「今日はさすがにスベるんじゃないですか」と不安をのぞかせるバカリズム。一方、スカスカな客席に慣れているザコシは「この感じ?いいんじゃないですかね?」と、ふわふわしながらコメント。

1問目「『ステイホーム』『ソーシャルディスタンス』のように『熟年離婚』を言い換えてください」では、常連組が苦戦。「アナザーステイ(川島)」「ファイナルファンタジー(田中)」のように既存のフレーズを活かすもなかなかハマらない。高速ボタン連打で最も回答権を奪ったザコシも、5回中3回も0点をたたき出してしまう。

そんななか単独トップに躍り出たのは、初登場のアインシュタイン稲田。「ミソスープバイバイ」「フォーエバーナラズ」など、英語のようで英語でない独特のフレーズを繰り出し、3本のIPPONを獲得した。

だが2問目「写真で一言ルーレット」を経て、3問目「パソコンの全ボタンを一斉に押したら何が起きますか?」あたりから徐々に常連組が巻き返す。最後の第5問「自分のコネを最大限に使うと何ができますか?」では、ザコシとバカリズムがそれぞれ4本ものIPPONを獲得した。

・ヒルナンデスの司会(バカリ)
・金スマに後ろで座っている人の寄せ書きサインがもらえる(バカリ)
・うんこ村ご招待(ザコシ)
・珍棒見放題(ザコシ)

南原清隆(同じマセキ芸能社の先輩)が司会を務めるヒルナンデス!を挙げるなど、バカリズムが「業界内でなんとかなりそうなコネ」でIPPONを獲得するのに対し、ザコシは自分の世界観を貫いてゴリゴリ押してくる。終わってみればこの2人が9本で同点に。

サドンデスは先にIPPONを取ったほうの勝ち。毎回サドンデスに苦しめられるバカリズム(過去3勝10敗)は「心は静かです」と達観の表情。お題は「ホップ!ステップ!ジャンプ!もう一声お願いします」。ザコシはお題が読まれている最中にペンを走らせ、読み終わったと同時にボタンを押した!

勢いある一言で落とすことが得意なザコシには有利なお題。高まる周囲の期待がハードルを上げたのか、「ウェッヘー!」と出すも、その勢いは点数に響かない。続いて、落ち着いて答えを書いたバカリズムが出したのは「ホップ!ステップ!ジャンプ!、のコーナー!!!」。視点をズラし、見事IPPONに!

バカリズムがサドンデスで勝ったのは、前回優勝した2018年3月以来2年ぶり。勝った瞬間に顔をくしゃくしゃにし、「やっと勝った……」と涙目になるバカリズム。序盤に思うようにIPPONが出ず、稲田やザコシのような濃厚なキャラに押されながら、なんとかつかみ取った勝利だった。

 

Bブロック:人柄がにじむ駒場、フリースタイルの大悟

Bブロックの出場者は千原ジュニア、四千頭身後藤、千鳥大悟、ミルクボーイ駒場、ロバート秋山。
角刈りの内海の印象が強いミルクボーイだが、ネタは2人で作っている。開始前のトークで「どちらも強いです、僕たち」という力強い言葉をうっかり残し、自らうろたえてしまう駒場。

しかしBブロックで最初のIPPONを獲得したのが、その駒場だった。1問目「韓国料理っぽく怒ってください」に、先陣を切って「チャンジャお前は」を出してIPPON。この答えで「韓国料理っぽいフレーズ」ではなく「韓国料理を使ったダジャレ」の道筋ができ、「やってないってユッケジャン!(大悟)」「先生がしゃべり出すまでスンデュブ半かかりました(ジュニア)」「縮め!(秋山)」とIPPONが立て続けに飛び出す。

3問目「最初の語りだしを聞いて『この怪談、完全に作り話だな』どんなの?」では、後藤が「まだ途中までしかできてないんですけど……」「ゆってぃ、このまえ~」で追い上げる。大悟は焦点の合わない目と半開きの口で「?」と出し、表情だけでIPPONを取ってしまった。自由にもほどがある。

4問目を終えてジュニアが9本で単独トップ。最終問題の第5問「わざわざ耳打ちすな!何と言われた?」では、駒場が追い上げる。

・あの人昔の長渕さんに似てる
・見てみて、クマみたいな犬
・最近アリ見かける?
・カタログギフトいつも鍋たのむねん。結局使うやろ?

生活感と人柄がにじみ出る優しい答え。一方、大悟はフリースタイルが止まらない。

・ここのイカ、めちゃくちゃうまいんやけど、最初な、刺身で食べるんやけどな、刺身食べ終わったあとに、店員が、ゲソの部分は、イカの足のところを塩焼きにしますか天ぷらにしますかって言ってくるんやけど、絶対に、天ぷら
・嫌いなタレント?おー……今はパッと思いつかないけど、別にいないわけじゃないんだけど、誰だろなでもごめん今は、あんま、今はちょっと思いつかない。うん。

フリップには「天ぷら」と「うん」しか書いてない。あまりにモノローグが長すぎて、カメラが徐々に大悟をアップにし始めるほど。2つの答えで制限時間を思いっきり消費し、終わってみればジュニア、大悟、秋山が10本で並んでいた。3人でサドンデスだ。

サドンデスのお題は「返ってきた国語のテストが102点でした。この2点何があった?」。「敬具で締めた」と答案に一言を添えるジュニア、「ホントごめんね、何かよかったの」と女性教師目線の大悟、「答案を出すときに、いつもありがとうございますと、季節のフルーツを一切れ出した」と賄賂を匂わせる秋山と、その答えは三者三様。

結局勝負は付かず、サドンデスは2問目「どスケベのように「ど」を付けてパワーアップさせてください」。このお題に審査員席のバカリズムは「たくさん答えて面白くなるタイプのお題」という印象を漏らす。このお題。どんな言葉にも「ど」を付ければ答えにはなる。だが、サドンデスなので一撃で仕留めないといけない。

先ほどとは変わり、慎重に言葉を選ぶ3人。最初にボタンを押したのは秋山。「ど母」という力強い、それでいて語呂の悪い言葉で見事IPPON! 「ビビってしまった」と話すジュニアが用意していたのは「ど・アルフィー」。大悟は「たぶん間違いなんだけど」と「どスケベどぅ?」と出し、麒麟川島に「間違いです」と断定されていた。

 

決勝戦:「めんたい大喜利」「とんこつ大喜利」の行方

決勝戦はバカリズムvsロバート秋山。バカリズムは8回目、秋山は5回目の決勝進出だが、この2人が対決するのは初めてのこと。お互い福岡出身なので「めんたい大喜利ですね」「俺はとんこつ大喜利のほうが」と言い合うも、ナレーションでは「博多どんたくマッチを制するのは、どっちだ」と処理されてしまう。

決勝は3本先取すれば優勝。1問目は「『お前の“へのへのもへじ”、なんか変だぞ』どんなの?」。絵回答が期待されるバカリズム向きのお題。このチャンスを逃さず、バカリズムは「お」「の」「の」「の」「か」で顔を描き、一発目でIPPON! 秋山に出番を与えない。

続く2問目は「動画でアフレコ」。独特の動きで怒りを伝えるマダムの動画に声をあてる。こちらは秋山向きのお題で、焼きそば屋のマダムを演じてIPPONに。リードを跳ね返す。

3問目「不倫相手とのLINEを奥さんに誤爆しました。リカバリーLINEを送ってください」と、芸人にはいささかタイムリーな内容。画面には「さっきは久しぶりに燃えたね」「それで次、いつ会えるの?」と誤爆する夫と、「はぁ?何のこと?」と返す妻のLINEが映っている。

・あ、ごめん、ZARDの未発表の曲のこと(秋山)
・問1)上の文章を丁寧語に直しなさい(バカリ)

会話に向き合う秋山と、はぐらかすバカリズム。アプローチの異なる答えを出す2人だったが、爆発につながらない。続く秋山は「そりゃそう返すよな。正常だよ。コレアメリカの心理のやつ」と答え、IPPONに。LINEの文面を意識してか、キャラを入れず抑えめのトーンで答えていたのが印象的だった。

これで秋山が2勝して王手。しかし4問目「8秒に1回。何の回数?」ではバカリズムが「中村アンが髪をかき上げる回数」で取り返し、イーブンに。勝負は最終問題までもつれ込んだ。その5問目。

「検便をエレガントな名前に変更してください」

雌雄を決する場面で「便」って……と、バカリズムに笑みが漏れる。先に押したのは秋山。とびきり良い発音で「Ken&Ben Newyork」と答える。そういえば6年前に優勝したときも、最後は「キスの天ぷらのキスの発音がKiss」と英語の回答だった。しかし今回はIPPONまで届かない。

続いてボタンを押したバカリズム。フリップ中央に控えめに書かれたのは「クソワッサン」。シンプルな答えが審査員を打ち抜き、見事IPPON! 稲田、ザコシ、秋山と濃厚なキャラと死闘を繰り広げたバカリズムが、2年ぶり5度目の優勝に輝いた。

最後は松本チェアマンからトロフィーの授与……なのだが、ソーシャルディスタンスを保ったままトロフィーを渡すことはできず、一旦床に置いてバカリズムに取ってもらう。松本チェアマンはまばらに座る観覧ゲストを「南青山の美容院ですか」といじり、ツッコんでくる秋山を「ディスタンス」と言って遠ざける。

恒例の最後の一言を求められて、松本が叫んだ言葉は「だっふんだ!」だった。

長い自粛期間を経て、ようやく再開の兆しを見せたお笑いの現場。そのギャグは弔いの言葉として、そして、新たなに続くお笑いへの号砲として響いたのだった。

 

「IPPONグランプリ」(フジテレビ)
2020年6月13日21:00~
大会チェアマン:松本人志
出場者:秋山竜次(ロバート)、稲田直樹(アインシュタイン)、川島明(麒麟)、後藤拓実(四千頭身)、駒場孝(ミルクボーイ)、大悟(千鳥)、田中卓志(アンガールズ)、千原ジュニア(千原兄弟)、バカリズム、ハリウッドザコシショウ
観覧ゲスト:青山テルマ、尾上右近、Creepy Nuts(DJ松永、R-指定)、JO1(川西拓実、白岩瑠姫、鶴房汐恩)、Chuning Candy
https://www.fujitv.co.jp/ippon/

1975年宮城県生まれ。ライター。Web媒体でテレビ番組レビューや体験レポートなど執筆するほか、元SEの経歴を活かしコーポレートサイトや企業広報も担当。また「路線図マニア」としてイベント登壇やメディア出演も。共著書に『たのしい路線図』『日本の路線図』。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。