無観客「R-1ぐらんぷり2020」野田クリスタル優勝までを徹底検証
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「えみちゃん、ありがとう~!」
ひとり芸日本一を決める『R-1ぐらんぷり2020』(3月8日放送フジテレビ系列)。18代目王者となった野田クリスタル(マヂカルラブリー)は、スタジオにいない上沼恵美子に向けて雄叫びをあげた。
いや、いないのは上沼恵美子だけではない。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、観客が誰もいないのだ。史上初の“無観客大会”となった今回を振り返る。
Aブロック:「ゲーム実況」をゼロから作る男
Aブロックの出場者はメルヘン須長、守谷日和、SAKURAI、野田クリスタル。メルヘン須長が「科捜研の女」になりきって「事件だわ」と登場し、守谷日和が取調室で落語を披露するという、図らずも事件つながりの流れで幕を開ける。
スタジオには観客がいないため、笑い声は審査員とスタッフのものだけ。さぞや芸人としてはやりづらいのでは……と心配してしまうが、番組開始前にメルヘン須長は「今日私が出演したライブはお客様3名」「私にとっては日常ですよ!」とツイートしていた。誰もが売れない時代を経験している。観客が少ないなかで戦うハートは鍛えられているのだ。
最後に登場した野田クリスタルは、「太ももが鉄のように硬い男 てつじ」を操る理不尽なゲームに翻弄されるネタ。ゲーム実況の面白さを「ゲーム自体を自作する」という荒技で、ピンネタに昇華してしまった。ゲームの内容だけでなく「課金画面に戻るボタンがない」というボケまで入れ込む凝りよう。視聴者投票でも1位になり、Aブロックを突破する。
Bブロック:「乳首隠せない男」の功績
Bブロックの出場者はルシファー吉岡、ななまがり森下、パーパーほしのディスコ、すゑひろがりず南條。
ルシファー吉岡が女子との間接キスに高まるおじさんを演じ、去年の観客なら悲鳴が起きただろうな……と思っていたら、次のななまがり森下は上半身裸での「乳首が隠せない男」。あまりのくだらなさに、審査員の陣内智則は「無観客でよかったわ!」とツッコんでいたが、エンディングでは「スタッフを盛り上げて一体感を作ってくれた」と評していた。まさか森下の乳首が、客席を盛り上げる「前説」の役割を果たしていたとは。
Bブロックの審査結果は、ななまがり森下、パーパーほしのディスコ、すゑひろがりず南條の3人が9票で横一線に並んだ。ここで発動したのが「同点の場合は視聴者投票が多い人が勝ち」というルール。すゑひろがりず南條がTwitter投票とdボタン投票がともに1位だったため、Bブロックの通過が決まった。
ちなみに最も審査員の票を集めていたのは、何を隠そうななまがり森下である。視聴者投票がない昨年のルールだったら、ファイナルステージでまた乳首を隠そうとしたかもしれない。
Cブロック:敗者復活からの大逆転!
Cブロックの出場者はヒューマン中村、おいでやす小田、ワタリ119。そして復活ステージから大谷健太が加わった。
5年ぶりに決勝進出したヒューマン中村が妖精に叫び、5年連続決勝進出のおいでやす小田がラ行を叫んだあと、初出場のワタリ119が「レスキュー!」を叫ぶ。ワタリ119は「3分間で119枚のフリップをめくる」と豪語し、残り106秒まで待ってから一気にフリップをめくるハイテンション芸。高速でめくったフリップは、誰もいない客席にまで飛んでいった。怪我人が出なくてよかった(それはそれでレスキューしたかもしれない)
Cブロック1位になったのは、敗者復活した大谷健太。高速フリップのワタリ119に対し、めくった後じっくりと間を取って早口言葉を繰り出す。後半にこれまでフリップに出たキャラが再度登場する仕掛けも効いていた。視聴者投票では2位だったが審査員票で逆転。「もう1本見たい」と思わせるネタだった。
ファイナルステージ:不確実なゲームを操る「真剣味」
ファイナル進出は野田クリスタル。すゑひろがりず南條。大谷健太。3人とも、ネタには欠かせない小道具がある。大谷はフリップ、南條は鼓、そして野田は自作のゲーム。このうち、野田のゲームは小道具にするには「不確実性」がとても高い。
放送後に生配信された「R-1打ち上げ~芸人丸ごとお疲れ様会~」によると、野田は舞台上でリアルタイムにゲームを操作していたという。つまり、予定していたプレイができないとネタが成立しない。事実、1本目では操作をミスした場面があったそうだ(「てつじ」を画面外に移動させて弾をやり過ごすつもりが、その手前で弾に当たってしまった)
自作のゲームだから、どこにバグがあるかわからない。準決勝では機材トラブルでモニタが映らなかったりした。2本目の「モンモンするぜ!!ストッキング姉さん」では、ギリギリでビームを避けたり、最後の一撃がなかなか当たらなかったりしている。確実に決められるかわからないからこそ、実況は真剣味を帯び、魂の叫びとなって笑いを巻き起こす。
さらに「無観客」も味方したように思う。野田クリスタルは1本目2本目とも、視聴者投票で1位を獲得している。テレビを通じてネタを見ると、本当にゲーム実況を見ているかのようなのだ。客席から大きな歓声や悲鳴が入ったら、この雰囲気を保てたかどうか。
無観客を追い風にし、異色な大会の異色なチャンピオンとなった野田クリスタル。ゲーム開発者として露出するきっかけになった「勇者ああああ」(テレ東)への凱旋も楽しみです!