バスケットボール大崎佑圭さん 東京五輪をめざし異例の産後復帰も 揺らぐオリンピックへの思い【前編】

バスケットボール選手の大崎佑圭さん(30)。2018年に長女を出産後、東京五輪のために、日本の女子バスケットボール界では異例とされる産後復帰を果たしました。五輪の1年延期をどう受け止めているのでしょうか。お話を伺いました。

復帰するつもりはなかった

――日本の女子バスケットボール界では、産後復帰はめずらしいそうですね。

大崎佑圭さん(以下、大崎): 異例だからこそチャレンジしたいと思いました。勇気が必要でしたが、自分が動くことで次の世代にも道をひらくことになるし、パワーを与えられるかもしれない。それに、挑戦せずに東京五輪という大舞台を逃すわけにはいかないと思ったんです。

――2018年末に出産され、2年半後に日本代表に復帰されました。

大崎: もともとは、Wリーグ10連勝、アジアカップ3連覇、リオ五輪出場という全ての目標を達成し、バスケットは満足していたんです。次の道に進むべく、チームを辞めて家庭に集中しようと思っていました。

しかし、出産を経て少し気持ちに余裕が出てきたころ、「東京五輪のチケットを申し込んだ」「この競技を観たい」など、オリンピック関連の会話を周りでも耳にするようになってきたんです。当時は選手なのか、引退しているのかわからない宙ぶらりんな状態。でも、「私のバスケット人生の集大成として、東京五輪という大舞台で試合をしたい…!」と次第に気持ちが膨らんできたんです。幸いなことに夫も応援してくれたので、「オリンピックまでの期間限定ならチャレンジできるのでは」と思ったんです。

――競技は違いますが、バレーボールの荒木絵里香さんや、柔道の松本薫さんも産後復帰されています。影響は受けましたか?

大崎: 直接、相談することはなかったです。お二人は産後復帰を見込んでの出産だったので、そこが私とは大きく違うところですね。あらかじめ準備や協力体制も整えて出産に臨まれたと思うので、すごいなと感じます。

子育てや家事と練習の両立「意外と楽しい」

――復帰していかがでしたか。

大崎: もちろん不安もありました。自分がコートから離れている約2年半で選手も成長しているし、合宿に参加してもあまりにハードで倒れてしまうかもしれない。そもそも自分がいたポジションはもう空いていないですし。覚悟の上でトライアルから頑張ることにしました。

しかし、いざ復帰してみたら若手の選手も成長しているものの、(日本代表の)トム監督が求めるレベルには到達していない。これならトム監督と長い時間を共有し、お互いの理解もできている私ならいけそうだなと思いました。

――練習をしながら子育てや家事をこなす生活はいかがでしたか。

大崎: それが意外と生活にメリハリがついて楽しかったんですよ。夫は仕事が多忙なので、家事や育児は私が概ね引き受けています。それでも「一人で大変!」という感じでもなく、わりとのんびりやってきたつもりです。復帰して練習することで、逆にリフレッシュ出来る時間ができた。その点は良かったですね。

たとえばジムに行く日は、朝一番で自分の準備をし、娘を起こしてご飯を食べさせる。朝10時には近所の一時保育に預けてから私一人の時間。ジムでトレーニングに集中して、15時くらいに娘を迎えに行き、買い物をして家事に戻る――。とても良い流れで回っていました。

ただ、東京医療保健大学のバスケット部と一緒に練習をする日は、大学生の部活の時間に合わせたタイムスケジュールになる。午前中か、夕方から21時くらいまでが練習。冬の朝早い場合は娘に温かい恰好をさせて、抱えながら練習に向かっていましたね。

東京オリンピックの魅力が揺らぐ

――東京五輪が1年、延期になりました。

大崎: 元々五輪までの期間限定だからこそのチャレンジでした。それが1年延期、しかも確実に開催されるのかどうかも見通せないとなると。
これから1年、体の状態を保たないといけません。それに子どもや家族にも犠牲を強いる部分が出てくるかもしれない。一時保育に預けることも期間限定だからこそ、多くの出費を厭わなかったわけで…。
たった1年だけど、されど1年。ゴールも見えない中で、走り続けるのは精神的にもきついです。
20代前半だったら延期をポジティブに捉えていたかもしれませんが、産後復帰の私にとっては東京五輪の魅力が低下しつつあります。

現在はチームに所属していませんが、どこかに入団した方が高いレベルを保てるかもしれません。しかし長期遠征になると、夫の香川の実家に子どもを預けたりなど、今以上に周りに負担をかけてしまいそう。しかも東京五輪のみを目標にしている私と、長期的な戦略を持って編成しているチームとでは方向性が違ってきますしね。

それに言われているように仮に無観客での試合となるなら、私が望んだ最後の舞台ではありません。

――無観客試合と通常の試合とでは?

大崎: 全然違いますね!私たちは応援してくださるファンのためにプレーしているところもある。無観客なら練習試合と何が違うの?と感じてしまいそうです。観客の迫力や熱量を直に感じると、とても励みになるんです。

観客席にポツポツと人がいる試合より、「今日は立ち見が出ている!」という日の方が、興奮するしテンションも上がる。たとえ、海外でのアウェイ感満載のヤジだらけの試合であっても、観客と同じ空間にいる一体感があって心地良いくらいです。そう考えると無観客試合は、私が求めているものではないと思うんですよね。

●大崎佑圭(おおさき ゆか)さんプロフィール
1990年4月東京都生まれ。ポジションはセンター。東京成徳大学高卒業後、2000年にJOMO(現ENEOS)に入団した。日本代表としては2013、2015、2017年のアジア選手権で優勝。2016年にはリオ五輪で8強入り。2017年に結婚し、2018年末に長女出産。2020年に代表復帰を果たした。

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。
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