陸上・新谷仁美 メンタルの弱さも武器?!「やりたいことがあっても動かない人は成長が止まる」【後編】

「走ることが嫌い」と公言する1万メートルなどで東京オリンピック出場をめざす新谷仁美さん(32)。25歳で一度現役を引退。会社員を経験して約5年後の30歳に復帰し、再び第一線のアスリートとして活躍しています。後編では、武器にしているというメンタルの弱さや東京オリンピックに臨む姿勢などについて聞きました。

メンタルは弱いままで大丈夫

――1月のヒューストンでのハーフマラソンでは日本新記録。2月には5000mの東京五輪参加標準記録も突破しました。内定確定の直前で五輪の延期は、どう感じましたか?

新谷仁美さん(以下、新谷): たいして何も思っていないです。私は大会自体があまり好きではないので個人的にはラッキーと感じるくらい。オリンピックや世界陸上も特別だと思っていませんしね。私の仕事はスポンサーや所属するチームが求める結果を出すこと。タイムを出すことも重要ですが、一位以外は意味がない。そこはしっかりめざさないといけないですね。

――自粛期間は、どのように過ごしましたか。

新谷: 4月から5月中旬あたりまでは家に引きこもって筋力トレーニングをする程度で、5月中旬以降から走ることを再開しました。
走ることが嫌いなのは変わりませんが、私の仕事は走らずに給料をもらえるわけではありません。唯一、私が褒められるであろう体が動かないとなれば、だらしなくなってしまい、鏡を見たときに自分自身がガッカリしたくないという理由もあって。

――自宅には愛犬の小太郎くんと、愛猫・の武蔵くんもいるそうですね。

新谷: そうなんです!12月から2月までは遠征や大会が多く、ペットホテルに預けて離れ離れ。自粛期間中は彼らと一緒にいられて嬉しかったです。 

――メンタルが弱く、走る際は緊張するとお話しされてるようですが。

新谷: メンタルは弱いままで大丈夫なんです。一方、スタートラインは恐怖でしかなくて、逃げることばかり考えている。悪さでもして、「お前は棄権だ」って言われるのを待ち望んでいる所もあります。でも私から棄権すると怒られるので、審判員から失格を告げられることを考えつつ、なんとかして戦おうと奮い立たせている。その状態から逃れる術を知らないので、選択肢が、戦うことしかないんです。だからメンタルを強化する必要はないと思ってます。
メンタルは弱い方がモテるって聞きますし・・・。それを武器にして、メンタル弱い女子として頑張ります(笑)

生活を見直すことが夢への1歩

――30歳前後の女性の中には「やりたいことが、わからない」という人がたくさんいます。新谷さんは、いかがですか。

新谷: 私、今も夢はないですし、目標もない。やりたい職業に就いている人って限られた人だけのような気もします。いまだに自分探しじゃないですが、陸上を辞めた後、することは決まっていません。家を買って住む場所だけは安心したいという目標はありますけどね。夢って大きい夢がすごそうに思われがちですが、それだと少し生きにくい気がするんですよね。

些細なことでも全然いい。たとえば生活リズムを見直すのも夢だと思うんです。うまく仕事や流れに乗れていない人は、リズムを見直すことを夢、にしてみたらいいのではないでしょうか。

――朝起きる時間や、ルーティンも決まっていますか?

新谷: 朝練としてジョギングをすることから一日がスタートします。それで朝から活動的になれるんです。それに決めた時間に走らないと、その後のスケジュールが大きく崩れてしまう。たとえばお昼御飯がずれて14時になって・・・。

――やりたいことがあるのに、なんとなく現状に流されて踏み出せない人もいますよね。

新谷: たぶんその人にとって「今の現状を変えなくても、下に落ちることはないだろう」という安心感があるんでしょうね。本当に強い気持ちがあれば動くと思いますが、そうでなければ居心地の良さに浸って、一歩が踏み出せないこともあるでしょうしね。無責任かもしれませんが、自分のやりたいことがあったら、踏み出した方が人としての成長には繋がるとは思います。これまでの陸上の経験からは、そう言えますね。

 

■新谷仁美(にいや ひとみ)さんのプロフィール
1988年2月岡山県生まれ。積水化学所属。興譲館高校を卒業後、豊田自動織機女子陸上部に入部。2012年のロンドン五輪1万メートルで日本人最高の9位。13年のモスクワ世界陸上では1万メートルで自己ベストをマークし、5位入賞。14年1月に引退したが、18年にNIKE TOKYO TCに加入。約5年のブランクを経て競技に復帰した。東京五輪参加標準記録は5000メートルと1万メートルで突破している。現在は積水化学に所属。

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。
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