○歳のわたしへ

キャリアと出産、どちらを選ぶべき?人気カリグラファー島野真希さんが自分自身に問いかけた「働くこと」の意味

書道家・カリグラファー 島野真希さん(37歳) 「仕事辞めたいな」「結婚どうしよう?」「将来大丈夫?」……30歳を過ぎると、数々の難問に答えを求められます。私たちはあといくつ大人になれば、これらを軽々と乗り越えられるようになるのでしょうか? 今回は、モダンカリグラフィーの先駆者として活躍する島野真希さんにお話を聞きました。大学進学を機に、1度は書の道から離れた島野さん。ところが、結婚・出産を機に「書く」ことについて再び考えるようになったのだそう。島野さんにとって、仕事や家庭はどのようなものなのでしょうか。島野さんに訪れたターニングポイントをうかがいました。

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ママチャリとヒッチハイクで日本縦断。旅で知った多様な価値観

●22歳のわたしへ

大学4年のとき、「今しかできないことをやりたい」と思い立ち、親友と2人で日本縦断の旅に出ました。10月1日に東京を出発し北海道の宗谷岬に向かい、そこからスタートして2か月半で沖縄最南端の岬まで全都道府県を巡りました。「たくさんの人の人生を見たい」というテーマを掲げて、交通手段はママチャリとヒッチハイクだけ。旅のさなかに出会ったいろいろな人とコミュニケーションを取り、「なぜその職業に就いたのか」という話を聞きながら旅をしていました。

屋久杉を眺める、22歳の頃の島野さんと親友

私が内定をもらっていたのは、当時ベンチャー企業だったPlan・Do・See。魅力とやりがいを感じて入社を決めたのですが、一般的に見るとまだまだ知名度は低い。その頃の私は「大企業に入るだけで勝ち組」という概念に疑問を感じていました。目的がなくても、いい大学、いい企業に入るだけで評価されるのはどうなんだろうと。その疑問を解決してくれるかのように、旅を通して多様な価値観を知り、それを受け入れられるようになりました。

旅で出会った人たちにお気に入りの言葉を書いてもらったノート

この旅で、なんと600人以上の人に会いました。出会った人全員に「1番のお気に入りの言葉」をノートに書いてもらいました。その人の生き様や大事にしているものが記されていて、今でもたまに読み返します。たくさんの方に助けていただいて、食事をごちそうになったり、お風呂を借りたり、洗濯してもらったり……一時的に家族になる、そんな感じの旅でした。社会的な見え方だけで人の価値は測れない、ということを学びました。

たくさんのきっかけが「書で独立しよう」と後押ししてくれた

●28歳のわたしへ

「書をきちんと勉強して、この道で独立するのもありなんじゃないかな?」そう思い始めたのがこの頃。26歳で、結婚・出産を機に退職したきっかけは、夫から「会社ではなく、自分のために働けるような仕事をしてほしい」と言われたことでした。この言葉が響いて、そこから2年間は専業主婦をやりながら自分が興味を持てることを探していました。

その間、前職の社長が定期的に文字を書く仕事を依頼してくれました。育児の気分転換にもなり、書く楽しさを思い出していたところ、前職でも付き合いのあったアートディレクターのジョー・マスザワさんからモダンカリグラフィーのことを教えてもらいました。欧米を中心に流行り始めていて、日本国内ではまだ書ける人がいない。「よかったらやってみたらどう?」と声をかけていただいて。書くことにつながるきっかけが立て続けに起きました。

28歳の頃の島野さん。お子さんの誕生日に撮った1枚

日本縦断の旅をした親友の存在も大きかったです。彼女が24歳のときにがんを患って、8か月の闘病生活を送りました。その経験をきっかけに、「がん患者のための団体を立ち上げたい」と相談を受けました。「(書を教えることで)少しの間でも病気のことを忘れられる時間を過ごしてもらいたい」、「立ち上げるのに協力してほしい」と言われたことも、独立を後押ししてくれました。

「書く」ということをこれだけ求められるのであれば、それに応えたい。親友や前職の知人など、身近なところからどんどん仕事が広がっていきました。

今こそ、働く意味を自分に問いかけてみる

●telling, 世代のあなたへ

31歳のころは、ちょうどモダンカリグラフィーの依頼が多くなってきた頃。仕事の幅が広がっていくのを自分でも体感していました。取材を受けたり、作品が雑誌に掲載されたり……そのまま突っ走りたいという気持ちの一方で、3人目の子どもをどのタイミングで出産するか悩んでいた時期です。

最終的に、私は出産を優先することに。極端な話、仕事はいつでもできると思ったのです。あと数年したら、上の子たちが小学生になる。親としてひと段落できるタイミングだよ、と先輩ママから聞いていました。そうなると「もう1人ほしい」と思っていた気持ちを忘れてしまうだろうなと感じていました。

実際「波に乗っている時期に、キャリアが中断されてしまうのはもったいない。今からというときなのに」と何人からか言われました。でも、振り返ってみると出産を挟んだことが自分のキャリアのマイナスには全くなりませんでした。お客様には「こちらの事情にある程度合わせていただけるのであれば受けます」と伝え、オーダーをストップせずに、3人目を出産。生まれて3週間後には、仕事にも復帰しました。

昨年上梓した島野さんの本。コロナの影響でおうち時間が増えた今、文字を書く人が増えているという

30歳前後の迷いが多い時期は、「お金を稼ぐ以外の働く意味を自分に問いかけてみることが必要だと思います。結婚しないことを選択する人もいるだろうし、子どもや家族を優先させたい人もいるでしょう。私にとっての理想としているのは、「母親・妻・島野真希」という3つ役割のバランスがとれていること。母親業が忙しくなると仕事が癒しになることもあるし、仕事が忙しいときは子どもとの時間を求めたりする。この3つのバランスを保ち、幸せを感じることが私が働く意味だと思っています。

■島野真希さんのプロフィール
習いごとの一つとして幼い頃から書道を始め、その世界に魅了され、ブライダル業界でウェディングプランナーとして在籍しながら筆を持つ仕事にも携わる。結婚・出産を機に退職後、本格的に書道家として始動。時を同じくしてモダンカリグラフィーの世界を知る。まだ日本に先駆者がいないかったため、海外のカリグラファーから手ほどきを受け、独学で学ぶ。洗練されたウェディングアイテムや和と洋を組み合わせた独自の世界観に定評がある。

「筆ペンではじめるモダンカリグラフィー」

著者:島野真希

発行:世界文化社
価格:1,320円(税込)

フリーランス。メインの仕事は、ライター&広告ディレクション。ひとり旅とラジオとお笑いが好き。元・観光広告代理店の営業。宮城県出身、東京都在住。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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