「レスリングやめたい」と言えなかった少女は日本代表に 川井友香子さんが描く五輪への道【川井姉妹・中編】
休み時間は音楽教室へ
――父・孝人さんが学生王者、母・初江さんは世界選手権の代表だったというレスリング一家です。友香子さんがレスリングを始めたのも、自然な流れだったのでしょうか。
川井友香子さん(以下、友香子): 我が家では姉の梨紗子と一つ下の妹が先にレスリングを始めていました。
私が始めたのは小学校2年生のときです。
姉と妹はお母さんがコーチの教室に通っていて、試合になると、お母さんはどうしても姉や妹、他の選手を優先して動くことになっちゃう。それが嫌で始めることにしたんです。
――始めてみて、どうでしたか。
友香子: 私はそこまで真剣にやっていませんでした。姉が大会で良い成績を収めるのを見ていましたが、「すごいな」とは思うものの、それほど特別な感情は持っていませんでした。他にやりたい習い事があったからです。ピアノとか、体を動かさないものをしたかった。
実際にはピアノを習うことはなく、休み時間に、友だちと学校の音楽教室に弾きに行くくらいでした。
当時は、今のようにはちゃんとレスリングをやっていなかったように思います。自分の中では一生懸命やっていたつもりですが、どこかでやめたいという気持ちもあって・・・。
――高校はレスリングの強豪、愛知県の至学館高校に進みます。
友香子: 中学3年生のとき、進路希望調査がありました。親に「レスリングをやめたい」と言い出しづらくて。それで、「姉の梨紗子も進学しているし」と、なんとなく至学館への進学と用紙に書いてしまった。
――至学館高校では、1年生のときにクリッパン女子国際大会カデットの部56キロ級で優勝。2年生では60キロ級でジュニアクイーンズカップカデットの部で優勝するなど、頭角を現してきます。
友香子: 至学館に進む前、姉から「練習が今までにないくらいきつい」とは聞いていましたが、入ってみると強い先輩がたくさんいました。
梨紗子は自分の姉であることには変わりはないんですけど、レスリング選手としては立場の違いというか、かけ離れた存在でした。でも、その時その時の悩みを梨紗子に聞いてもらったりしながら、少しずつ「いつかは自分も先輩のように強くなりたい」という気持ちが出てきました。すべてはそこからですね。
チャンス、無駄にしない
――高校時代にオリンピックという目標ができたそうですね。そして昨年9月の世界選手権での銅メダルで五輪出場が内定。しかし新型コロナウイルスの世界的拡大で、1年延期になりました。
友香子: 延期が決まったときはショックな部分もあったんですけど、「準備期間が増えただけ」とプラスに考えるようにしました。
自粛中もウエイトトレーニングやランニングをしてきたので、体力が落ちているという感じはあまりしないです。
ステイホーム中はSNSで掃除の仕方を調べ、掃除する時間も多かったです。
――レスリングはわかりにくいという声も聞きます。
友香子: 経験した人でないとルールが難しい面があると思います。試合時間は6分あるのですが、最後の最後までどっちが勝つか分からないし、急に試合の流れが変わることもある。最後まで見てもらえたら試合中の駆け引きが分かってくるので、選手の動きを中心にじっくりと見てほしいですね。
――五輪に向けて、改めて今の思いを聞かせてください。
友香子: 初めて出るオリンピックが日本開催、しかも姉妹一緒に出られるという点で、すごくいろいろな思いが詰まった大会になると思います。つかんだチャンスを無駄にしないように一生懸命がんばって、梨紗子と一緒に世界一になれたらいいなと思っています。
●川井友香子(かわい・ゆかこ)さんのプロフィール
1997年8月生まれ。石川県津幡町出身。ジャパンビバレッジ所属。小学2年生でレスリングを始め、津幡中学校3年時にジュニアクイーンズカップ中学生の部48キロ級で優勝。至学館高へ進学し、2年生でジュニアクイーンズカップ60キロ級で優勝。3年生の全日本選手権決勝では姉と対戦し、0-10で敗退。至学館大時代は全日本学生選手権優勝など。2019年世界選手権で3位。趣味は手芸やピアス集め。
-
第1回レスリング川井梨紗子さん「吉田沙保里さん、伊調馨さんに近づきたい」 金メ
-
第2回「レスリングやめたい」と言えなかった少女は日本代表に 川井友香子さんが描
-
第3回レスリング川井梨紗子さんと友香子さん「落ち込んだままは、もったいない」
-
第4回警察官になって近代五種の道へ。スポーツ万能だけどキツイのはイヤ…。「母を
-
第5回近代五種の髙宮なつ美さん「2年延期なら競技をやめていた」 未来の自分のた