緊急事態宣言解除後「会社行きたくない」人が続出?変化のストレスと上手に向き合うポイントは(前編)
心身ともに在宅勤務慣れ。コロナでストレスフルな日々
――3月の学校一斉休校から東京五輪延期、政府による4月の緊急事態宣言、宣言の拡大から解除に至るまでこの間、生活がめまぐるしく変わりました。このような状況に、多くの人がストレスを感じているのではないでしょうか。
石澤哲郎さん(以下、石澤):2~3カ月という短期間のうちに、働き方や生活の仕方が変わり、心に負担がかかりやすい状況にあります。
「変化」というもの自体、大きなストレスです。心はストレスを感じると、初めは対処しようとします。しかし頑張っているうちに、疲れ果てて燃え尽きてしまう。
3月以降、私たちは生活の変化を強いられてきました。3月にはコロナの問題が大きくなり自粛や、「密閉」「密集」「密接」のいわゆる「3密」を避けることが求められました。そして4月以降は多くの人が自宅で過ごす時間が増えました。この時点で「1カ月頑張ろう」と思っていた人の疲れが、そろそろ出てくるころだと思います。
依然として、6月以降に「元の生活に戻れる」と考えている人がいることも心配ですね。コロナの感染が再び拡大する可能性が指摘される中で、「3密」を避ける生活や、大人数での飲み会ができない状況は続くなど、暮らしはそこまで変わらないと思います。
「5月末までがんばれば、普通の生活が戻ってくる」という期待があると、6月を迎えてもかつての日常を取り戻せない現実に直面し、失望してストレスを感じる可能性も高いです。
――会社員のなかには、3月から在宅勤務をしている人も多くいます。日本生産性本部の調査によると、コロナ収束後もテレワークを継続したい人が6割以上にものぼるそうです。ようやく在宅に慣れてきたいま、出社して仕事をする生活に戻ることはストレスにつながりませんか。
石澤:在宅勤務で、生活リズムや仕事の仕方が変わった人も多いと思います。
朝早く起きる必要がなくなり、周りに邪魔をされずに好きなときに仕事ができるようになった。会社にいるよりも自由に働けるといった声も聞かれます。
仕事の仕方に関しては、人とのコミュニケーションの量が減った人が多いでしょう。テレワークの方が働きやすいかどうかは、個々人の性格によるところがあります。黙々と仕事をすることが好きな人は、在宅が働きやすいと感じているようです。
出社するようになると、通勤時間を無駄と思ったり、色々な人と接することをストレスと感じたりするかもしれませんね。
職場や学校などといった集団生活を毎日送ることは、気を遣ったり、コミュニケーションを取ったりしなければならず、実は結構大きなストレスになっています。以前は「日常」だったので気づかなかったかもしれませんが、いざ集団生活なしの暮らしになってみたら、それが楽だと知ってしまった。一度解放されてしまうと、元に戻ることは以前よりも大変です。
約2カ月間の在宅勤務で、心身ともに在宅慣れした人の中には、宣言解除後の自粛緩和で、求められても出社できない人が多数出るのではないかと心配しています。
「通勤電車が不安」「化粧が面倒」 考え方を変えてみて
――私も会社自体は嫌いではないですが、毎朝混雑している電車に乗らなければならないと考えると、億劫に感じます。
石澤:電車は時差出勤などの導入で以前よりは混雑しないかもしれません。それでも、電車通勤は会社へ行くことのハードルを上げると思います。
電車に乗ることで、コロナ感染への恐怖心や、久しぶりの人混みのなかで感じる周囲からの視線に不安を感じる可能性があるためです。
いま、コロナの影響で多くの人が人混みを避けて生活しています。家にこもる生活に慣れてきたところで、突然人が多い場所に行くと、すごく緊張するんです。実際にうつ病で休職している人の中には、久しぶりの外出ですれ違う人の視線が怖いと感じ、サングラスをかけないと外出ができなくなる人もいるくらいです。
――女性の場合は化粧をすることも、出かけることを面倒だと感じる一因になりそうです。
石澤:人によりますね。生活リズムの変化やコミュニケーション不足から「在宅うつ」になった人には、「毎日化粧やお洒落をして、今までのように仕事をしてください」と私はアドバイスをしてきました。化粧をしていない疲れた自分の顔を見ると、気分が落ち込む人が多いんです。だから今までと同じ生活習慣を維持することで、うつ状態になるのを避けることができます。
一方、メイクが面倒で出社したくないと感じるとすれば、自分の中で会社に行くためのハードルを上げすぎているからでしょう。会社は仕事の対価を得る場所で、きれいに見てもらうために行くわけではないですよね。
職場に行くのが不安だという人は、優先順位が逆転していることが多いのかもしれません。化粧もそうですが、「電車に人がたくさんいる」「職場の人とうまく話さないと」など、働くという本質とは違う部分が気になってしまう。
メイクについて言えば、この状況下では身だしなみのハードルを下げ、手を抜けばいい。意外と周りの人は気づきませんよ。億劫になるようなことがあれば、それは本質ではないことに気づいてほしいですね。出社にまつわる面倒くさいことは、やれる範囲でやり、頑張りすぎずないのがいいと思います。
頑張りすぎは危険。ゆるく考えれば慣れていく
――自粛以前のように出社する生活を楽しみにしている人もたくさんいると思います。出社への意欲が高まりすぎて、ハイになってしまうという可能性もあるのでしょうか。
石澤:人とコミュニケーションを取りながら仕事をすることが好きな人は、出社したいと思っているでしょう。
在宅勤務は効率的だという声がある一方、会社の方がプリンターが使えたり通信環境が安定していたりして、働く環境が整っていることも事実です。また、自宅だと仕事に集中しづらいと感じている人もたくさんいます。出社して仕事をすると、職場の人と雑談したり、昼休憩をしたり、電車に乗ったりしますよね。実は電車に乗ることなどがリフレッシュになり、ストレス解消になっている人も多いんですよ。
出社することを前向きに捉えられる人には別の問題があります。それは「頑張るぞ」という気持ちが高まりすぎてしまうことです。元々気分の波が激しく、かつ出社したいと思っていた人は、一気にエネルギー切れしてしまう可能性があります。
「会社に行きたくない」と思っている人のなかにも、無理やり自分のテンションを上げている人がいると思います。でも本当は行きたくないと思っているので、家に帰るとぐったりする。これが何日か続くと、本当に出社がつらくなってしまいます。
――「頑張るぞ」と気張りすぎないことが大事なのですね。
石澤:環境が大きく変化するときは、あえて自分が変わりすぎないようにすることが重要です。緊急事態宣言解除に伴う自粛の緩和は大きな変化ですが、それに無理に適応しようとするとストレスが非常に大きくなってしまいます。頑張りすぎも良くないですし、後ろ向きに考えることもエネルギーを消費します。
外出自粛の際にも、徐々に慣れた人が多かったと思います。同様に、外に出られるようになって再び出社するようになる時も、最初は大変かもしれません。
でも、それまで何年も同じように通勤や出社を続けてきたわけですから、慣れれば元に戻ります。
大切なのはゆるく考えて、自分を追い込みすぎないことです。できる限り自分の気持ちはフラットな状態に保ち、その場その場でやるべきことに対応していく――。そう思っていれば、ちゃんと慣れていくものです。
自然と「頑張ろう」と思いがちだからこそ、意識的にその気持ちを抑えていただきたいですね。
●石澤哲郎さんのプロフィール
産業医事務所セントラルメディカルサポート代表。企業30社以上の顧問を務め、休復職対応や長時間労働対策、健康経営推進に取り組んでいる。著書に『心療内科産業医と取り組むストレスチェック集団分析 職場改善への活用手順と実践例』(第一法規)など。
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