グラデセダイ

【グラデセダイ31 / 小原ブラス】見た目は外国人、育ちは日本の僕に「国へ帰れ」と言わないで

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。タレントでエッセイストの顔も持つ小原ブラスさん。長く日本で暮らすブラスさんが初対面の方に聞かれて困る質問とは?

●グラデセダイ31

「日本のどこが好き?」と聞かれて困るワケ

「日本のどういうところが好きですか」
「日本に住んで困ったことはどんなことですか」

これは僕がこれまで生きてきた中で、受けた回数の多い質問トップ10に入ること間違いなしの質問だ。初対面の外国人に会って話すことがない時に、何の悪気もなくする質問だろう。だけど、これは僕にとっては最も答えづらい質問のひとつでもある。

日本のどういうところが好きかなんて分からないし、日本に住んで困ったことなんてない。なぜなら僕は物心がついた頃からずーーっと日本に住んでいる、第一言語が日本語のロシア人だからだ。同年代の日本人と同じように、僕は日本の幼稚園、小中高の学校に通い、同じように就職し、同じように「日本の何が好きか」なんて考えずに生きている。そもそも、自分が育った国を好きであるのに理由なんて必要あるのだろうか。自分の育った国なのだから、好きなのは当たり前だ。

得したこともあるけど……

それでも、僕のように見た目が外国人である人が「日本の好きなところは特にない」と答えると、すごく印象が悪い。そんな風に答えたら相手は「ひょっとして反日外国人?」という目で見てくるのだ。だから「みんな親切だ」とか「街がきれいだ」とか、ほかの外国人から聞いたことのある言葉を真似して答える。すると相手も「あぁ~やっぱり!そうなんだ!」と満足げに喜んでくれるのだ。

もちろん、それで得してきたことも多い。外国人タレントとしてテレビに出られるようになったのは、その中でも1番得したことなのではないかと思っている。外国のことを知らなくても、僕が言えばみんな「あぁ、外国人はこう思っているんだ」と思うようだ。本当はただの個人の意見なのだけど……そんな罪悪感も多くあったので、外国人情報で嘘だけは言わないように、積極的に外国人のコミュニティーに入り日々、直接の外国人からの意見を聞くようにしている。

もしも本音で「日本に住んで大変だと思うこと」を答えていいのであれば、それはハッキリと決まっている。それは日本の文化の特殊性や、ご近所トラブル、考え方の違いなどにまつわるものではない。僕にとって1番大変なのは僕が話すこと全てが「外国人が言っている」と見られることで、僕の言葉に余計な意味合いが乗っかってくることだ。

この不満はどこにぶつければいいのか

よく「ブラスさんは、言葉を選んで話をしますよね。とても配慮を感じますよ。」とメッセージをいただくことがあるが、僕は配慮をしているのではない。日本で長年生活する中で、自分を守るために、無意識に話に予防線を張る術を身につけてしまっているだけなのだ。

誰もが生活の中に不満があると思う。例えば「ご近所との交流が面倒くさいなあ」とか「ああ、今月も税金高いなあ」とか、日本人もよく口にしているのを聞く。昔、僕がTwitterに「みんなご近所から見られる目を気にしすぎじゃない?もっと自分の好きなように生きたらいいのに」と近所付き合いに関する愚痴を呟いたことがある。その時に「日本では近所付き合いは大切な文化なんです。ロシアでは違うかもしれませんが、その価値観を押し付けないでください」とすぐに返信がきた。もしも僕が日本人であればそんな返事はきたのだろうか。
日常の不満や鬱憤を言う時に、日本の人と同じような感覚で言ってしまうと、外国人が日本に文句をつけている、外国の価値観を押し付けようとしているように見えるようなのだ。そして最後には「嫌なら国に帰れ」これだ。

この「国に帰れ」にすごく違和感を覚える。なぜなら僕はこれまでロシアに“行った”経験はあっても、“帰った“経験がないからだ。僕の感覚ではロシアには“行く”だし、ロシアから日本に“帰る”だ。ロシアから日本に帰る時、飛行機がユーラシア大陸を離れ、日本海を通り、新潟上空にさしかかった時、地上に田んぼ広がっているのを見ると、この上なくほっとする。“帰る”の基準は人それぞれだけど、少なくともホッとできる場所が、帰るべき家なのではないのだろうか。

そもそも、仮に僕がロシアに”帰った“として、僕は満足できる訳ではない。僕が何の不満もなく生活できる国がこの世にひとつでもあれば教えて欲しいくらいだ。生きている限り、何かに不満は絶対あるのだ。

もちろん「ロシアではこうなのに日本ではこうだ。遅れている日本もロシアみたいにこうしろよ」なんてことを言う外国人は僕も苦手だ。まさに「(そんなに満足できるのなら)自分の国へ帰れよ」と思う気持ちになる。そして僕が不満を言うと、そのように言っているようにどうしても見えてしまうのも分かる。でも、どこかで不満を言いたい!

自分の生まれた国で、その国の不満を言えば誰も文句言わないんじゃない?と思うかもしれないけど、実はそんなことはない。ロシアで不満を言うと今度は「日本で育ったからって外国の価値観を押し付けてくるな」と言われるのだ。僕ら、子供の頃から海外で育った人にとって、生活の不満を好き放題言って許される場所はないのだ。

だから、何が大変かと聞かれたら、外国人として得をすることも多い反面、どうしてもそこを我慢するしかないところ、というのが本音の答えだ。たまたま人生がそんな環境に置かれてしまったからこそ、何度も何度も失敗をくりかえしながら、僕は話に予防線を張る技術を高めていきたいと思う。

ちなみに今僕は、日本に帰化をしようとしている。帰化をしたら本音で愚痴を言ってもよくなるのだろうか。その部分で何か変化があるのかが楽しみだ。

今回は僕のくだらない愚痴に付き合っていただいて、ありがとうございました。

1992年生まれ、ロシアのハバロフスク出身、兵庫県姫路育ち(5歳から)。見た目はロシア人、中身は関西人のロシア系関西人タレント・コラムニストとして活動中。TOKYO MX「5時に夢中」(水曜レギュラー)、フジテレビ「アウトデラックス」(アウト軍団)、フジテレビ「とくダネ」(不定期出演)など、バラエティーから情報番組まで幅広く出演している。