銭湯とクラブの共通点に見る、心地よい自分でいられるサード・プレイス

ITソリューションを提供している企業で広報として働くmoemikiさんは、銭湯とクラブというまったく違った空間に共通の“癒やし”を見出している。その居心地のよさの秘密は「属性からの解放」だという。広報活動の最前線で活躍する100社100名の担当者が集まる「若担会」のメンバーが、仕事や生活の現場でふと考えた日々の思いをつづります。

銭湯のよいところはみんな全裸なところ

銭湯が好きだ。
清潔なカランが並ぶ奥にいろいろな温度の湯舟があって、天井が高く、見上げると壁に富士山が描かれている。ちゃちゃっと髪と体を洗い、熱いお湯にじっくり浸かったあと、ぬるめの水風呂に入ってまずは120まで数える。それからもう数えるのもやめて、気が済むまで水の中で体を泳がせる。そうすると水の音がだんだん大きくなってきて、ケロリン桶のぶつかる音やほかのお客さんの話し声なんかはまったく聞こえなくなる。このポイントまで来たら満足して、少し休憩してからまた熱いお湯に入るのだ。サウナも好きだけれど、半年ほど前からこの「交互浴」にハマっている。

銭湯のよいところはみんな裸なところだ。こういうと語弊があるけれど、言い換えるならば「みんな付属物を脱ぎ去っているところ」だろうか。普段どんな服を着ているのか、どんな化粧をしているのか、どんなヘアスタイリングをしているのかは何もわからない。職業は何か。パートナーはいるのか。そんなこともお風呂ではどうだっていいことで、付属物を最小限まで脱ぎ去った「名もなき個」たちが並んで体を洗い、同じ湯舟に浸かっている様を眺めていると、自分もそうした「個」の1人であることに気づく。そしてお風呂特有のリバーブも相まって、なんとなく安堵するのだ。

クラブでは「属性」を確認しなくていい

銭湯とクラブのフロアは似ていると常々思っている。最近は外出自粛で残念ながらご無沙汰なのだが、私はベースミュージックが好きで渋谷や幡ヶ谷のクラブによく足を運び、銭湯にいるような安心感で踊っている。フロアの暗さも重要で、真っ暗で演者の姿しか見えないようなフロアだとより安心していられる。誰も私のことなんて気に留めないからだ。音だけがその空間に必要なもので、それぞれが音に身を任せ、お酒を飲み、ときどき歓声を上げる。銭湯のように、ここもまた「名もなき個」でいられる場所なのだ。

とはいえ、週に何度もクラブに通っていると顔見知りが増えてくる。久しぶり、この曲めっちゃいいね、なんか飲みますか、という具合に話が弾む。けれど、不思議と年齢や職業については話題に上らない気がする。幅広い年代の人が集まるし、職業も多岐に渡りすぎているからだろうか。いくつなの?何してる人?のような「属性の確認作業」はこの場所では必要ないのだ。音楽が媒介になっているからかもしれない。もちろん仲良くなるにつれて、それぞれのプロフィールはなんとなく見えてくるけれど、見えていなくても、まあそれでいい。「それでいい」のが心地よく感じる。

「個」が「個」のままで集まれるフロア

私がいわゆる「クラブ」に初めて足を踏み入れたのは2015年、大阪・アメ村の「サーカス」という“箱”だった。イギリスのMassive Attackのメンバー・Daddy Gが来日してDJすると聞きつけ、恐る恐る1人で行ったのを覚えている。

Daddy Gは冷え冷えとしたブリストルサウンドかと思いきやレゲエ色の強いDJでとても楽しかったし、それよりも衝撃的だったのがDaddy Gの後に続いたD.J. Fulltonoさんだった。フルトノさんは日本のジュークシーンを代表するDJ。ジュークは簡単に言うとBPM160の高速ビートで三連符を多用するシカゴ発祥のダンスミュージックで、当時の私はそんな音楽をまったく聴いたことがなかったので、面食らってしまったのだ。とりあえず「この人すごかった」と動画をSNSにアップして家路についた。

この夜がきっかけで、フルトノさんがTwitterで丁寧に音源を教えてくださったこともあって、ぽつぽつと「サーカス」や京都「メトロ」の深夜イベントへ通うようになった。すっかりジュークをはじめとするベースミュージックが好きになって、今に至るのだ。

クラブのフロアは不思議で、仲の良い友人が集まっていたとしてもそれぞれが「個」でいることを許してくれる。音楽を聴いている「個」が大勢いる、という状態がベースにあって、時に一緒に盛り上がったり喋ったりするのだ。こんな関係性が私にとって心地いい。

調べてみると、こういう自宅でも職場でもない心地良い場所を「サード・プレイス」というらしい。Facebookのプロフィール欄みたいな「属性」がなくても他者と分かり合えて楽しめる場所は、職場起点になりがちな人の視野を広げるきっかけになり、ちょっとした逃げ場所にもなる。違うフィールドで友達を作るのとも少し違って、必ずしも人と出会う必要はない。1人で心地よく過ごせたらそれでいいのだ。

現在は多くのクラブが営業自粛を余儀なくされており、クラブカルチャーを愛するひとりとして心苦しく感じている。少額ながらクラブへ寄付し、またフロアで踊れるようになるのを待ち望む日々だ。一方で無観客でのストリーミング配信も各所で始まっていて、バーチャル空間でのクラブのあり方が模索されている。リアルな場所には行けないが、バーチャルで行ける場所もある。属性から解き放たれる、あなたにとってのサード・プレイスを探してみるのもいいかもしれない。

1986年に立ち上がり、30年以上の歴史を持ち、広報活動の最前線で活躍する100社100名の担当者が集まる「広報担当者による、広報担当者のための会」です。広報パーソンとしてのスキルアップ、活きた情報の収集、会員相互間およびマスコミ関係者との人的ネットワークの形成を目的に、日々切磋琢磨しています。
若手広報担当者のつぶやき