「誰かと乾杯できれば、それで幸せ」アメリカの日本酒オタクに広まる、オンライン飲み会

にわかにブームとなった「オンライン飲み会」。アメリカにいる日本酒好きたちのあいだで、とある動きが始まっています。カリフォルニア州ロサンゼルスに住む宮城幸子(みやぎさちこ)さんは、日本酒の専門学校で講師を務めるほどの無類の酒好き。自宅待機命令(Stay-at-home order)が続くロサンゼルスで「外に出られなくてもみんなと乾杯したい!」という宮城さんの願いを叶えた、「バーチャル乾杯」について聞きました。

「正直、やってられない!」ロサンゼルス都市封鎖の今

――アメリカでは3月13日に「国家非常事態宣言」が出され、3月19日にはカリフォルニア州知事が「自宅待機命令」を発令しました。今のロサンゼルスでの生活はどうなっていますか。

宮城幸子さん(以下、宮城): 基本は「家にこもって、他人に近づかない」です。生活を維持するのに不可欠な業種の仕事や、個人の食料品の買い出しなどであれば外出してOKですが、人と接触するときは必ず6フィート(約1.8メートル)以上離れなければなりません。

また、10人以上の集会が禁止になり、レストランやバーでの店内飲食営業はすべてストップ。イスやテーブルすら置かれていません。一時的に法律が変わり、レストランが食べ物のテイクアウトを始めただけでなく、バーでもカクテルなどのお酒を持ち帰れるようになったりと、各店が工夫を凝らして今の状況をしのごうとしています。

私の感覚だと、「じわじわと不安が広がった」日本に比べて、アメリカは「全員が突然、大ピンチになった」という感じ。短期間で感染者が急増して、街が封鎖されて、いろんなことが急ピッチで変化しました。

日本酒スクールで講師をしている宮城幸子さん。コロナの影響で授業も中止に。

――当然、お仕事にも影響が出ますよね。

宮城: 私の仕事は、ロサンゼルスにある日本酒スクールの講師です。ワインでいうソムリエのような、日本酒と焼酎の国際的な認定資格を取得するための講座を開いています。

今回のことで、スクールでの授業は当然中止になりました。急きょ自宅で普段の仕事をしたり、会議をビデオミーティングに切り替えたり、オンライン講座の準備を進めたりと、イレギュラーな対応が続いています。ストレス解消に飲みに行きたいのに、人と集まって飲むこともできない。……もうね、正直、やってられません(笑)。

「とにかく誰か一緒に飲もうよ!」とFacebookで呼びかけたら、すぐに私の同僚や同業者、飲み仲間などがコメントをくれました。試しにビデオ通話で「バーチャル乾杯」をやってみたところ、20人くらいが集まったんです。

20人参加の「オンライン飲み会」の進め方

――「バーチャル乾杯」というのは?

宮城: みんなが一斉にビデオ通話で、「Kanpai!」と言って酒を飲む。新しい人が参加してきたら、そのたびに何度でも「Kanpai!!」って(笑)。

参加者は何を飲んでも自由ですが、私のまわりは日本酒ギーク(オタク)ばかりなので、日本酒を飲む人が大半でした。みんな酔ってくると、好きな酒蔵や酒米(さかまい/日本酒の原料となる米の品種)の話題で盛り上がったりして。

ただ、その時の最大の失敗は、ホストである私が完全に酔っ払って気持ち良くなってしまったこと。翌朝になって反省したものの、参加した人からは「エンターテインメント性が高くて、すごく良い会だったよ!」と言ってもらえたので、すぐに2回目を企画しました。

――オンラインでの飲み会は、全員が同じ話題に参加することになるなど、リアルよりもコミュニケーションのハードルが上がる印象です。3~4人ならともかく、どうやって20人で会話するのですか?

宮城: たしかに難しさもあります。20人以上だと、全員の顔が画面に映らない時もあるので、今誰がしゃべっているのかわかりにくいんです。

そこで、参加者全員に「ひとり5分程度」の持ち時間を作ってみました。ログインした順番に「自分が誰で、どこにいて、今何を飲んでいるか」を話していきます。それをGoogleのスプレッドシートにまとめて、リアルタイムで閲覧できるようにしました。

とはいえ、全員がつねに画面に張り付いているわけではありません。仕事しながら話を聞く人がいたり、途中で席を立ってコーヒーをいれに行く人がいたりと、基本的にはゆるゆるのコミュニケーションです。

友達が司会進行役をやってくれて、私が参加者一人ひとりに声をかけるMCみたいなことをして、初回よりスムーズに会が進みました。

アメリカの酒蔵を巡るバーチャルツアー

――開催2回目で、バーチャル乾杯の「型」ができたのですね。

宮城: そうなんです。そこで3回目は「バーチャルSAKEブルワリー(酒蔵)ツアー」を企画しました。

日本酒ブームともいわれるアメリカでは、個人経営で日本酒を醸造する「マイクロブルワリー」が増えつつあります。コロナ騒動の前に飲み仲間たちと行く約束をしていたブルワリーがあって、キャンセルするのが嫌だったので「オンラインでやってみよう」ということに。カリフォルニアにできたばかりの酒蔵と、ニューヨークのブルックリンにできた酒蔵に協力をお願いして、ビデオチャットで蔵の中を案内してもらいました。

参加者たちはその映像を見ながら、日本酒をつくる職人の「杜氏(とうじ)」に質問できます。最初から最後まで、参加者みんなで「Kanpai!」しながらのバーチャルツアーです。

――バーチャル乾杯の一番のメリットは何でしょうか。

宮城: みんなと同じ時間を共有できること。私がここまでやるモチベーションはたったひとつで、誰でもいいから私と一緒に乾杯してほしい(笑)。

興味を持った人は誰でも参加できるようにしたところ、アメリカ全土や日本、フランス、オーストラリアなどいろんなところからゲストが来てくれました。私はみんなと面識がありましたが、直接話すのは初めての人もいたし、もちろん参加者同士は面識のない人がほとんどです。

つまり、外出禁止で今会えないというだけでなく、そもそも遠くに住んでいて会えないとか、これまでまったく知り合う機会のなかった人たちが、「お酒」を通じてひとつの場所に集まるんです。これって本当にすごいことで、私がずっとやりたかったことでした。

――では、あえてデメリットを挙げるとしたら?

宮城: ハグができないところ。あと、グラスを合わせる「チン!」の音が聞こえないのもさみしいですね。逆に言えば、それ以外は普段のコミュニケーションとあまり変わらない気がします。

テクノロジーを使いこなす難しさはありますが、多少うまくいかなくても、お酒はおいしい。酔っぱらえれば大体ハッピーです。

●宮城幸子(みやぎ さちこ)さん のプロフィール
米アラスカで生まれ、子ども時代を日本で過ごした日英バイリンガル。ワシントン大学在学中に日本料理店でアルバイトしたのがきっかけで日本酒の魅力を知る。2018年から、ロサンゼルスで日本酒や焼酎などの教育プログラムを展開する「サケ・スクール・オブ・アメリカ」で、日本酒スペシャリストとして講師を務める。

「バーチャル乾杯」では今後、アメリカと日本の酒蔵を紹介していく予定。基本は英語だが日本語通訳もあるので、興味ある方は同校のFacebookまたはウェブサイトにご連絡を

ことりと暮らすフリーランスライター。米シアトルの新聞社を経て、現在は東京を拠点に活動中。お坊さんやお茶人をよく追いかけています。1984年生まれ、栃木出身
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