ソムリエが教える 家飲み×コンビニ ワイン術 06

【連載】油と酸味で一挙解決 フランス産ボルドー×サバ缶

身近なコンビニやスーパーでも安くてそこそこ美味しいワインが手に入るようになりました。でもワインのお供のフードまでは、なかなかピンとくる出会いがないのではないでしょうか。『男と女のワイン術』の共著もある銀座のワインビストロのオーナーソムリエ兼シェフが、身近に手に入る食材とリーズナブルなワインとで、ミレニアル世代も納得の“マリアージュ”を、ちょっぴり科学的に提案します。

コンビニやスーパーで手軽に買える食べ物と、こちらも気軽に手に入るワインとの相性を、基本的な考え方に照らしてお話してきた連載も6回目となりました。ジャガイモ料理、牛肉料理に続き、今回は魚介類とワインとの相性を見ていくことにしましょう。

皆さん、家で魚を食べるときはどんな料理が多いですか?お刺身のパックをそのまま食卓に並べたり、スーパーで買ってきた切り身を煮たり焼いたりして食べることが多いかもしれませんね。こうした「中食」と呼ばれるパックの刺身や調理済みの魚料理を食べ、ワインを飲んだとき、実は不快に感じる場合があります。
ワインと付き合う上で知っておいた方がよい、魚介類とワインの「不相性」を体感してみましょう。

まずコンビニでスルメを買ってきて下さい。そしてワインは赤、ラベルにBordeaux(ボルドー)と書かれたワインを用意してください。これはフランス産で、900〜1200円くらいでたいていの店に置かれています。

そうしてスルメをよく噛んで味わいが出たところで、ボルドーを一口、飲んでみて下さい。いかがでしょう、生臭みや苦味が感じられませんか?これが「不快な感覚」です。

魚料理に甲州ワインが合う理由

西洋では以前から、特定の魚料理とワインが合わないことは知られていて、文献にも記されていたそうです。これは口の中に人間が臭いと感じる成分である、「(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール」が発生するからだということを、近年、日本のメーカーが研究で突き止めました。魚の中に含まれる「不飽和脂肪酸」が、調理や保存の過程で酸化(劣化)して「脂質過酸化物」になり、それにワイン中の鉄分が作用するとさらなる化学変化がおき、口中でこの不快成分が発生するのだそうです。
発生の詳細は後述の参考記事を読んでいただくとして、ワインと魚介類の相性に関するポイントは次の2つ。

1.魚の鮮度がよいと、脂質過酸化物が少ないため、ワインを飲んでも生臭みがない(あるいは少ない)ことが期待できる

2.ワインに含まれる鉄分が、生臭み成分の発生に関わっているため、鉄分のないワインならば生臭みは抑えられる

ということで、魚介類には鉄分の少ないワインを合わせるのがよいことが分かりました。日本産ワインには鉄分が少ない“傾向”があり、とくに日本の「甲州」というブドウから造られるワインには鉄分が少ないという調査報告があるようです。これは興味深いですね。
ところで、西洋では魚料理に合わせてワインを飲んでいますよね。先の日本のメーカーも、「ワインをよく飲む国々の魚料理にはバターや生クリーム、オリーブ油がたっぷり使われている」ことに目をつけて研究したところ、次のような発見をしました。
・ワイン中の鉄分と魚介の組み合わせで生臭みが発生しても、油を使っていれば生臭みは感じにくくなる
なるほど、確かに西洋の人々は、バターで焼いたり、クリームで煮たり、生魚にもオリーブ油をたっぷりかけて食べています。さっそく、これらも「実験」で確かめてみることにしましょう。

サバ缶とワインの“マリアージュ”?

まずコンビニの缶詰コーナーにある「サバ水煮缶」を準備します。今回は300円くらいのものを用意してください。ワインは先程スルメを試したのと同じ、ボルドーです。次に、開けたてのサバを食べてボルドーを飲んでみてください。

いかがでしょうか? スルメのときのような不快な臭いはないかと思います。サバには不飽和脂肪酸が含まれていますが、開けたては脂質過酸化物になっていないのか、生臭み成分の発生が起きないようです。サバの腹身のところは脂が乗っていますから、赤ワインの渋味で脂が洗われて、むしろ心地よいくらいです。

ところがこのサバの水煮、開けて時間が経ったものを食べてボルドーを飲むと、スルメのときと同じような生臭みや苦みが出てきます。私が過去にセミナーを開いたときにも、同じくサバ水煮缶でボルドーを試してもらったのですが、開けてから時間が経ったものを試したグループと、開けたてを試したグループとで、相性を○△×で票決した結果に違いが出ました。缶詰を開けてから時間が経ったサバの水煮は、空気に触れて酸化し、脂質過酸化物になってしまっていたようです。

サバ缶は開けたてのものしかワインと合わないのでしょうか。ここでちょっとしたワザを効かせましょう。油があれば生臭さを感じにくいはずと考え、「マヨネーズ」をかけてサバを食べ、ボルドーを飲んでもらったところ、時間が経ったサバを食べたグループの×が○にひっくり返るくらい相性が改善されました。

マヨネーズは油だけでなく酢も入っていますから、開けたてグループで△だった人も○に評価を変えました。ボルドーの渋味がサバとマヨネーズの油を中和しただけでなく、食べ物とワインの酸味同士の重なりで○が増えたと考えられます。

(サバ缶+マヨネーズ)×ボルドー=マリアージュ!と言ってよろしいでしょう。

コンビニで売られている魚介類関連食品には、魚のすり身を加工したいわゆる「練り物」や、同じサバでも「味付け」「味噌煮」といったもの、また惣菜コーナーに並ぶ焼き魚などがあります。これらは生臭さが出る場合があること、そして砂糖の存在ともあわせて、あまりワイン向きであるとは言えないでしょう。ただ、お弁当のおかずに入っている白身魚のフライは良さそうです。タルタルソースの小袋が付いているのはワインにとっては“歓迎”と言えますね。
今回は魚介類とワインの関係をお話しました。鉄分が少ないと思われるワインの銘柄は記憶しておくとよいですし、素材の鮮度や、調理・味付けに油を使うことを頭のなかに入れておくと、よりワインを楽しむことができます。

【参考情報】
世界が注目!魚介とワインの組み合わせで発生する生臭い「におい」のメカニズムを解明|研究クローズアップ|研究開発|キリン
http://www.kirin.co.jp/company/rd/result/closeup/02.html

ワインと魚料理の相性
酒類綜合研究所情報誌平成25年3月1日No.3お酒のはなし特集ワインⅠ内PDF8/8ページ
http://www.nrib.go.jp/sake/pdf/SakeNo03.pdf

芝浦工業大学工業化学科卒。人工サファイア製造メーカーに勤務時のフランス出張でワインに目覚め、29歳で転身。2000年に銀座に「わいん厨房たるたる」を開業。オーナーソムリエ兼シェフ。趣味はワインのブラインドテイスティング(利き酒)。 共著本に「男と女のワイン術」(日経プレミアシリーズ新書)
出版社に勤務中、定時に帰宅できる部署に異動になったのを機にワインスクールに通い始め、ワインにハマる。2019年3月、出版社を退社。現在はライター業の傍ら、ワインバーを開く夢に向かって飲食店で修業中。
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